救済編:Kyrie eleison(主よ、憐れみたまえ)
フェナ・ドルエフは、新作の「天才魔法使いシュナは魔王フェナと恋人になる!」に出てくるキャラクターのパラレルワールド(主軸)の姿です。
とある世界。
教会の神父が一人居た。小さな街の、小さな教会。名を、フェナ・ドルエフという。
彼は神の敬虔な信者だった。上の部分が銀色、下の部分は赤色の珍しい色の瞳を優しく閉じて、毎日祈りを欠かさない。銀色のボブより長いくらいの髪を揺らしながら教会の掃除をし、迷える子羊の相談にも乗る。
彼には重い悩みがあった。それは、妻と娘の病気である。長い間病に悩まされ、もう金もない。毎日毎日、来る日も来る日も神に祈ってきた。しかし、娘と妻の病気が良くならなかった。
そしてある日、妻と娘は、立て続けに息を引き取った。
フェナは己の不甲斐なさに、静かに涙を滲ませる。
治療費でお金はない。貧しい教会にお金は入らない。
もう飢え死ぬしかなかった。
骨の見える、やせ細った体躯。頬は痩け、髪はバサバサだ。
(あぁ、祈りは神に届かなかったのですね…。)
「あぁ…我が神よ、なぜ私をお見捨てになったのですか…」
か細い言葉が床に落ちる。
体が、ゆっくりと、倒れる。
フェナは悲しみの中、亡くなった。
それを見ていた、1人の女神がいた。女神は男が死んだのを確認すると、男に神力をかける。そして、体を翻して白く光る門の中に入って消えてしまった。
〜〜~
フェナは目を覚ます。
「……?」
目の前には、自分をのぞき込む妻と娘がいた。
「パパ!」
「貴方!」
寝たきりだった2人が。なんと、頬に血色感を宿して、目の前に立っている。
「……ここは、天国ですか?」
「ううん、違うよ!」
声がした方を振り向くと、銀髪に青眼の、神々しい女神が立っていた。
「皆の幸せが私の幸せ!シュナだよ!」
キュピーン!と音がした気がする。シュナは、懐かしいお決まりのポーズを取った。
「私はこの世界の最高神の1人、シュナだよ!君の世界から君達を連れてきて、生き返らせたの!健康にしてね!」
「そ、そんな……!!僕の祈りは、貴方に届いていたのですか……っ」
「うん!!異世界の細かいことは異世界の神様がやるんだけど、君の世界の神様があまりにも怠慢で、目に余ってね。上司として叱るついでに、祈りの件数が1番多い君を真っ先に救いに来たの!」
シュナは全く仕方ないというふうに、肩を竦めた。
「左様でしたか……まずは、心の底から感謝を申し上げます。ありがとうございます」
フェナは心の底から感謝して、頭を深く下げた。妻と娘も、頭を下げる。
「うん!奥さん達も連れてきたから、一緒に住んだら?お家くらいは買ってあげるし、しばらくの生活費も免除するよ。ただし、私のお願いを聞いてくれるならね!」
「何でも聞きますとも。我が忠誠は貴方様に捧げます」
フェナは優しい目で、微笑んだ。
「うん!ありがとう。まず、この世界では、うちの教会の神父として生きてもらうよ!そして、次が大事なんだ。私、今度から新しい世界を作るんだけどね……」
「新しい世界、ですか。それはまた広大ですね」
「うん。その世界で、魔王をして欲しいんだ!」
「ま、魔王……?」
「うん、魔王!」
フェナはびっくりして固まってしまった。現在脳内で情報を処理している最中である。
神父というのも別に代わりがいない訳では無いのだが、前職が神父なら馴染むだろうなと思ってそうした。
「え、パパ!魔王になるの?」
「あら、パパが魔王に……ふふ、面白いのね」
娘と妻は特に反対しないらしい。2人とも楽しそうにしていた。
「私の世界でも、沢山の種族を作るんだけど。中でも人間と関わらせたいのが、魔族。私はこの世界の魔王と仲がいいからね!悪魔とか魔族とかが好きなんだ。だから、彼らの代表として、君を指名したい!!どう、引き受けてくれる?」
「……驚きはしましたが。謹んで、拝命致しまょう」
フェナは胸に手を当てて、片膝を着いた。
「ふふ、やっぱり君はいい子だね!君となら新しい世界を運営するのも、成功しそう!」
「はい。全能の神の我が主……全ては御心のままに」
「よし!これで決まりだね!ありがとう!魔族になるに当たって性格は多少変わるかもしれないし、記憶も受け継がないし、思い出すにしても条件をつけると思う!よろしく!とりあえず、奥さん達と積もる話もあると思うから、少し席を外すよ!紅茶とお菓子置いとくからね。1時間したら戻ってくるから!その後は物件探し!」
「承知しました」
怒涛の情報量だったが、フェナには問題ないらしい。
シュナは席を外し、フェナは妻と娘と涙を流しながら談笑した。病気の時は暗かった妻の表情も、今は花がほころぶような笑みが咲き誇っている。
たっぷり1時間話した後、シュナは戻ってきた。
「お話はできたかな?まぁこれから3人は一緒に住むから、いつでも話せるんだけどね!じゃあ、物件探しに行こうか!いくつから見積もってはあるから、その中から選んでもらうね!」
「承知しました」
シュナが選んだ物件はどれも素敵で、フェナ達は迷うことになった。が、妻と娘が気に入ったところに決まった。
「それから、君が働く教会も案内するね!すぐ近くだよ!」
すぐ近くというか、どこの家になろうがそこから一番近い教会を選んだので、近いに決まっているのだ。
「おぉ……立派な教会ですね」
ロココ調の、ピンクと白を基調とした教会。可愛らしくて上品だ。シュナの像も立っている。
フェナはその立派さから、シュナ教の資金力を感じたのだった。
そうして、シュナの頼もしい味方が手に入ったのであった。




