3話 意外な接点
次の日。俺とノーティーは街に行き、料亭で話していた。
「ちょっとアルツトさん、パーティーから追い出されたって初耳なんですけど!? それでどうやって料理する気なんですか!?」
「声がでかい! 料理は問題ないさ、元々パーティーでも拠点があったわけじゃないし。俺はどこでも料理ができるんだ」
あまりに大きな声でノーティーが叫ぶので、俺達は周りからなんだなんだと見られてしまっていた。
内容が内容ということもあり、俺はとてもいたたまれなかったが、外に出るわけにもいかず仕方なく朝食を食べていた。
「というか料理人なのに料亭来るんですね?」
「別にそこは驚くとこじゃないさ、情報収集とお前の朝食も兼ねてるからな」
「私の朝食……? ああ、そういうことですか」
ノーティーは後ろをチラりと見て、察したように目を閉じる。
彼女の背後には、二人のいかにもといった男達が立っていたのだ。
「ねえそこの君、そんなパーティーから捨てられた男なんかよりさ、俺達とパーティー組まない? 俺たち結構強いから色々教えられるよ?」
「遠慮します、だってあなた達私より弱いんですもん」
「あっ!」
次の瞬間プスリという音が鳴り、男達はまるで魂を抜かれたかのように崩れ落ちる。
ノーティーが影を操り、こっそり男達の足を刺したのだ。
「ご馳走様でした。といっても実はアルツトさんの夢食べたのでデザートなんですけどね」
「今日は夢見ないなー、って思ったらお前の仕業かー!」
「怒っちゃダメですよ〜、私の食事に干渉しないって約束なんですから」
ノーティーはニヤニヤしながら俺を煽ってくる。こいつぅ。
「ちくしょー、そうだったな。だが俺との約束も守ってくれよ? 俺はパーティーの皆をおかしくした魔女を倒したいんだ」
「おかしくした? どういうことです?」
「元々俺達のパーティーは金稼ぎを主な目的としていたんだ。それが段々と強さを求めるようになっていって、気づいたら逆に金に物を言わさぬようにすらなっていったんだ」
「……もしかして、赤髪の高身長の女ですか?」
突然、ノーティーがアジテートの特徴を挙げる。どうやら心当たりがあるらしい。
「何か知っているのか!?」
「ええ、わたし達魔人にとっては有名な奴ですから。話を聞く限りそいつは扇動の魔人。私は彼女と何度も交戦し、その度に撤退を余儀なくされています」
「嘘だろ!? 妙な巡り合わせもあるもんだな」
俺はまさかアジテートとノーティーがここまでの関係とは思わず驚いてしまった。
「そもそも奴がここに来たのは私がここにいるからでしょう。あの魔人は私を掌握しようと企んでいるからです」
「なるほど、それで俺達のパーティーに……」
「すみませんアルツトさん。私達の争いに巻き込んでしまって」
珍しく、というよりまず言わなそうな謝罪の言葉をノーティーは述べる。
「気にするな、お前は悪くないだろ。お前が謝るべきなのは俺を襲った方のことだ」
「そっちはあなたの運が悪かっただけなので知りませーん」
「会ったのは偶然だけど襲ってきたのは故意だろ……」
「ま、そんなことより扇動の魔人討伐について考えましょう!」
露骨に話を逸らされた。が、この話をこれ以上する理由もないので良いとしよう。
「まず一つ聞きたいのが、お前の力で一撃必殺みたいな真似はできないのか? ってとこだな」
「無理ですね。我々魔人は、他の魔人の持つ異能に対してある程度の耐性があります。相手の体力を削ってから隙をつくやら完全にノックアウトするやらしないと基本効きません」
「やっぱりそこはダメなのか、できるならとっくの昔にやってるわな」
なんとなく察していたが、そういうズルはできないらしい。
むしろその制限があるからこそ、ノーティーは扇動の魔人に操られていないのだろうが。
「ええ。問題なのは、私が若年故に扇動の魔人の力に押されてしまうこと。異能的には私が有利なんですがね」
「へぇ、まるで年が同じなら勝てるみたいな言い方だな」
「っ! 私魔人の中でも強い方ですもん! 《扇動》の魔人が五百年とか生きてるだけですもん!」
ノーティーは頬を膨らませて俺の胸をポカポカと叩く。先ほどまで散々煽られていたので気分が良い。
「悪かったよ。んでそんな化け物相手に俺達は戦わないといけないわけか。キツいな」
「ですから対策が必須です。まず仲間は最大でも五人まで。そして全員と契約を結ぶ必要があります」
「人数はなんとなく分かるぞ、混戦を避けるためだろ? だが契約はなんで必要なんだ?」
俺は理解できず、ノーティーに尋ねる。混戦時の扇動の力なんて、考えるだけでゾッとする。絶対に避けたいところだ。
しかし後者は謎だ。契約を結んだところで、効果があるとは思えない。
「そもそも扇動とは気持ちを煽るもの。故に情での協力関係だと崩されやすい。そこで私とアルツトさんのように、相互に利益のある協定を組むことが大事になってきます」
「なるほどな。仲間と言えば、一人俺の師匠が今この近くの街にいるはずなんだ。その人を仲間に引き入れても良いか?」
かつて俺と修行先の料亭で出会い、その料亭が時間により無くなってしまった時に拾ってくれた白髪のエルフ。
彼女はミルシュのパーティーにも一時期俺と所属していたので、事情は分かってくれるはず。
「信用に値する人物であれば構いません。そもそも私の方はツテがあまりないもので」
「なら決まりだな。ヴィクトリアって言う人なんだが、今は武の街アレスというところで暮らしているはず。早速手紙だけ先に出して向かうとしよう」
「はい!」