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天人五衰  作者: 月迎 百
4/5

三郎丸 ーさぶろうまるー

悪役令嬢や聖女が登場している話をたくさん読んで楽しくなり、自分でも書いてみたくなり挑戦しています。


今回で3作目、前2作とは全く違う感じですが、こんなのも好きです。


少しずつ話を進めていきたいと思います。どうぞよろしくお願いします。

 冬至が帰ってきた。

 いつもより暗い顔をしているし帰宅時間も思ってたより早い。


「おかえり~。お早いお帰りで~。なに? 振られたの?」


 冬至が一言、ぼそっと言った。


「思い出した」


 えっと?

 今日会いに行ってた犠牲者候補って前回の犠牲者の子どもじゃん。


「前回の時、見られてたの?」

「目が合ったくらいだけど……」


 冬至ってばいいかげん学習しねえな。


「だから、犠牲者とできるだけ関わるなってずっと言ってきてんだよ。

 所在と子どもが何人いるかぐらいだけ把握しときゃいいんだよ。

 わざわざ近づいて、思い出させて……。とりあえず、しばらくは外出るな!」


 はあー、ため息ついていつもの説教。


「お前の犠牲者候補、もう数が少ないんだから! もうちょっかい出すなよ!

 毎回毎回、なんだかんだ泣き言言うわ、嫌だとか言うわ、聞かされるこっちの身にもなれ!」

「なあ、なんで俺を助けたんだ?」

「なんだよ責任転嫁かよ? 

 助けてほしいか? とオレはちゃんと聞いたぜ? 

 選んだのは冬至だろ?」

「いや、だって、ほかにも死にかけてた奴いたのに。なんで、俺だったの?」


 なんでって、冬至が船に乗ってきた時から気になったからだ。

 昔の小さかった時のオレが大きくなったらこうなりたいと思っていたような男だと思ったからだ。


 オレの家は貧乏人の子沢山っていうどうしようもなくおやじがダメな家だった。

 貧乏でも子沢山でも家の仲が良いこともあるだろう。でも、うちはおやじがダメ。おっかあもオレより大きい姉達もいつのまにかいなくなってた。売られたのか自分で逃げたのかわかんねえけどね。

 

 男兄弟の3人とまだ売れない小さい妹達だけ家に残されてたけど、オレは男の中で一番下だったから、家のことを押し付けられ、それなのにお前は稼ぎがないといびられ、叱られ、殴られ……。


 家を飛び出したのは10の時だ。すぐ下の唯一仲が良かった妹が7つで売られて、その時におやじも家族も捨ててやるって決心して飛び出した。


 最初はそういう子供を使って働かせてピンハネするような大人に絡まれたけど、慣れてくると船まわりの雑用、日雇いしてくれる荷役の仕事とできそうな仕事を探して交渉することができるようになった。必死だったが、ひとりってのは気楽だった。

 

 その時、仕事仲間に名前を聞かれて、家族からは『(さん)』と呼ばれていたと言ったら『三郎(さぶろう)』と呼ばれるようになって、まだ子供だからと丸がついて『三郎丸(さぶろうまる)』になった。

 

 オレはけっこうこの呼び名が気に入っている。


 このまま、水夫の仕事でもいいし、どこかに落ち着いて漁師をするのもいいななんて思って数年、オレの乗っていた船が襲われた。


 その時、一緒に乗っていた男に助けられた。

 背中を斬られ、息も絶え絶えになっていたオレは無理やりそいつの血を飲まされた。


 そいつは息子に見える年の子が欲しかったんだと。

 オレはまだ15だったが、いつも腹を減らしてたし、まあ小柄な方だった。


 そいつはオレを吸血鬼にしたと言った。

 不老不死だが、身内の血と命をこれから必要に応じて摂らないとといけないと。

 そうしないと苦しい思いをして消滅することになると言われた。


 不老不死でいるために、己の身内の命を喰らう罪を背負うんだと。

 なりたてはすぐにでもひとり喰ってこないといけないと言われた。


 そんならおやじにしようと、家に帰りおやじを喰った。

 罪ってかそんな意識はさらさらなかったね。


 むしろ、久しぶりに会ったおやじがオレに偉そうな態度を取ってきて、命を喰らおうとしたら泣きながら命乞いするのを見て、喰い殺せて気持ちよかった。


 しばらくその男と一緒にいて吸血鬼のことを色々教えてもらったけれど、その男に女ができて、今度はその女を吸血鬼にしたいからお前の血をよこせと言われた。


 いろいろ例外はあるようだが、ひとりしか仲間にできねえらしい。


 だったらオレが気に入ったやつを仲間にしたいと思ったから、その男と女を殺して逃げた。



 冬至には吸血鬼は殺されることはない、自分で死を選ぶなら本能に抗い犠牲者の命を奪わないことで苦しみの中でゆっくりと死を迎えるしかないと教えた。


 オレから離れないように。

 

 オレは冬至の優しいところや人の良いところも嫌いじゃない。

 でも、冬至が苦しんでいるところを見るとうれしくなる。


 冬至にはオレが必要だろ?


 オレには吸血鬼を殺せる力がある。

 殺した吸血鬼の男に驚かれたぐらいだから、オレはたぶん例外なんだろう。


 でも、時々死にたがる冬至には教えてやんない。

読んでいただき、ありがとうございます。


三郎丸が冬至に執着する感じが出ているといいなと思って書きました。

途中、あれ、BL要素もあるのか?!と思いましたが、たぶんそうはならないと思います。

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