7話 魔人
「ご馳走様でした。極上の味でしたよ」
ノーティーは目の前の地面に手を合わせる。既にシークを完食してしまったらしい。
「ハイドは……結局最後まで来なかったな、見捨てられたのか」
「みたいですね。少し可哀想ですが、私の知るところではありません」
「まあ、そうだな」
気まずい沈黙が流れる。理由はどうであれ、人を殺したのだ。当然それなりに思うところはある。
「アルツトさんは、私のことを責めないんですか?」
気がつくと、ノーティーは俺のすぐそばに近づき俺に単刀直入に尋ねてきた。
「責めないさ。俺自身は止めなかったのに、実行したお前を責めるってのは卑怯にもほどがあるだろ」
「でもあなたは私が殺すとまでは思ってなかった。違いますか?」
「……」
図星だった。せいぜい記憶を奪うぐらいで、命までは取らないと思っていたのだ。
だが——
「それを踏まえても、責める気はない。俺がお前の立場でも同じことをしたさ」
シークのしてきたことは余裕で処刑されるレベルのものである。それを早め、余計なリスクを避けたに過ぎない。
「身内に甘いですね、全く。ここに長居してハイドさんとやらが来ても面倒ですし、さっさと目的地に向かいましょう」
「そうだな」
俺達は立ち上がると、武の街アレスへと歩き始めた。
「街に着くまで状況を整理しよう。まず俺達には賞金がかかってる。かけた奴は扇動の魔人だろうな」
「でしょうね。私を生け獲りにするって部分からもそれは間違いないでしょう」
ノーティーも同意する。その点は疑うべき要素はない。
「問題は隠蔽の魔人——ハイドとやらがいる点だ。逃走している可能性も高いが、油断はできない」
「こればかりは警戒するしかないでしょうね、探知方法はないと思いますし」
「ああ、それで気になったんだが、お前達魔人って魔人と人間の判別がつくのか?」
あの場では、シークもノーティーもお互いが魔人だという確信があったように見えた。
「分かりますよ。本能とでも言うべきなんでしょうか、私には魔人か人間かが一目で分かります。これは他の魔人も同じはず」
「なるほどな。ではもう一つ質問だ。魔人の異能についてだが、魔法とは完全に別物ってことで良いんだよな?」
「そうですね、魔人の異能は運命の呪い。魔法とは違い、現在の技術では封じることのできない力です」
「なんだかよく分からないな、運命の呪いってどういうことだ?」
いきなり占い師みたいなことを言われ、俺は混乱する。魔人がどう発生するのか自体、俺にはよく分かっていない。
「話すと長くなります。ですが一言で説明するなら、我々の持つ異能は運命と魔力が結びついてできたもの。故に強力で、持ち主ですら振り回される」
「あーなんとなく分かったぞ。要するに主人公補正がかかっちまうってことだろ?」
「……絶妙に間違っていますがめんどくさいのでそれで良いです」
ありゃ、違うみたいだ。まあイメージは掴めたのでよしとしよう。
「私からも一つだけ。あなた、予知能力でもあるんですか? えらく勘が良かったですが」
ノーティーはシークの狙撃に対する俺の反応の良さについて尋ねる。まあ、聞かれて当然だろう。
「予知、というか本当にただの勘だな。トラブルに巻き込まれに行きすぎて事前に察知できるようになっちまった」
「ふーん、発生源が残念すぎる才能ですね」
「酷いな、確かに残念だけどさ。さてそろそろ街に着くぞ。相手には手紙を送ったが、果たしてうまく勧誘できるかな?」