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14話 エルフの里

「ついたよ。それじゃ少し待っててね」

現在、俺とノーティーはエルフの里の門の前で待たされていた。

 「……眠い。もうここで寝て良いですか?」

 「耐えろ。昨日の夕方寝なければよかったのに」

 ノーティーはとても眠そうで、しきりに目を擦って俺に寄りかかっていた。

 「違います、ヴィクトリアさんのせいです。あの人なんか急に夜中に起きたかと思ったら、窓から飛び出してどこかに行っちゃうんですもん」

 「あー……それはドンマイ。ただあの人意味もなく徘徊するタイプじゃないから何かあったのかも」

 数年間弟子として過ごしてきて、ヴィクトリアの性格は多少分かってきている。

 ヴィクトリアは情報収集力が非常に高く、同時に秘密主義者だ。事態解決のためにヴィクトリアの手のひらで転がされたことも少なくない。

 「でも本人に聞いたら気まぐれって言われて……」

 「そりゃ誤魔化す時の常套句だよ。あの人は善性の人間だと断言できるが隠し事も多い」 

 「むぅ、なんかのほほんとしてるように見えて老獪なおばさんというわけですか」

 「ばっ馬鹿!」

 俺は慌ててノーティーの口を塞ぎ、周りに聞かれていないかを確かめる。

 ノーティーはジタバタと暴れ、俺の手を振り解いて睨みつけた。

 「何するんですか!」

 「お前今の発言仮に本人に聞かれてみろ、どうなっても知らないぞ」

 「そんな大袈裟な……仲間ですし、怒られるだけで終わりでは?」

 ノーティーは怪訝そうな顔をしている。どうやら認識に差があるようだ。

 「前にそんな感じで、ヤンチャな奴がババアって言ったことがあったんだ」

 「はい」

 「10分後にボロ雑巾のようにさせられて土下座させられてたよ」

 あの時のことは本能に刻み込まれているので細部まで思い出せる。怒号が飛び交いかき消されていく悲鳴、揺れる地面、吹き抜く風。

 あれで俺は間違ってもヴィクトリアの前で口を滑らせないことを誓ったのだ。

 「それババアって言ったのが問題なのでは……?」

 「そうだよ。それにその程度で子供相手に怒ったりしないから」

 「……手続き終わったのか、早かったな」

 「ついさっきね」

 ヴィクトリアは地獄耳だ。魔法でも使っているのか分からないが、ノーティーの発言も聞こえてしまっていたらしい。

 「ちょっと! わたしを子供扱いしないでください!」

 「あーもうこれ以上事態をややこしくするな!」

 頼むから疲れているので面倒なことしないで欲しい。

 そもそもノーティーは子供である恩恵を利用して狩りをしているのだから文句を言う筋合いはない。

 「その話は一旦置いといて、里に入る条件があってね。この腕輪を付けてだってさ」

 ヴィクトリアは俺達に金色に輝く腕輪を2つ見せてくる。彼女の腕にはない辺り、同族である彼女は免除されているのだろう。

 「この腕輪……監視用の魔法とかかかってるよな、間違いなく」

 「うん、かかってるよ。付けないと侵入者だと見なされるけどね」

 「ちょっと怖いですけど、ここは大人しく付けておきますか」

 ノーティーは顔を強張らせる。何が仕込まれていてもおかしくないものだ、無理はない。

 「そうだな。それじゃお先に」

 俺は腕輪をそっと右腕に着ける。するとカチッとする音と共に自動で腕輪が腕に固定された。

 「これ、自力じゃ外せないんですね……」

 横を見ると、ノーティーが彼女の左腕に嵌められた腕輪を外そうと引っ張っていた。

 「外されたら困るからね。それじゃ行こうか」

 こうして俺達は監視ありきでエルフの里に入れてもらうことになった。

 「ここがエルフの里……こう自然感が強いのは想像通りですが、かなり栄えていますね」

 エルフの里は草木が生い茂っていたが、同時に道の整備や家の建築は都市と同じぐらいしっかりとしていた。

 周りには農園やその直売所、書店などの様々な店が並んでいて、買い物客も少なくなかった。

 「ヴィクトリア達エルフは自然を大切にするけど、それ以上に文明の発達に力を入れているからね」

 「鎖国こそしているが貿易は盛んだしな、作物の輸出量は特に多いと聞く」

 「そうだね。機会があれば海の方に連れてってあげるよ、今は無理だろうけど」

 里なんて名前をしているが、ここは実質国である。領土もまあまあ広く、人口密度こそ少ないが国力はかなりある。

 「さてまず修行場に行こうか。ノーティーちゃん、君はしっかりしごくから覚悟しておいてね」

 「さっきの発言根に持ってます!?」

 ノーティーはビクッと身体を震わせ、俺の後ろに隠れた。

 「違うよ、君と《扇動》との戦いを見ていたけど、君は動きが大振りすぎる。一撃必殺を狙っているんだろうけどね」

 「人を狩るのにはその方が都合が良かったんです、騙して接近させて食うのがわたしの戦法でしたから」

 可愛い顔をして近づいた者を影で一瞬で突き刺す。それが彼女の日頃の食事だった。

 「なるほど、素人相手にはそれで十分通用したわけだ。でもアルくんには通じなかった、違う?」

 「……全部回避されました」

 言われてみれば、俺がノーティーと戦った時攻撃を避けられたのは、予備動作が大きかったからだ。

 「でしょ。ということでこの辺で一つ勝負をしよう」

 ヴィクトリアは道から外れ、森の適当な場所で止まった。

 そして魔法陣を展開すると、一瞬にして巨大な結界を作り上げた。

 「勝負?」

 ノーティーが首を傾げる。一体ヴィクトリアはどういうつもりなのだろうか。

 「今から1分間この結界の中で君は自由にヴィクトリアを攻撃する。一撃でも入れられたら君の勝ち、好きなだけアルくんをこき使うといい」

 「おい!?」

 勝手に勝負の賞品にされて、俺は抗議の声を上げるが双方から無視される。

 「あ、負けたら修行毎日1時間追加ね」

 「良いでしょう。ただ一つ条件があります」

 デメリットが大きい気もするが受けるらしい。そんなに俺をこき使うことに価値を見出しているのだろうか。

 「何かな?」

 「こちらが勝ったらここの噂の高級料亭に連れてってください。アルツトさんはどうせ元から奴隷ですし」  

 「マジで俺のことなんだと思ってんの!?」

 全然違った。もう俺がこの子と勝負した方が良いのではないだろうか。

 「良いよ。では早速始めよう」

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