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最終話 別れの物語

 「……きて」

 「んん?」

 「起きて……」

 「んんん?」

 「起きてください!」

 何者かの叫び声と共に、俺は目覚める。ふかふかのベットに、見知った宿の天井。そして目の前にいたのは、元の姿へと戻ったノーティーだった。

 「あれ? お前なんで元の姿に?」

 「どっかの誰かさんがあんな辛いもの沢山ぶち込むから《悪食》の力が弱体化したんですよ。まあ、そのおかげで助かったんですけどね」

 そう言ってノーティーは俺の顔を恨めしそうに見てくる。暴走する前に色々要望を言わなかったお前が悪いので俺は悪くない。

 「そ、そうか。つうかなんで辛いもので弱体化すんの!?」

 「弱体化、というとあれですがこう暴走しすぎて力を使い果たしたって方が正しいですね。元々アジテートとの戦いでだいぶ消耗してましたし」

 「なるほどそれは分かった。んで、なんで俺は生きてんの? 喰われたはずじゃ?」

 「それはわたしも知りません。運が良かったっていうのはあると思いますよ? なにせ誰かさんのせいで私は食べたもの全部吐き出したみたいですから。ちなみにヴィクトリアさんも無事です」

 「そうか、それは良かった……ってアジテートは!?」

 俺は一瞬安堵の表情を浮かべた後にすぐさまアジテートのことを思い出し戦慄する。吐き出したということは、まだ死んでいない可能性があるということだ。

 「生きてるかはぶっちゃけ謎ですけど……少なくとも奴の魔力と《扇動》の力は消化した感覚があるので、生きてても何もできませんよ」

 「うーん、あいつ普通に民衆を扇動するの上手いからな。本当に大丈夫か?」

 心配するなというような表情をノーティーは浮かべていたが、俺は心配だった。もうあいつとは二度と関わりたくない。

 「まあ平気ですよ。魔人が自身の力を失うっていうのはアイデンティティの崩壊を指します。奴は私と同じで自身の力に飲み込まれていた節がありますし、もう何もしませんよ」

 「そうか。まあわざわざ探す必要性も感じられんな。ところでヴィクトリアとサイは今どこに?」

 「二人とも別の部屋にいますよ。呼んできましょうか?」

 「頼んだ」

 ノーティーは部屋のドアを開けると、二人を呼んで戻ってきた。

 「ひとまずお疲れ様。僕が生き残れたのは君達のおかげだよ」

 サイはそう言っていきなり俺とノーティーに抱きついてくる。そういうのはノーティーかヴィクトリアにだけやってほしい。

 「サイこそ無事で良かったよ。ってあれ? ヴィクトリアは?」

 「ちょっと待って僕との感動の再会から話題移るの早くない!?」

 「うぅ……キツいです」

 サイは怒ってより力強く俺達を抱きしめる。俺の身体が相対的に大きい分、何の罪もないノーティーがより締め付けられる結果となった。「あっごめん。ちなみに彼女ならどっか行っちゃったよ。書き置きだけ残してね」 

 「え、えぇぇぇぇぇ!? 怪我も完治してないのにいなくなっちゃったんですか!? 書き置きにはなんと!?」

 ノーティーは酷く狼狽えた様子でサイに詰め寄る。彼女はヴィクトリアと仲が良かったので当然の反応だ。

 だが同時に彼女の本性を今ここで思い知らされることになる。

 「えっとね。皆長生きしてねって書いてあるのと、後は手紙送る時の住所が書いてある。それからノーティー用に日頃の修行計画が書いてあるのと、アルツトにノーティーが力の使い方を間違えないよう教育するようにってさ。僕には旅で役に立つ知識について詳しく書いた本を寄越してきたよ」

 「待て待てなんか情報量が多い! 一つ一つ処理させてくれ!」

 「というかこれこっちにもう戻ってこないってことじゃないですか! 一体どこに行く気なんですかあの人!?」

 こう……丁寧に引き継ぎ作業をしれっとやってから組織から消えるのだ。引き継ぎ作業をやってくれるは良いものの、無言ですっと消えるので弟子として共に旅をした時は本当に苦労した。

