one more time, next life〖完〗
次回作(既に書いて出している)(天才魔法使いシュナは魔王フェナと恋人になる!
https://ncode.syosetu.com/n2710kp/)に繋げる話です。
もう1作アポロン(+稀花+??)×シュナ関連で出すつもりです。
なう(2025/11/09 13:04:23)
追記:イラスト追加しました!
心地よい日が続くこの頃。シュナはアポロンと一緒に、ピクニックをしていた。
風は涼しいが、長袖1枚あれば過ごせるくらいだ。柔らかい東風が、2人の髪を撫でた。
青い芝生は柔らかい。朝露は既に乾き、青々とした姿を存分に晒している。
「お日様あったかいね!アポロンのお陰だ」
「ふふ……そうだな。いっそシュナだけを照らしていたい」
「うちのお花も照らしてね、咲かないと悲しいから」
「分かった」
座っている2人は肩を寄せ合って、お互いに体重を預けている。アポロンからは金木犀の香りが、シュナからは真っ白な石鹸の香りと少しフローラルな香りがした。
2人の髪が太陽を受けて煌めく。
穏やかな日だった。
ふと、シュナは預けていた体を立たせ、背筋を伸ばした。猫が膝から降りるように、突然。
どうしたんだろう、とアポロンがシュナの方を見る。
シュナは口をもごもごして、言いづらそうにした。
「何か言いたいことがあるのか?」
「うん……あの……実はね……」
「うん」
シュナは暫くもごもご小さく、あー、とか、うーん、とか呟いていた。その間もアポロンは何も言わず、優しい瞳でシュナを見つめて待っていた。
そして5分ほどした頃に、やっと決心がついたらしい。申し訳なさそうな顔をしながら、シュナはスカートの裾をギュッと握り、手に汗をかきながら、やっと言い出した。
「私、転生しようと思うの」
「……は?」
「えと……新しく描きたい未来ができたから。あと、新しい世界を担当することになってて。こっちにも分身は残すけど、本体はお墓に綺麗に安置しようかなって。だから、」
「ちょっと待て。死ぬってことか?」
「うーん、まぁ、そんな感じ」
アポロンの顔から、感情が抜け落ちた。たった一つの光を失いそうなのだから。その顔はまるで亡霊のようだ。
「有り得ない。お前が居ない世界なんていらない。お願いだ、考え直してくれないか」
「うーん……私も結構悩んだんだけどね。まぁいつでも戻ってこれるようにはしとくからさ!人生は旅っていうし、少し旅行するだけだよ」
「だけどな、シュナ。次の人生を歩むってことは、そこで新しい恋人も出来るわけだろ?俺以外がシュナの恋人になるのなんて許せないし、その清らかな肌に誰かが触れるのを考えるだけで、気が狂いそうだ」
「私もアポロンに他の人が触れるのは凄くヤダけど……」
「なら、俺の気持ちも分かるだろ?」
「うーん……」
「頼むよ……お前がいないとダメなんだ、俺は。生きていけない」
「そうだよねぇ……」
シュナも、酷なことを言ったかな、と思い直した。
「そもそも、なんでそんな事を思いついたんだ?」
「え、えと……」
シュナは頭の中で反芻する。
こちらでの生活が一段落ついたから。新しい生活をしたい。新しい世界に旅立ちたい、と思ってしまうのは、ワガママだろうか。まるで自立していく思春期の子供の様で、あまりにも、周りの悲しみを鑑みなすぎるだろうか。
「それは、あんま言えないけど。やっぱり早計だったかな。もう少し考えるよ」
「……。そうしてくれ」
「うん」
なんとなく不穏な空気を残したまま、2人は秋の穏やかな、しかし明るい太陽に照らされていた。
不穏だが、しかし、シュナはまた口を開く。
「えと、だからね。いつでも転生できるように、生前葬をしようと思って」
「……ふぅ。まだそんなことを言うのか?」
「え?」
「言ってるだろ、シュナがいない世界に意味は無いって」
アポロンはすくっと立ち上がる。シュナはその姿を目で追う。見ると、その手には小さな太陽の炎。
その目に光はない。しかし、真っ黒な炎が、彼の瞳の中で燃え上がっている。
「シュナ、俺は今からこの世界ごと、お前を壊すから」
「え!?」
「シュナが転生を選ぶなら、その隙も無い間にシュナを滅する。シュナのいない世界に意味は無いから、この世界ごと壊す。分かるか?」
「わ、分からない……」
「俺に殺されてくれるか?」
「えっ、えっと……!」
シュナは頭がぐるぐるした。訳が分からなくて、脳が沸騰してしまいそうだ。
「そもそも、俺に見初められた時点で俺から逃げることは許されない。許さない。俺から離れられると思うなよ?」
シュナはゾクゾクした。正直、アポロンのこういう重いところは好きなのだが、まぁ、それが今の自分に向くとなると、かなり重たい。
「俺に殺されてくれ、シュナ」
アポロンは底冷えするような恐ろしい声で、目で、シュナに炎をかざす。
「はわわ……あちゃー……ちょっと、ワンモアタイム!!」
「!?」
すると、シュナは指を天に突き刺し、神力を発動した。なにをするのかというと、時間を巻き戻すのである。
