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6話 浄化魔法

 「浄化魔法で敵の魔力全部消し飛ばす!」

 「……発想が脳筋すぎません?」

 「さっき森ごと消し飛ばした奴だけには絶対に言われたくないな」

 俺はこいつとは違い、ちゃんと周囲の被害を考えて動く。

 その点浄化魔法は最適で、対象のみを排除してくれるのでとても便利だ。

 「それでこれが浄化魔法の呪文だ、詠唱は任せた」

 俺はノーティーに浄化魔法の魔導書を渡す。

 「……これが、呪文……?」

 俺は普段、浄化魔法の詠唱は省略している。その理由はただ一つ。

 「詠唱文が長すぎません!?」

 そう、呪文が長いのだ。そのため俺含め習得者は基本裏技を使って無詠唱で使用している。

 「さぁ覚悟はできたか? それじゃ始めるぞ」

 「わ、分かりました。やってやりますよ!」

 「「「腐敗する木々、消えゆく炎、風化していく岩。時間と崩壊、制御された終わり。邪魔は全て破滅の光によって消滅される——スイープオブスター!

!!」」」

 一瞬にして白い光が森一帯を覆い尽くし、対象である敵の魔力を蹴散らしていく。

 敵の撃った魔法は胡散消滅し、敵が持っていたはずの魔力は強制的に空となる。

 「よし急げ! 今のうちに敵ふん縛って情報吐かせるぞ!」

 「ええ、指の爪剥いで目玉潰して足を斬り落としましょう!」

 「い、いやそこまではしなくてもいいんじゃないかな……」

 駄目だこいつ、早くなんとかしないと……

 暴徒と化したノーティーは敵の魔力が散った場所を目掛けて飛び出して行った。

 そして一瞬にして人影に飛び掛かると、影と自らの体術を使って相手を縛りあげてしまった。

 「よ、よくやった。後は俺がやるから一旦落ち着こう、な?」

 「必要ありません、さっさと情報を吐かせることが先決です」

 もうダメだ、こいつは止まらない。 

 「あ、あたしに何をする気!?」

 ようやく敵が口を開く。見たところ随分若そうな少女だ。ノーティーよりは歳上なのだろうが、肌が若々しい。

 髪色と目の色は茶色。身長はそれなりに高め。服も典型的な魔術師のローブだ。

 確かに、見た目は人間に違いないだろう。しかしこいつはおそらく……

「ちょっと尋問するだけですよ、魔人さん?」

「……あんた、同族ね?」

 やはり、魔人のようだ。ノーティーの時がそうだったように、俺は見た目で魔人かどうかの判別ができない。

 しかし魔力は別だ。先ほど散らした魔力には人間というよりむしろモンスターのそれに近いものがあった。

 「普段なら同族に会えた喜びでパーティーでも開くんですけどね。料理を壊しやがったクソ野郎さんにはそんなのする気起こりませんね」

 「はー? そんなことで怒って——」

 ゴッ、と鈍い音が響く。ノーティーが魔人の頭を思いっきり石でぶん殴ったのだ。

 「お、おい! 死んじまったらどうするんだ!?」

 「心配しなくて大丈夫ですよ、ほらピンピンしてる」

 俺の心配を他所に、魔人は自身の怪我を自己修復して復活していた。回復魔法は使う暇もなかったはずだが、どういう原理なのだろうか。

 「あんたほんっとうに容赦ないわね! わたしが魔人じゃなきゃ何回も死んでるわよ!」

 「魔人だって目星がついてたからやったんですよ。頑丈な体と高い再生能力は共通事項でしょう」

 なるほど納得がいった。魔人、という種族はただ特異な能力を持っているわけでもないようだ。

 「それよりあなたに聞きたいことは山ほどあります。まずなぜ我々を襲ったんですか?」

 「そう簡単に答えるとでも?」

 魔人は不敵な笑みを浮かべる。一筋縄ではいかなそうだ。

 「答えないならお前の装備一個一個剥ぎ取ってくぞ」

 俺も一応尋問に参加してみる。向いてないとは思うが、一度はやってみたかったのだ。

 「やってみなさいよ、わたしに触れた瞬間お兄ちゃんの魔法が火を吹くからね!」

 「……へぇ、お前兄貴がいるのか、どんな奴なんだ?」

 こいつ、さては相当口を滑らせてくれるタイプだな?

 「お兄ちゃんは隠蔽の魔人でね、わたしと一緒に色んなものを盗んだり領主とか暗殺したり暗躍してる超優秀な魔人なのよ!」

 「ふむふむ、それであなたはなんて魔人なんです?」

 ノーティーも発したのだろう、あくまで気づいていないフリをしつつ情報を引き出そうとしている。

 「あたしは追跡の魔人、シークよ! あたしとお兄ちゃん合わせてあたし達はハイド&シーク。絶対無敵のコンビなの!」

 「ふーん、兄妹揃って魔人なのか。それでどうして俺達を襲ったんだ?」

 「それはあんた達に賞金がかかってたからよ! これがまた高額でね、あんたの方は生け取りのみで大変そうだったけど、賭けてみる価値はあったわ」

 「なるほど、全部吐いてくれてありがとうございました。それでは後は食べるだけですね」

 ノーティーは満面の笑みを浮かべて、シークの首筋に影を突きつける。

 「あっ……は、図ったな!!」

 その様子を見て、ようやくシークは自分のしでかしてしまった過ちに気づいたらしい。

 顔はみるみるうちに真っ青になり、冷や汗をダラダラと流しプルプルと体を震わせている。

 「あなたが勝手に喋っただけですよ、おバカさん。もう少し粘らなかっただけ温情だと思ってください」

 「ま、待って!! も、もうあんた達を襲わないって約束するから! そうだあんた達の仲間になるよ、わたし名前の通り追跡に関してはどんな魔人よりも上よ!」

 「……だそうですアルツトさん、どうします?」

 「決まってるだろ、食べ物を大切にしないやつはいらん」

 ノーティーが暴走していたから冷静だっただけで、俺もスープを台無しにされたことに憤りを感じていた。

 そして彼女の「そんなこと」という発言。あれは絶対に許せない。

 「待ってって! わたしに触れたらお兄ちゃんが黙ってないって言ったでしょ!?」

 「それのことなんですが、あなたがバラしてる間に攻撃来ないのは流石に不自然ですよね? はたしてハイドさんとやらはここにいるんでしょうか?」

 「いたのは確かなんだろうがな、姿が見えなかったのは奴の仕業だろうし。今は分からないがな」

 俺の考えではノーティーが彼女を食べる瞬間を狙ってくる可能性は十二分にありえる。

 しかし今はそれを言ってはいけない。シークを動揺させることが大事だ。

 「う、嘘でしょ……お兄ちゃんお兄ちゃんお兄ちゃん!!」

 助けは来ない。返事も来ない。見捨てられた、そういう絶望がシークに襲いかかる。

 「せめて腹の足しにはなってくださいね、いただきます」

 ノーティーは手を合わせ、自分の影をシークに覆い被せて咀嚼するかのように影を動かす。中からは悲鳴のような声が聞こえてくるが、くぐもっていてよく分からない。

 やがてその悲鳴は聞こえなくなり、影はノーティーの元へと戻っていった。

 シークがいた場所には何一つものは残っておらず、ただ風で砂が動いているだけだった。

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