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ゴーストハート  作者: 富良野なすび
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空洞

          空洞/

 彼女は片手で大きく、腕のように長い銃を構えていた。

 眼に浮かぶのは冷徹な殺意と暖かな慈愛。

 わたしは今から彼女に銃殺されるのだと理解した。

 手に握られているのは愛する人から受け取った得物。

 その人を捨てた人々をわたしは切り伏せた。

 言葉通り、独り残らずこの手で葬った。

 温かいはずの血は冷たく、殺していくたびにわたしは死に近づいているのだと心のどこかで感じた。


『貴女は――間違えてはいないよ。ただ、終わらせてあげないといけないだけなんだ』


 彼女は悲しそうに呟いた。

 やっと終わるのだと、そこでようやく安堵した。

 血に染まった右手に眼を落したが、けっきょく何も心は晴れていなかった。

 苦しいとき、悲しいとき、辛いとき、昏く心が沈んだときは泣いても良いとあの人は云った、そう云ったが。もう慰めてくれるあなたがここには居ないんだと知った時、どうしようもできない感情がわたしを突き動かした。失意のどん底の中、闇を照らす月が歩けと言っているようだった。

 でも、この選択はきっと間違いだった。

 わたしは大人になっても幼いままだった。

 彼女は月光の如くその名前のようにわたしをじっと見つめている。


『わたしは祈ってはいけなかったのでしょうか』


 そう、弱く問うと魔女は悲しそうに答えた。

『祈りこそ生きる希望になる、祈りは力だ』

 そんなことを言わないでくれ、とそう訴えているようだった。

 草が擦れ、髪が強く靡く。


『貴女の祈りはあるべき姿だった。だから決して間違えてはいなかった。だけど間違えていないからこそ、自然であるからこそ、貴女は――神は貴女を許してはくれない。どうか――許してほしい。どうしようもない自責の念や他の無粋な神々や世界に殺されるなら、代わりに私が終わらせなくてはいけない。貴女の祈りをいつまでも残していくためにはこうするほかないから、私はシャローナ、貴女を殺す』


 魔女が銃を構えてどれほど経っただろうか。

 力強い言葉が何度も繰り返され、真実に他ならない。

 彼女の言葉は嘘にはならない。


『わたしは――どこで間違えてしまったのでしょうか』


 魔女はすぐに首を横に振った。

 わたしは少しだけ笑って、少しだけ周囲を見渡したくなった。

 その日は月が綺麗だった。

 白銀の陽は深紅に染まった草原を鋭く照らしていた。

 そんな苦しい景色だったけれど、やっぱり好きなのだと思った。

『貴女の選択は間違えていないよ。貴女の想いはこれからも生きる。いや、わたしが生かす。だから――どうか』

 安らかに眠って、シャローナ。

 



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