舞月の特権かと思いきや、シュナもそんなことをしてしまう。全くデタラメである。
世界が巻き戻る。
太陽は少し昇って、影は短くなる。落ちた葉っぱは木に戻り、散った花も咲き直す。
2人はまた、寄り添いあって、太陽に照らされた。
シュナは考える。
(もう少し言い方を考えないとな……)
何も言わずに行くのは嫌だ。でもホントのことを言ったら通してもらえない。
ホントのことと、嘘を混ぜよう。
シュナは、今度は寄り添ったまま、口を開いた。
「あのね。新しい世界を作る担当になったから、そっちに出張するの。本体はこっちにおいとくから、気にしなくていいんだけどね。そっちは自由に動かすから、色々人間関係も変わると思うし、一応言っとこうと思って」
嘘も混じっている。新しい世界を作るのは本当だが、実際は分身を置いていき、本体が行く。
「俺もついて行く」
「えっ?こっちの太陽の管理どうするの?」
「……どうでもいい」
「あらま……」
「……。シュナ、本当は、そうじゃないんだろ」
「え"っ」
太陽の輪郭が雲に滲んだ。アポロンの頬にも、涙が滲んだ。
シュナは図星だったので、濁った声が出た。
「……もう、俺の事は好きじゃないか?」
「えっ、そんなことない!!!本当に大好きだよ」
「なら、なんで俺から離れようとするんだ?」
「えっ……えっと……」
アポロンは本格的にホロホロ泣き出してしまった。暴言など吐いたりはしない。ただ、静かに。涙を流していた。
(あんま……言えないけど……別の恋愛もしてみたいんだよな……アポロンの事は好きだけど、浮気はしたくないし……)
そんなこと言えない。
正直に言うと真っ直ぐな愛で世界が滅んで、嘘を言うとアポロンが泣くらしい。
「……俺との恋愛に飽きたか?倦怠期か」
「ぐっ……まぁ……そんな感じ……?」
「じゃあ、いつでも戻ってきてくれるのか?」
「アポロンはそれでいいの?私結構酷いことしてると思うけど」
「いい。シュナが俺のとこに戻ってきてくれるなら。何より、この関係が終わる方が怖い」
「っ……」
シュナは流石にアポロンが可哀想だった。
「……ごめんね」
「いい。お前を好きになった俺が悪い」
「……そう言われると、立つ瀬がないけど」
「……お前が、嫌になるまで。俺とこのぬるま湯に浸かっていてくれ」
「うん……」
(じゃ、近いうちに行こうかな……)
無慈悲である。シュナはフットワークが軽いので。
「行き先は教えてくれるのか?」
「え、教えないよ?だってその世界壊そうとするでしょ?」
「シュナが作った世界を壊す気は今のところないが……まぁ、どうなるかは分からないな」
「でしょー?頑張って探してね」
「あぁ。執着には自信がある」
「ふふ、そういうとこも好きだよ!」
「全く……」
アポロンに、この自由な蝶の羽ばたきを遮ることは、出来ないらしかった。やれやれ、と、お転婆娘を見るような心地で、シュナを優しく見つめた。
「愛してる」
「ふふ、私も大好きだよ!」
「……シュナの心にずっと残っていたいが、傷を残すのは可哀想だ」
「優しいね!私の事傷つけたら嫌いになるからね」
「っ……あぁ、肝に銘じておく」
そりゃそうである。シュナの事は姫のように丁重に扱わなければならない。
「ずっと私の事好きでいて、なんて言えないけどね」
「そんなこと言わなくていい。そんなこと言わなくても、俺はずっとお前の事が好きだから」
「ふふ……私、アポロンに愛してもらえて幸せだよ!」
「俺もシュナと一緒にいれて幸せだ。ありがとう」
「こちらこそ!ありがとう」
そんな感じで、シュナはアポロンと別れを告げた。
それを、最後にした。
転生する日。シュナは悪魔達とメアリーとパーティを開いた。理由は、新しい世界を作るという大仕事を任されるからだ、と伝えておいた。
でもなんとなく、1年以上も付き添ってきた仲だからだろうか。皆、何かが変わるのは分かった。だけど、シュナが何も言わないから、何も聞かなかった。
「乾杯〜!!」
皆でお酒を飲んで、美味しいご飯を食べた。もちろんチーズケーキも一緒に。
最後、シュナは秋の空の下、家を出た。
これまでの1年間に思いを馳せる。沢山の事があったけど、どれも大切な思い出だ。
爽やかな風が吹く。目を閉じて、息を吸った。肺が少し冷たくなって、頭がスッキリする。
「……うん、行こう!いってきます」
そっと別れを告げて、シュナは新しい世界へと旅立って行ったのであった。
おしまい
心中エンドと迷いましたがやめました。
この作品以降のシュナは、分身です。
終わる終わる詐欺でしたが、また続くかもしれないし、本当に終わるかもしれません……ですが区切りがつくのは確かです!
ここまで読んでくださり、ご愛顧くださり、ありがとうございました!次回作も頑張りますので応援してくださるととても嬉しいです(*´︶`)よろしくお願いします!
星5、感想、リアクション、ブックマークなどお待ちしております!ありがとうございました!




