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第五話-異世界風味-

「グルルルル」


やわらかい草の香りがした。

目覚めた僕はどうやら寝た状態になっているようだった。

目を開くと木々から溢れる木洩れ日に思わず目を細めてしまう。


「グルルルル」


体を起こそうと思ったが、なかなか思うように肢体が上がらない。体がやけに重かった。


「グルルルル」


どうしたものかと体を触れてみると、なにやら硬い物に触れた。

思いっきり力を込めて腰だけ浮かして、座った状態になり、そこでようやく、体が重い原因や硬い物体の正体について分かった。

僕は鎧を着ていた。

それだけじゃない、腰に剣を携えていた。


「グルルルル」


なんとなしにその剣を鞘から抜き、頭上に掲げてみたが、ずっしりとした重みが僕の腕を蝕んだだけだった。


「グルルルル」


ところで、さっきからやたらと聞こえてくる人ならざるものの声について、それに気付いた僕は焦って再びねっころがり、死んだふりをした。が、勿論そんな子供だましが通用するわけもなく、そいつはダラダラと涎を垂らしながらこちらに近寄ってきた。そいつは犬のような姿をしていたが、犬ではなかった。一角の角が生えていた。


「グルルルル」


尚も死んだフリをしながら僕は思った。


―――どうしたもんかな…


少しずつ縮まっていく僕と異形の生き物との距離。

その時だった。


バシャッ


何やら水のようなものをかけられた、いや、ぶっかけられた。

しかもその液体、ものすごく臭かった。


「ブッハァ、な、なんだこれ!な…くっさぁ!」


思わず僕は叫んでしまった。しかしその匂いのせいか、僕に近づいてきたその生き物は驚いて、走ってどこかに消えていった。

とりあえず目下の危機を回避したことに安堵したわけだが…さて、目の前に立っている人物にはどう対処すべきか。

僕は重たく臭い体で立ち上がり、言った。


「た、助けてくれて、どうもありがとぅます」


僕はここに来て致命的なことを思い出した。


――僕、人見知りじゃん。最後の方とか自分にも聞こえないぐらい小さな声だったし…。


案の定、聞こえていないのか、その長身の青年は大きな弓を片手に持ち、こちらを見据えてなにも言わずに立っていた。

僕は視線を相手の足下に落とした。弓を持っていることに気圧されたわけではない。ただ、目を合わせるという行為が僕にはしんどかっただけだ。

沈黙と匂いだけが、その場に立ち込めた。


――すごく気まずい。この状況、どうしようか。


・・・・・・・・・・・・・・・・・・・


先に口を開いたのは幸いなことに向こうからだった。


「付いてこい」


彼はそう言って、くるりと背を向けたかともうと、そのまま歩き出した。

見ず知らずの人についてこいと言われてついて行くほど僕は人を信じているわけではないが、彼の僕を助けたという事実を考慮して、僕は彼の後を付いて行った。頭の回転だけは冷静だった




着いた先は小さな村だった。

一見普通の村だったが、僕はそもそもその普通の村を見たことがないので、何とも言い難かった。しかしそれゆえに、新鮮ではあった。


どことなく僕らの過ごしてきた世界とは違う雰囲気に気づく。

彼女の言っていた言葉を思い出した。


村の人に奇特な目でみられながら、進んでいく。

かなり歩いて、目算だが、村の中心当たりにまで来たところで彼は足をとめた。僕も足をとめた。


「入れ」


彼が言った。

その建物はまわりの家々と比べると若干、大きかった。

僕もだが、この人もかなり口数が少ないなと思った。ここまで来る中で一言も会話を交わしていない訳だし。

僕は言われるままにその建物に入って行った。

中は僕の見てきたごくありふれたの一般家庭とは異なり、かなり時代的なものを感じた。つまり、これは僕の勝手な偏見だが、ひと昔前の西洋の、不自由なく暮すことのできた家がこのような雰囲気ではないだろうかと思った。

紙がうず高く積み上げられた机の向こうに姿を現していた人物は、初老の老人だったが、その体は、そこいらにいる中途半端に体を鍛えている人たちのそれとは違い、屈強そのものだった。

僕をここまで連れてきてくれた彼は言った。


「ラディル町長、トキサの森にいた不審者を連れてきました」


その人が町長と呼ばれたところを聞くと、どうやら僕は村と町の定義をよく理解していなかったようだった。そこら辺のなんやかんやは、なかなかに難しいものだ。

いやしかしそんなことはこの際どうでもいい。そんなことよりも僕はどうやら不審者扱らしいった。そっちのほうが問題だ。

一体どうしたものか。

村長ラディルが言った。いや、町長だったか。


「お前、くさいな」


いきなりの失礼な言葉に僕はあることに気づかされることとなった。

ああ。ああ、そうだったのか。だからなのか。心なしか町の人たちの視線が冷たかったその理由は。

まさにこれこそ、一体どうしたものかだった。

しかし、これについてはすぐに解決することとなった。


「とりあえず話はお前のその匂いが取れてからだ。おいカイン、そいつを宿屋に連れてけ。金は俺につけておけばいい。」


町長はそう言い放った。

寡黙のその人、カインに連れられて、僕は早くも町長の家を出た。

いやしかし、本当に早かった。最悪な第一印象だったろう。


宿屋はすぐそばだった。どのくらいすぐかと言うと、その家を出てすぐ目の前の建物だった。

宿屋の主人に、やはり怪訝な顔をされながら、なんとか受付を済ませ、部屋まで案内される。その間僕は、気を使ってずっと一番後ろを歩いていた。

部屋につくと、カインは夕飯を食べてからまた町長の家にこいと言って宿を出て行った。

カインと町長のやり取りのどこにそのようなことを伝える会話があったのかと思いながら部屋に入って行き、そもそも僕は不審者扱いだったはずなのだが、待遇が良すぎるなあと思いながら体を洗い、少し考えてから鎧も洗った。

そこまでやり終えるとすることがなくなり、ベットに横になった。

そしたら、そのまま夢の世界へ飛んで行ってしまった。

・・・・

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