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27話 戦いの火蓋

決戦の日。俺達は始まりの街——ファラリスの結界の前に来ていた。

 「じゃあ後は作戦通りに。大丈夫、僕たちなら絶対に勝てるから」   

 「フラグの匂いがするのは気になりますが、各々できることを頑張りましょう」

 「はは、フラグなんてへし折っちゃえば平気だよ。ヴィクトリアもベストを尽くすよ」

 「皆覚悟はできてるみたいだな。俺もやれることは全部やる。一切の躊躇を捨てるつもりだ」

 各自、一言ずつ決意を示す。今から行われるのはテロ行為とも言えるもので、俺達は逆賊。承知の上で、戦いに来た。

 「それじゃ早速——はい、これで結界の条件は変更できた。三人とも、後は頼んだよ」

 サイが右手を結界に伸ばすと、結界は一瞬震えたように見えた。

 俺達はサイを置いて、街の中に入っていく。サイは後方支援役。結界の外にいた方が都合が良い。

 「それじゃ始めよう。まずはこれだ」

 俺は《扇動》解除魔法の詰まった魔法の瓶を投げ割り、空に魔法の雲を発生させる。

 魔法の雲はみるみるうちに街全域へと広がり、浄化と治癒の雨を降らす。

 「ふーん、あたしの力を対策するつもりなのかな。だがね、もう無駄なんだ」

 「出たな、アジテート!」

 次の瞬間、俺達の目の前にアジテートが現れ、不敵な笑みを浮かべていた。

 こいつは出たがりだ。だからすぐにやってくると思っていたが、想定通りだった。

 「あんた達はね、何も分かってないんだ。あたしは別に魔人の力だけで民衆を扇動してるわけじゃない」

 アジテートはそう言うと、突然涙を流し始めた。

 「出たな、凶悪犯罪者ども!! よくも、よくも人々を虐殺したな!!」

 「……そう来たか。相変わらず、随分と陳腐な扇動の仕方なんだな」

 こいつは適当に人々を殺しておき、その濡れ衣を俺達に着せたのだろう。

 分身の時もそうだった。こいつは、人を操ることも、殺すことも一切躊躇がない。

 アジテートの叫びに反応したのか、住民達が次々に現れ、俺達を睨みつけていた。

 「人々よ、立ち上がれ! 今こそあの犯罪者どもに一泡吹かせてやる時だ! まずはあたしが先陣を切る、後に続け!」

 

 俺達が無効化したのはあくまで《扇動》の力の思考の操作の部分にすぎない。未だに《扇動》の強制的に話を聞かせる力の方は健在。恐らくは街全域によく響く声が展開されている。

 「うぉぉぉぉぉ!!」

 それと同時に、大勢の市民が一斉にこちらに向かって襲いかかってくる。悪夢のような光景だが、これも想定していなかったわけではない。

 「今です!」

 ノーティーのかけ声を聞き、俺達は空高く飛び上がる。

 その直後に街の結界よりさらに奥のはるか上空から、稲妻のような魔法が降り注ぎ、街全体を駆け巡った。

 「あー、サイとかいう女の姿が見えないと思ったら外からコソコソ攻撃の準備をしていたのね。やるじゃない」

 サイの魔法を食らった人々は、強制的にサイに身体を操られ街の外に出される。結界の要項の関係で人々はここに入ってこれないので、戻ってくるという問題は生じない。

 「惑わした人々を陽動に使う気だったんだろうが、アテが外れたな」

 「そうだな。しかし別に大した問題ではない、何せ本命は生き残っている」

 アジテートがパチンと指を鳴らすと、ミルシュを始めとした元パーティーメンバー達が泣きながら俺達に襲いかかってきた。

 「なぜ! お前は! お前達は! 何人もの命を奪う真似なんかしたんだ!」

 元仲間の一人、バズがその巨大な手に持つハンマーを俺達を目掛けて振り下ろす。こいつはとにかく力がやばい。同じ前衛のヴィクトリアより重く大きい身体から繰り出される一撃は、ドラゴンすらも吹っ飛ばすほどだ。

 「それにナカドもお前らに殺された。追放されたからって逆恨みで殺すことないだろう」

 同じく元仲間のマターは静かに、しかし怒りを露わにして俺達に風の魔法を撃ち込んできた。こいつも魔法使いとしては非常に優秀な奴だったし、何よりクールな様子とは裏腹に熱いものを持っている男だった。

 「アルツト。一瞬で良い、少しだけ付き合ってくれ」

 最後に言葉を発したのは、元リーダーのミルシュだった。こいつは言うまでもなく、リーダーシップの精神に溢れていていつも皆から慕われていた。そして何より、こいつは雷魔法とそこから繰り出される圧倒的な攻撃速度が特徴的だった。

 彼はどういうわけか、俺に腰に刺さった剣を振ることはせず、俺の手を掴んだかと思うと街のはずれへと全力で俺を引きずってきた。

 「アルツトさん!」

 「なっ、離せ! お前さては分断する気か!」

 今の状況はなんとなく分かる。ナカドというのは仲間の一人だ。彼を殺されて、こいつらは今激怒しているのだろう。

 「落ち着いてくれ! オレは確かめたいだけなんだ。でもそのためには一対一じゃないとできない!」

 「確かめる……? 分かった、付き合ってやるよ。ただそのせいで仲間が死ぬことがないようにしてくれ」

 どうもミルシュの反応は他の二人と比べても違う。こいつは冷静さを失っていない、そんな感じがする。

 「ああ。この辺で良いだろ、剣を構えてくれ。決闘がしたい」

 「決闘か。何をしたいのか分かってきたぞ、乗ってやる」

 俺達は剣を鞘から抜き、戦闘態勢に入る。アジテートとは反対方向で、謎の決闘が今行われようとしていた。

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