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13話 知られざる決闘

——深夜にて

「よくも僕の妹を殺してくれたな《悪食》の野郎ども。次はこうもいかない、この魔道具で宿ごと木っ端微塵にしてくれる」

 彼——《隠蔽》の魔人、ハイドはある家の屋上に立ち、《悪食》の魔人ことノーティー達の止まる宿に襲撃を仕掛けようとしていた。

 ハイドのそばには大きな大砲が置かれており、それはノーティー達の宿を狙っている。

 「僕の力であいつらは俺も、この大砲も認識することはできない。奴らが気づいた時にはあいつらの肉体は消滅してるって寸法さ」

 ハイドは意地悪く笑い、大砲を起動しようと導火線に火をつけようとした。

 だがそこで、彼はあることに気づき手を止めてしまった。

 「なんだこいつ……僕のことを見ているのか?」

 宿から出てきた白髪のエルフが、じっとこちらを見つめてきていたのだ。

 「いや、そんなはずないな。死ね《悪食》ども!」

 ハイドは《悪食》を生け捕りにするという指令を忘れていたわけではない。今彼がやっていることはただの復讐である。

 決心したハイドが再び火を導火線に近づけた瞬間、彼の視界は一瞬にして720度回転し、真っ赤に染まった。

 「死ねなんて乱暴な言葉使っちゃ駄目だよ。特に最期の言葉にはね」

 「ぐっ……ご……」

 ハイドの目の前には白髪のエルフが立っていて、彼を憐れむような表情で見下ろしていた。

 「せめて一撃で葬ってあげるつもりだったのに、まだ肉体を保てているんだね。君も魔人なのかな?」

 「ふざけんな、誰だお前は! なぜ僕の姿が見える!」

 ハイドは酷く動揺していた。気配を読もうが魔力を探知しようが、《隠蔽》の前では完全に無力。そのはずが、なぜか相手には自分の位置がバレていた。

 「ヴィクトリアの質問に答えてよ。君、アルくん達のこと殺そうとしてたよね? なんで?」

 「あいつらが俺の妹をぶっ殺しやがったからだ! だからあいつらもあの世に送ってやるんだよぉ!」

 「ふーん、君がお兄さんだったんだ。でもヴィクトリアは知っているんだよ、そもそも先に君達がアルくん達を殺しに行ってたこと」

 「だからどうしたってんだよ! あいつらが俺の大事なシークを殺したことにはなんも変わりねえ!」

 ハイドは涙を流しながらヴィクトリアに隠し持っていた数十個に及ぶ爆弾を放つ。

 「点と点を繋げ、世界と世界を繋げ、テレポーテーション!」

 ハイドはヴィクトリアが怯んだ隙に瞬間移動の呪文を唱え、その場から逃げ出そうとした。

 それは間違いなく最善の判断だった。ただどうしようもなく相手が悪かった。

 「逃げようたってそうはいかないよ」

 ハイドの瞬間移動魔法は発動しなかった。正確には、ヴィクトリアの手によって発生を潰されたのだ。

 「な、なぜ魔法が発動しない!?」

 「最近の魔術師ってみんな呪文を唱えるよね。それ自体は凄く良いんだ、暴発のリスクが低くなるからね」

 呪文とは例えるなら型のようなもの。言葉の殻に魔力を入れ形を安定させている。

 「でもその分、素の魔力操作が疎かになってるんだよね。だから妨害に不慣れな魔術師が増えてきてる」

 ヴィクトリアがやったのは、その言葉の殻を中和し破壊する魔法。それもただの魔法ではなく、正真正銘の無言魔法である。

 「あんたまさか……ゼロから無言魔法を使ったってのか!? ありえない」 

 実は無言魔法というものは二種類存在する。

 一つ目はアルツトも使っている、予め魔法を唱えそれを常に小規模で発動させることによる魔法の保存法。

 これはイメージとしては焚き火の火種を残しておくようなもの。多ければ多いほどリスクや消耗も高くなるので数個用意しておくのが基本だ。

 二つ目は言葉や魔法陣を用いず、自らの魔力操作のみで魔法を発動する無言魔法。暴発のリスクが非常に高く、これを使うのはよほどの馬鹿か魔力の扱いに自信のあるものしかいない。

 「昔はこれが主流だったんだよ。暴発のリスクが高すぎて廃れちゃった技術だけどね」 

 「一体何年前の話してんだよクソが!」

 「さぁ? 忘れちゃった。それより最期に聞きたいんだけど、そんなに大事な妹ならさ、なんでこんな道に進ませたの?」

 白髪のエルフが距離を詰める。ハイドの言葉を遺言にする準備は、すでにできていた。

 「……そもそもこの道を選んだのはあいつだ。僕とあいつは二人で一人。僕はあいつのやりたいことの手伝いをしただけにすぎない」

 「……妹を放り出して逃げたのに?」

 ヴィクトリアは知っていた。このハイドという男が妹のシークを捨てて一人逃亡していたということを。

 「それは——どうしようもなく僕が臆病だったんだ。言い訳のしようもない。手伝うなんて言っておきながら、いざとなったら自分の身が恋しかったのさ」

 「そっか。《隠蔽》の能力も難儀なもんだね、いざとなったら自分は簡単に逃げれちゃうんだもの」

 ヴィクトリアはハイドの手を取り、彼を立ち上がらせる。そして彼に向けて、くいっと指で挑発をした。

 「決闘しよう。逃げてもいいよ、魔人の運命に逆らうか、運命を受け入れるか。それは君が決めるんだ」

 「……やってやる。でも逃げないからって僕は運命に逆らうわけじゃない、受け入れるんだ」

 「グッド。それじゃ最終決戦といこうか」

 ヴィクトリアの合図とともにハイドは自身の能力を発動させ、一瞬にして姿を消した。

 (僕の力は《隠蔽》。魔人ではない彼女にはこういう使い方もできる)

 ハイドは《隠蔽》の力を使用し、ヴィクトリアから彼に関する記憶を覆い隠す。対策も、今戦闘中だということも彼女には分からない。

 「永遠なる破壊の女王よ、汝我に力を捧げよ——コラプスレイ!」

 この詠唱もヴィクトリアが聞くことはない。やり方は違えど、ある意味ハイドも無言魔法の使い手。魔術師としてはかなり優秀な方だ。

 ハイドの口から血が吹き出る。《隠蔽》の力は身体の負担が非常に大きい。特にヴィクトリアのような、あらゆる手段で攻撃を探知してくるであろう人間に対しては。

 (これで一撃で彼女の脳天を貫く!)

 ハイドが魔法を撃った瞬間のことだった。ヴィクトリアの体が沈み込んだのは。

 「お久しぶり。良い動きだったよ、ただ君は魔法自体をも隠すべきだったね。さっきバレたのもそれが原因」

 「が……はっ」

 ヴィクトリアの手刀がハイドの腹を貫く。

 先ほどと同様、ハイドにはヴィクトリアの動きは追えていない。

 「一撃で倒せば隠す必要なんてない。そう思うのは無理もないけど、仕留められなかった時にそれは自分の位置を晒すのと同じ行為。油断したね」

 「なぜ……攻撃を避けられた?」

 「未来予知だよ。ヴィクトリアは凡人だからね、超直感で回避する術は持ってないの」

 「未来予知……くそっ、そんな単純な手……で……」

 ハイドは目を閉じ、それっきり動かなくなった。決闘の勝者は、彼の亡骸を抱えてその場を去っていた。

旅行中につきストック分の投稿ができていませんでした、すみません

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