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22話 似たもの同士は仲が悪い

「それがアジテートの弱点か。たしかに致命的な弱点だ」

 「ええ。ですから、洗脳の解除は一回は成功するでしょう。ですがあくまで奴本人は馬鹿ではありません、打ち消し魔法を使って解除を無効化されてしまう可能性が高いです」

 「初見殺しで倒し切らなきゃいけないってことだな。もともと本気で一戦交えた時点で殺すか殺されるかみたいなもんだから関係ないが」

 そういえばアジテートが前に分身でちょっかいを出しに来たことがあったが、あれは俺達の手札を見る目的もあったのかもしれない。

 「でも命大事にだからね、いざとなったら逃げることも考えるべきだよ」

 ヴィクトリアは両手で大きくバツ印を作ってみせる。その目はノーティーに向けられていて、彼女があれを危惧していることがよく伝わってきた。

 「残念ですが、わたしは反対ですよ。逃げようとして操られるぐらいなら多少無茶してでも戦うべきです」

 「あんたも極端だね。僕は全力で逃げさせてもらうよ、次戦うのがたとえ百年後だとしてもね」

 「その次が来るまで一体何人が犠牲になるんですか? 奴は今殺さないと絶対にダメなんです。手がつけられなくなる前に」

 断固としてノーティーは引かなかった。それだけ覚悟が決まっているのか、それともまた別の理由か。

 「ノーティーちゃん、そう喧嘩腰にならないで。実際どっちの方針を取るかは決めないといけないけどね、中途半端で全滅はごめんだし」

 「操られるってとこを考慮するなら逃げるべきだと思うけどな。あいつの力って別に無条件で人を操れるもんじゃないんだろ?」

 あいつの力はあくまで《扇動》。操り人形にするにしても対象者に毒となる情報を吹き込まないといけないはずだ。

 「そうですが、アジテートの話を聞かないというのは不可能ですよ。奴の分身と対決した時実感したでしょう?」

 そこはノーティーの言う通りだった。俺達は奴の言葉を聞き入ってしまった。分身の力が本体より劣っていると仮定すると、本体ではまともに動けるかも怪しい。

 「僕もそれは見てたけど、あれ瞬間移動で逃げられるんじゃないの?」

 再びサイの口からさらっとストーカー行為が明かされる。一体どこからこいつはストーカーをしていたのか。

 「瞬間移動魔法は対策されますよ。だから逃げるなら自力で逃げ切るしかありません」

 「それ、あんたのやってた瞬間移動法なら問題ないでしょ。結局あんたは僕達のことを特攻させたいだけじゃないのかい?」

 サイが言っているのはノーティーが使用していた影を利用した瞬間移動だろう。しかしあれには致命的な欠点がある。

 使用者がノーティーに限られることだ。サイもそれが分かっていないとは思えない。同時に、特攻自体も感情論を抜きにしても有効な策とは俺には思えなかった。

 正解と呼べるものがない現状。故にサイとノーティーの言い争いはどんどんヒートアップしていった。

 サイの言葉にノーティーは顔を真っ赤にし、サイの細い腕を力強く掴んで詰め寄っていた。

 「あ、あなたって人は! 言って良いことと悪いことがありますよ!」

 「じゃあ何か特攻で作戦はあるのかい!」

 サイが唾を飛ばして言い返す。

 「ありますよ!! でもそれは秘策です、漏らすことはできません!」

 「その秘策が本当に通用すれば良いけどね、通用しなかったら僕達は無駄死にだぞ!」

 まずい、そろそろ止めた方が良い気がする。

 俺は止めるべきかヴィクトリアの方を向き尋ねるが、ヴィクトリアは「青春だね〜」などと言って呑気にお茶を飲んでいた。

 「その程度のリスクぐらい許容してください! ただ闇雲に逃げるよりかは勝算はあります!」

 「闇雲じゃないし、あんた一人の策に任せられるか! 良いよどうせ逃げるのに反対なのはあんただけ、こうなったら——」

 サイは杖を構え、先端から光を出しノーティーを威嚇する。

 「なんですか、口で勝てないからって暴力でさか!? それならわたしも得意ですよ!」

 ノーティーが戦闘態勢に入ったところで俺は素早くサイとノーティーの間に割って入り、二人の口に余ったシチューの入ったスプーンを突っ込んだ。

 「はい、ストップ。サイお前本当にどうしちまったんだ、落ち着け」

 サイは多少プライドの高いところはあるが、逆ギレした挙句に仲間に杖を向けるなんてことはしないはず。それこそアジテートに操られていることを疑ってしまうぐらいだ。

 「ごめん、ちょっと焦ってた。アジテートはもうすぐ僕達のところへやってくるからね。このままでは対策ができるより先に潰されてしまう」

 「位置がバレるのは時間の問題だろうな。今奴に来られたら終わりだぞ」

 まだ《扇動》の対策がろくにできていない状態で戦うのは絶対に無理だ。それこそ逃げるしかないだろう。

 「……確実に言えるのは、奴は絶対に初めから姿を表す真似はしないことです。まず《扇動》による刺客を放ってきて、我々が弱ったところを叩きに来るでしょう」

 「うん。とりあえずさ、ここから逃げない? 今度こそ良い場所知ってるから!」

 今まで黙っていたヴィクトリアが突然机に乗り出してきた。言うタイミングをずっと逃していたのだろう。

 「えっ本当……ですか?」

 ノーティーは全く信頼していない目でヴィクトリアを見つめていた。そりゃそうだ、エルフの里で酷い目にあったのだから。

 「単純な話で、海外まで飛んじゃうの。海の向こうの辺境の地まではあの子の息もかかってないでしょ?」  

 「悪くないアイディアだ。僕達の研究に必要な資料を集めることができなくなるのは難点だけどね」

 「まあそこは気合いでなんとかしよう。一刻も早くここから逃げた方が良いのは事実だからな」 「そうだね。じゃ早速移動するか」

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