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04.ゴブリンといえば(風評被害)



 ゴブリンの集落に接触する前準備として、はぐれのゴブリンを最低一体取り込む予定で行動します。


 その為に各所にボクを放っていますが、こう何と言うか探していない時には見つかるのに、いざ探し出せば中々見つからないのはどういう原理なのでしょうか。


 これも一種の物欲センサーなのだと思います。まぁゴブリン単体を探すのは索敵期間を除けば初めてなのですが。


 いざ単独個体を見つけようと考えはじめてから早数日経ちますが、この間まで割と頻繁にあった単独行動が明らかに無くなったのは何かの嫌がらせでしょうかと疑いたくなる現象です。




 あまりに進展のない退屈な数日を待ってようやく単独行動のゴブリンを発見しました。


 万全を期すために狼のボクで周りを囲み、蜂の針で毒を入れて猪で突撃し、血餅で取り込みました。戦闘なんていえば余りに烏滸がましいしい程に作業化された屠殺は呆気なく終了しました。


 ゴブリンを取り込んでボクは一先ず安堵します。一つはボクがボクで有れた事、二つ目は初めて言語を理解した事についてです。


 さて、ボクは彼らに捨てられたというのがボクになったゴブリンの顛末だったようですね。


 ソロには二通りある様で、実力のあるソロと不要と放逐されたソロがこの群れに居たソロの実態だったとの事。


 そしてボクは放逐されたソロであり彼らにとって不名誉な役割とされる死体拾いと呼ばれる役回りをしていたようです。要は戦士階級に居ない下賎な身分という訳ですね。


 つまり追放されたボクでは重要な場所に対する知識が無いわけで、今のボクでは攻めるに万全とは言えないと言うのが結論になるのでしょうか。


 現在ボクが知る所によると、ゴブリン集落の一般的な戦士階級の実力面では彼らの訓練に相当する環境を知っているので彼ら一般的なゴブリンの底は把握出来ましたが、今回知識を得たことで明確に魔法や魔術といった技術の存在を確認する事が出来ました。


 これは明らかな脅威です、その上で将軍や王の実力や知性といった重要な情報はボク程度では一目見た程度の情報量でしかありません。


 この村?いや街ですね。その全体を知る為には将軍(ジェネラル)(キング)を取り込む事ですが、これは理想も理想、国を動かすには王だよねくらい荒唐無稽で無謀な事です。


 ここは実力あるソロを取り込んで成り代わり地道に浸透侵略するのが最も手堅いのでは無いでしょうか?基本スタンスとして言語ある種族なら言語で対応が望ましいですがボクの最優先事項は徹底して生存です。


 基本スタンスではありますが、それはあくまで生存に余裕がある場合に限るという注釈が付くというものです。


 要は現段階でボクに致命的なダメージを与える攻撃が可能な存在が現存しているという事が十分に考えられる現状では取り込みを優先するべきだと多くのボクが主張しています。


 今回の相手は獣とは違うのです。相手は紛れもなく言語を持つ知性体であり、ボクの想定通りの過酷な自然淘汰を生き残った現存体です。


 警戒をするに越した事は無いのです。



 ◆❖◇◇❖◆



 熊の筋肉をゴブリンの皮膚で覆った見た目だけゴブリンの熊の身体で宛もなくふらふらと森の周辺を歩きます。


 あの群れのゴブリンとしての戦闘訓練自体は最低限ながらも経験済みなので拙いながらも戦闘行為を行う事は可能です。


 ゴブリンの弱い腕力は筋肉の差し替えで、ボクになる前の迫害されていたが故の卑屈さはボクになった事で見る影もない程に希釈されています。


 現状のボクはソロ活動が許される屈強なゴブリン戦士よりも戦闘技術以外は勝る存在になったと言えるでしょう。何せ事情の知らない者から見れば熊と殴り合えるゴブリンに見える事でしょうから。


 現在は只々無為に歩いているという訳ではなく、歩いている中でも何度かの接敵がありました。まぁ残念ながらそれは目的のゴブリンではなく、狼やらの獣だったのですが。


 危なげなく力任せに首を殴り付けて動かなくなれば取り込んで終了と余りに単調な作業ですね。


 暫くそんな事を続けていると少し遠くの所から戦闘音のお手本ような音が聞こえてきました。


 金属の打ち合う様な音はこの辺りでは普段耳にしない珍しい音です。ゴブリン集落の中では頻繁に聞いた記憶がありますが、それはノーカンにしましょう。


 偵察の為に鳥を放ち戦闘中であろう辺りの木の上から状況を確認しました。


 転がっている首と泣き別れたゴブリン二体と推定戦士ゴブリン四体とソロ級ゴブリン一体が銀色の金属全身鎧の人型一体を囲んで戦っています。全身鎧は恐らくボクの知る人間種に限りなく近しい存在でしょう。


 少なくともボクの記憶にある人間との違いは見つけられませんね、鎧の上からではですが。


 戦闘自体は全身鎧は鎧ゆえに辛うじて防いではいますが、結局は数の力には勝てないといった印象でしょうか。


 四体の戦士ゴブリンが囲んで波状攻撃を仕掛けて全身鎧が崩れるのを待ってソロ級ゴブリン仕掛けると、この状況を打開出来ないと全身鎧には勝ち筋がありませんね。


 しかし、全身鎧も反撃していない訳では無いので、どちらの体力が切れるのが先かの勝負にも見えます。


 あ、ゴブリンの一体が力尽きましたね。これは分からなくなってきたかも知れません、存外しぶとい全身鎧に気圧されたのか一体倒されてからは徐々に形勢が逆転して行き始めましたね。


 二体目が倒れてからは早く、ソロ級との一対一にまでもつれ込んでしまいました。互いに一歩も引かないまるで決闘の様な姿に手に汗握りますが、それと同時に疑問に思います。


 全身鎧は囲まれていたからまだしも、ソロ級は数の優位が無くなれば引いても良いと思うんですけど、何か目的があるということでしょうか?それとも戦士の矜恃とかいうやつなのでしょうか。


 全身鎧も囲まれていた頃なら逃げられないでしょうが、金属の全身鎧であれだけ機敏に動けているのにも関わらず逃げようともしないのは目的があるかボクには理解出来ない何かがあるのでしょうか。


 あるいはボクが臆病にも勝てる戦いしかしない性分故の疑問なのかまでは分かりません。


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 今までのダメージの蓄積もあったのでしょうが紙一重でソロ級が勝利しましたね。それでも無傷とは言えない程に疲弊し切っているようですけど。


 さて、仰向けで胸を大きく上下させているソロ級ゴブリンの背中に蚯蚓が地中から蜂針で蛇毒を注ぎ込みます。


 気付いた頃にはもう遅く、蛇毒は既にゴブリンに致死量注ぎ込まれた後です。


 ボクは最後のゴブリンが息絶えるのを待ち、その場にある全てのゴブリンと全身鎧を取り込みました。


 やはり死闘なんてものはするものではありません。漁夫の利こそが最も効率の良い戦闘方法です。


「ご馳走様でした。」


 これでボクは人間の姿と知識、ゴブリンの戦闘技術と潜入手段を手に入れました。



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