4話 悪食用料理 その1 ブラッドソーセージ
「この先にある街に、アルツトさんの師匠さんがいるんですよね?」
「ああ。俺達に足りない、前衛向きの屈強な奴がな」
あれから俺達は街を出て、二人で森を歩いていた。行き先は、武の町アレス。俺の知り合いで、とんでもなく強い武道家がいるのだ。
「アルツトさんも前衛向きじゃないんです? 体結構ムキムキじゃないですか」
「まあな。ただ俺はガタイで前衛やってるだけでヒーラーに当たる。準前衛みたいなもんだな」
俺の戦闘技術は上級冒険者クラス。だが上澄みには敵わない、そのレベルだ。我ながらヒーラーとしては結構やれる方だとは思っているが。
「ヒーラーが前衛ですか、相当希少なタイプでしょうね。それこそ引く手数多なのでは?」
「どうだろうな? まあヒーラーってだけで一定の価値は保証されてる」
ヒーラーが前に出て真っ先に落ちる、という状況は良くない。
それを考えると、結局は前衛もしくはヒーラーをもう一人採用するのが無難になってくる気がするのだ。
「あ、丁度良いところにレッドボアが。早速二人で戦ってみよう」
俺が気配を感じ左前方を見ると、レッドボアという猪のモンスターが俺達を睨みつけていた。
俺達のパーティーは急造。連携を掴むのには丁度良い相手だろう。
「まずは俺が動きを止めてっと」
俺は襲いかかってきたレッドボアの鼻を槍で突き刺し、角による攻撃を封じた。
「そこを私が倒す、こういう感じですかね」
「プギィィィ!!」
一撃必殺。ノーティーは自らの影を使ってレッドボアを真っ二つにした。
「うん、初めてにしては中々上手く行ったな。この調子で練習していこう、基本ノーティーの力があればモンスターに遅れは取らないとは思うが」
「それでも、私のような魔人と戦う時に困りますからね」
「そうだな。さて、それじゃこいつを解体するの手伝ってくれ、今から料理する」
「良いですよ。何を作るんですか?」
ノーティーが興味深そうな目で俺を見てくる。彼女が普段食べるものは獲物から直接取った生もの。そのため料理は名前しか知らないものが多いらしい。
「ブラッドソーセージだ。ほら、約束したろ? お前の普段食うものをおいしく調理してやるって」
「ええ、確かにそういう話でしたね。ところでブラッドってことは……血を使うんですか?」
「その通りだ。ノーティー、お前レバーは好きか?」
俺はレッドボアの可食部をナイフで取り出し、片っ端から浄化魔法で汚れと寄生虫を払う。誰かに料理を出す以上、これは徹底しなければならない。
「肝臓ですよね? 好きですよ、コリコリしてておいしいです。臭みも私は気になりませんし」
「なら多分これもいけるはずだ。ちょっと待ってろ」
俺は空間魔法を使い水の入ったボウルを取り出すと、可食部をボウルに移し血抜きをする。
血を使うと言っても、最初から肉に血を残しておく必要はない。
「おぉー、なんかすごい魔法使ってますね」
「料理に特化させてるからな、料理に必要な魔法は大体習得してる」
俺はレッドボアの肉を包丁で細かく切り刻み、ひき肉を作り上げる。
「そしてここで血の出番だ」
俺は血にスパイスを入れ、それを小麦粉と共にひき肉と混ぜ合わせる。
腸に詰めるのは、物体操作の魔法を使用する。手作業では時間がかかるからだ。
「これがまた大変でな。腸は破れやすいわ入れにくいわで魔法なしだと超めんどくさい」
「腸だけに?」
「やかましい」
俺は腸を一定間隔で捻り分けていくと、水の入った鍋を用意し、魔法で火をつけて加熱する。
ここで重要なのが水を沸騰させないこと。沸騰するような温度だと腸が破裂してしまうのだ。 俺は腸を鍋の中に入れ、それを二十分ぐらい茹でる。
その間に俺は片付けとフライパンの用意などを済ませ、出来上がったソーセージを鍋から取り出す。
「焼かないって手もあるんだが、焼いた方が臭みは取れる。ここは好みだがどうする?」 「うーん、素材の味を活かすのもそれはそれでって感じですが、今回は焼く方向で!」
「了解」
俺はフライパンに軽く油をひき、そこにソーセージを投入し、火で炙る。
そしてそれらを皿に盛り付け、予め用意しておいたサラダ、パンと共にノーティーに渡した。
「正直俺も血液料理は初めてでな、上手くできているのかもお前の口に合うかもわからん」
「へぇ、初めてだったんですね。ま、食べれば分かるでしょう。いただきます!」
ノーティーは手を合わせると、俺の作ったソーセージをもぐもぐと頬張る。
そしてソーセージを飲み込むと、凍ったように動かなくなってしまった。
「だ、大丈夫か? やっぱりしくじったかな——」
「おいしいです! 私はバカ舌なので細かい評価はできませんが、旨味が凝縮されてて良いですね!」
俺の心配は杞憂だったようで、ノーティーは嬉しそうにブラッドソーセージを頬張っていた。
「よかった〜、どれ、俺も食べてみるとするか」
俺は自分の口にソーセージを運ぶと、一口パクリと食べてみる。
なるほど、たしかに旨味はある。ソーセージとしての感触は若干薄いが、それはこの食べ物の特徴だろう。
自分としては七十点、及第点といったところだろうか。初回にしては良い方だ、今後改良していこう。
「さて、ついでに作った血液のゼリーを使ったスープもあるんだが、いるか?」
「いります!」
「よしきた、これがそう——伏せろ!」
俺は遠くからの殺気を感じ取り、ノーティーの頭を掴んで無理やり伏せさせる。
するとどこかから飛んできたのか、強力な魔法が俺達の頭上を通り過ぎて木に風穴を開けていた。