 「まぁ、どっかでまた会えるよ。内容をまとめるとアルツトはノーティー君の師匠になれってことだね」

 「いきなりとんでもない役目押し付けてきたなあのスパルタめ。ノーティーはそれで良いのか?」

 「アルツトさんの弟子なら構いませんよ。サイにさんの弟子になれって言われたら悩みますが」

 「おっと喧嘩が必要か?」

 サイは腕をポキポキと鳴らしてノーティーを脅す。大人気ない大人だ。

 「サイさんはどうするつもりなんですか?」

 ノーティーはサイの脅しをガン無視して話を変える。サイはその様子を見て深くため息をついた。

 「僕はアジテートに操られた人のケアを行う旅に出るよ。あいつが力を失ったからって効果が消えるわけじゃないし、そういうのは僕の本業で慣れてるからね」

 「そう、なんですか。そういえば約束してましたね、生き残ったら誰かが《扇動》の被害者達を治療すると」

 「誰かがやらないといけない仕事だからね。こういう雑用は僕に任せて、二人はゆっくり修行をしながら休みなよ」

 「そんなの悪いだろ。俺達もいくらでも治療の旅手伝うぞ」

 疲れているのはサイも一緒だ。サイにだけ負担を強いるわけにはいかない。

 「いいや、むしろ来るな。ノーティーは絶対に無理をさせてはいけない。そのブレーキ役が君の仕事で、休むのがノーティーの仕事だ」

 「……分かった。それじゃお前ともここでお別れになっちまうのか」

 俺は少し寂しかった。死んだと思っていた仲間にようやく会えたというのに、もう別れとは。

 「そういうことさ。でもね、元々復讐なんかで集まった仲間だ。本来長くいるべき仲間じゃないのさ」

 「そんな……わたしはこれからも皆さんと仲良くしていたいです。変な関係とはいえ、数年振りにできたかけがえのない居場所なんです!」

 ノーティーは子供らしく、悲痛な声でサイの胸ぐらを掴む。彼女にとってこの集まりは義理の親が死んでからできた初めての集まりだったのだろう。

 「なに、離れたからって別に君達のことが嫌いになることはないさ。それに二人が出会ったのは復讐なんか関係ないだろ? あんた達二人がいる分には不健全でもなんでもないさ」

 「……また、力が制御できるようになったら必ず会いに行きますからね。それまで死んだらダメですよ」

 ノーティーは絞り出すような声でサイに投げかける。するとサイはまるで心優しい姉のような笑顔を、ノーティーに向けるのだった。

 「……しかたないなぁ。良い子にしてるんだよ。それじゃ——またね。アルツトのお守りは頼んだよ」

 「俺はお守りされる側なのかよ……またな! 今度死んだふりなんかしたら引っ叩くからな!」

 サイは俺の声を聞いてクスッと笑うと、俺達に背中を向けて、手を軽く振って宿を去っていった。

 「さてと、最後はお前だな。ノーティー、悪いが少し席を外してくれ」

 「は、はい」

 ノーティーが別の部屋に移動すると同時に、ミルシュが俺の目の前に現れた。

 「……本当にすまなかった。どうか君の気が済むまでオレを殴ってくれ」

「いや殴らないよ。操られてたお前らになんの罪もないし、俺は当時から少しも恨みを持ったことはなかった」

 正直どうでも良い。ミルシュ達に恨みがないというのは完全な本音であり、何の感情も抱いていない。

 「オレ達はこれから一からまたやり直すよ。もし君達が何か困ったことがあればいつでも連絡して。いつでも駆け付ける」

 「ありがとう。……こんな形で別れるのはちと残念だけど——今までありがとうございました、リーダー」

 「こちらこそ、本当にありがとう。尻拭いをさせてしまって申し訳なかったよ。また会うことがあれば、その時は今回の借りを返させて欲しい」

 ミルシュは一礼をすると、部屋から出て行った。

 それから少し経った後。再びノーティーが部屋に戻ってきた。

 「……二人とも、いつかまた会えますよね?」

 「俺達が無事ならまた会えるさ。人生ってのは出会いと別れの連続だ。でも再会が許されてないわけじゃない」

 「そう、ですよね。きっとまた会えますよね」

 ノーティーは噛み締めるように何回も同じセリフを繰り返した。

 「とりあえず飯にするぞ。今日はステーキだ、たんと食え」

 「やったーー!」

 俺は食事の話をした途端に満面の笑みになったノーティーを見て苦笑しながら、調理へと取りかかるのであった。



——————————————————————


 「う……ぐ」

 「まったく、ちゃんと止めを刺すまでが復讐なんだけどな。二人ったら甘すぎるんだから」

 「ぐはっ!」

 ある一人のエルフは、今にも死にそうな顔で蠢いていた魔女に向けて槍を振り下ろした。

 魔女は悲鳴を上げたのちに動かなくなり、後には静寂だけが残った。

ご愛読頂きありがとうございました!

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