3話
連れて行かれて外に出ると開けた場所に出る。剣や槍などが入ってる籠が置いてある様子から、ここは訓練場と呼ばれるような場所なのだろう。
「それじゃ、試験内容を説明するぞ。戦闘で俺の基準点を合格すればよし、以上だ」
「えー……はい」
あまりに説明が少なくて俺は困惑するが受け入れる。
「説明が足りてません。戦闘において基準点を満たしていれば合格。怪我はうちの治癒士が治しますが、深い怪我は負わせないようにしてください。生殺与奪を握れば勝利、途中でやめたい時はギブアップすることができます」
すると、ギルドマスターが剣を抜いて構えた。
「武器はなんだ?ないならあそこの籠から適当に取っていいぞ」
「大丈夫、です。持ってます」
俺はアイテムボックスにしまってあった大賢者の杖を取り出す。これは神聖シリーズを手に入れるためにガチャを引きまくってたら当たったやつで、魔法使い・ヒーラー職の最強武器と呼ばれている。その補正値はなんと知力+50%、普通のレア度Sの杖が知力+30%といえばその壊れ具合が伝わるだろう。
「両者準備はできましたか?……はい、大丈夫ですね。それでは始めてください」
そして試験は開始された。しかしギルドマスターはその場から動こうとしない。
「先手は譲るぞ。お前の力、見せてみろ」
俺はその言葉に頷くと準備を始める。
(ゲーム内では技能発動に特定の動作があった。だが、ホーリーレイを撃った時は適当な動作でも発動したよな。やってみるか。クリスタルウォール……)
そう念じると六角形の光が俺の周りに現れ、そして消える。ステータスを確認すると、防御と魔防御が上昇していた。
(やっぱいけた!ならこのままやるか。リジェネレーション、大天使の加護、陰陽結界、神域繋鎖……)
技能を次々と発動していくと、複数の光が俺を包み込む。バフ、大天使の加護、リジェネレーションのエフェクトだ。そして陰陽結界を発動すると、体全体を覆うように結界の膜が張られ、神域繋鎖を使うとどこからともなく現れた光の鎖がギルドマスターを縛って霧散する。
「な、これは……!デ、デバフも使えるのか」
「はい、ヒーラー、ですから」
これで準備は完了だ。俺の使ったスキルの効果は以下の通り。
《クリスタルウォール:指定した対象の防御、魔法防御を50%上昇させる。》
《リジェネレーション:指定した対象の体力を1秒ごとに 5%回復させる。》
《大天使の加護:指定した対象に蘇生の効果を付与する。体力が0になった場合、体力を50%回復させて対象を蘇生する。》
《陰陽結界:指定した範囲内の対象にステータスダウン無効化、状態異常無効化、防御、魔防御30%上昇の効果を付与する。》
《神域繋鎖:指定した範囲内の対象に体力&魔力を除くステータスを30%上昇させ、指定した敵の俊敏、筋力、知力を30%ダウンさせる。》
これらのスキルはソロで敵を倒す時に必ず使用する。EX技能はクールタイムが長く再発動までに時間が掛かるが、装備スロットと呼ばれる魔物の核を嵌め込む場所に、クールタイム減少の効果を持つ核を複数セットしているため効果が切れる前に再度打てるようにしている。
加えて、魔力が切れないよう特殊な核も使ってたりする。それはバハムートの核という上装備(俺の場合はローブになる)指定で一つしかセットできないアイテムだ。装備スロットは3つあるのだが、こいつはセットすると残り2つが使えなくなる。
その代わり、1秒ごとに魔力を5%回復させるというぶっ壊れ能力を持つ。こいつのおかげで俺は魔力が切れる心配がないわけだ。核を手に入れるために 何度バハムートを狩ったことか……。
「準備は終わったか?それならかかってこい」
「それじゃあ、いきます」
俺は手を構えると唱える。
(ホーリーレイ)
放たれた光のレーザーはギルドマスターの剣の腹で受け止められる。
「ぬぅっ、重い!」
そして剣で軌道を逸らされると、踏み込んでこっちに向かってくる。
「闘気斬!」
「いたっ」
『43のダメージを受けました。12300→12257』
『リジェネレーションにより体力を615回復します。12257→12300』
俺は剣士の上位職、グラディエーターの技能をもろに喰らう。少し痛い。防御と回復での耐久スタイルが俺のデフォルトだが、ゲームと違って痛みがあるのが難点だ。
「なっ、馬鹿な……なんだこの手応えは。俺はレベル64だぞ!」
(ホーリーレイン)
そう頭の中で念じると呆然としているギルドマスターの頭上に魔法陣が浮かび上がり、光の雨が降り注ぐ。
「ぐおぉお!!くっ!」
バッと後ろに退避したギルドマスターは全身に重い火傷を負っていた。
「はぁ、はぁ……まだだ!」
そして剣を掲げると光が集まっていく。
「ギルドマスター、それはっ!」
「くらえぇ!」
剣が振り下ろされると、光の斬撃が地面を抉りながら飛んできた。これはグラディエーターのEX技能、《ルミナスストライク》で間違いないだろう。威力は高いが、PvPで受け慣れてるから問題ないはずだ。
ザシュッ!
「うっ……」
『343のダメージを受けました。12300→11977』
『リジェネレーションにより体力を615回復します。11977→12300』
さっきよりも痛い。普通に痛いが、この程度なら一瞬で回復できる。
「そんな……まさか、これも効いてないのか?くそ、信じられん……降参だ」
そう言うと諦めたように地面に座り込むギルドマスター。
「しょ、勝負あり!」
そして勝敗は決した。
ざわ……
いつの間にか集まっていた野次馬がざわつきだす。俺は居心地が悪くなりぺこりと頭を下げると、ヒールボールを使って回復効果のある球を飛ばし、ギルドマスターの怪我を治した。
「なぁ!?通常技能のヒールボールで完治だと!」
酷く驚いた様子のギルドマスター。
もしかして………この世界だと俺ってめちゃくちゃ強い?プレイヤーだと沢山いたんだが、レベル99なんてあり得ないって言われたし。
ゲームだと死とか怖がらずにめちゃくちゃなレベリングが出来てたけど、ここはゲームと違ってリアルだから難しいのかも知れない。力を隠そうにもステータス偽造の方法なんてゲームではなかったし、これから面倒くさいことになりそうな予感…… 。
「あの、登録のほう、お願いします」
「あ、あぁ……もちろんだ」
◇◆
「それではこちらがギルドカードになります。ランクはF、E、D、C、B、A、Sの7段階あります。ぼ、ぼっちヒーラー……様は特別措置によりDランクからのスタートになります。クエストの達成度に応じてランクは上がりますので、積極的に依頼をこなすようにしてください。なお、依頼はそのランク帯に基づいた依頼しか受けられませんのでご注意ください」
「はい、ありがとうございます」
こうして俺は、無事(?)冒険者登録を完了させるのであった。ちなみに名前は変更できないらしいので俺はずっとぼっちヒーラーだ。こんなことになるなら普通の名前にすればよかった。
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