20話 再会相対自己紹介
太陽が南に昇る頃、俺達はようやく二人を宿屋に運び終えた。
「はー疲れた。重かった」
俺は二人を担いで宿屋までやってきたので、本当に疲れていた。サイにも一人持って欲しかったのだが、力がないやら魔力の無駄遣いしたくないやら適当にはぐらかされてしまった。
「それ、二人に聞かれたら半殺しにされるよ」 「構わない。本音だ、特にノーティーは体格の2倍以上重い気がする。《悪食》の口に何か入れてるんだろうか」
「うんサイテーだね! ただ実際その子は武器か何かを隠し持っててもおかしくないけれど」
侮辱に侮辱で返された。しかしノーティーは実際俺達に何かを隠している。それが何かは見当もつかないし、気にすることでもないのだろう。
きっとそれはノーティーの秘策。あの絶体絶命の場面ですら使わなかったものだ。
「さて二人を覚醒させようか。聞きたい話は色々あると思うけど、それはおいおい話すよ」
「分かった。それじゃ頼む」
サイは二人の額に手を当てると、魔法を使って二人を強制的に目覚めさせた。
「んあ……なるほど、状況は掴めたよ。君がサイちゃんかな?」
「な、なんで!? なんで!?」
起きた時の二人の第一反応はまさに真逆だった。なんというか、二人の経験値の差を如実に表しているような感じがする。
ヴィクトリアはまるで仮眠を取っていただけと言わんばかりにスクッとベッドから立ち上がると、俺達の座る椅子まで歩いてきた。
一方ノーティーは相当困惑しているようで、しばらく俺達のことを交互に見た後再び気絶してしまった。
「えっーと、とりあえずノーティー君は置いとこっか。多分初めましてですかね、ヴィクトリアさん。あなたの話はよくアルツトから聞かされていました」
「そうだね、君と会うのは初めてだ。ヴィクトリアとは多分入れ違いで入ってきたんじゃないかな」
再び覚醒させるのは危険だと判断したのだろう、サイは気絶しているノーティーの姿勢を直してやり、異常がないか観察をしていた。
「そうか、二人は面識がないんだったな」
たしか一年前ヴィクトリアが修行のためと言って抜けた数日後に俺が勧誘してきたのがサイだったか。
「ノーティー君とも面識ないね。全員君の知人ではあるけど互いの繋がりはない」
「面白い関係だね〜」
「気まずい関係、じゃないかな——ですか?」
早速サイの敬語が崩れている。普段敬語なんて一切使わないのに無理して使うからそうなるんだ。今のせいで余計に気まずくなったぞ。
「なに、君ともすぐ仲良くなれるさ。ヴィクトリアとノーティーちゃんはマブダチだからね」
ヴィクトリアは明るい笑顔でサイに話しかける。戦闘狂だがこういうところは普通に良い人だ。
「マブダチ……? マブダチってなに?」
「あー、親友のことだ。五十年ほど前に使われてた言葉みたいだな、いわゆる死語ってやつだ」
ジェネレーションギャップが起きている。四千年生きているエルフとしてはだいぶ新しい単語なのだろうが。
「あっもうこれ使ってないんだ。逆になんでアルくんは知ってたの?」
「その手の死語は料理人時代山ほど聞いたからな」
そして決まって死語に触れる時、大人は「最近の若い子はもう知らないよね」という。実際は読書家だったりするやつは昔の本を読んで知ってたりするのだが。
「そうなんだ。親友か、僕にはあまり縁のない単語だな」
「おいおい、俺は親友じゃないのか?戦力ニ位三位同士それなりにシンパシーを感じてたつもりだったんだが」
ミルシュのパーティーの戦力はミルシュが一位、サイが二位、そして俺が三位という印象だった。ヴィクトリアがいた時はヴィクトリアが一位だったが。
「へぇ、僕のことそんなふうに思ってくれてたんだ。それと戦力は謙遜しすぎだ。君の浄化魔法は反則だ、君の方が実力は僕より上さ」
「どうだかな。あっノーティーが再び目を覚ましたぞ」
「……相変わらず状況が掴めませんが、わたしがアジテートに操られているわけではなさそうですね」
ノーティーはゆっくりと身体を起こすと、俺達の方をじっと見つめながら呟いた。
「そこにいるサイってやつが俺達を助けてくれたんだ」
「どうも、アルツトの親友のサイだよ。よろしくね」
「……」
ノーティーは返事をせず、訝しげな目でサイを睨んでいた。幻覚を見せられたことに気づき、サイを疑っているのだろうか。
「ノ、ノーティーちゃん?」
ヴィクトリアが心配そうにノーティーに近づいた時、彼女の口が開いた。
「あなた……魔人ですよね?」