第三話-やっぱりラーメンは美味しかった-
話は進みません。
学校を出て橋を渡り、高架下を抜けて街に入った。
街ではちらほらと同じ学校の生徒を見かけた。
風間は入り組んだ裏道を早足に進み、少し行ったところで歩みをとめた。
目の前にはボロ屋があり、よく見ると上の方にラーメンと書かれていた。
「ここ、俺の気に入りなんだ。」
風間が言ったが、僕は返事を返さなかった。
多少抵抗を感じながら、風間について店の中に入ると、店内は電気が付いておらず薄暗く不気味な雰囲気を漂わせていた。普段なら間違っても入らないような場所だったが店内はそれなりに賑わっていることが、僕には奇妙に感じられた。
しかしそんな僕の思考を遮るかのようにそいつはいた。そこにはなんと、先日どこぞのマンションの屋上で出会ったあの少女が、豪快にラーメンをすすっていたのだ。
ずずずずっと小気味いい音を立てながらを麺を啜る少女を横目に僕らはカウンター席に座った。
ちらちらと目をやっているあたり、やはり風間もその少女のことが気にかかっているようだった。しばらくその状態だったのだが体格のいい白髪交じりの店主に不機嫌そうな顔をされて風間にお勧めされたねぎラーメンを注文した。
ねぎラーメンが出てくる間に小声で風間が言った。
「お、おい、あの子・・・」
最後まで言い切らなかったが言いたいことはしっかり伝わった。
「うん、かわいい子だな」
「おいおいおいおい、なんだか素っ気ないなあ。お前ちゃんと見てんのか?あんなにかわいい子そういないぞ」
それにしても美少女がラーメンにがっついているという光景は、何となく情緒を感じるなぁ。
なんてことをかんがえていると風間がさらに言葉を紡いだ。
「長い黒髪に雪のように白い肌、大きめな瞳、美しい鼻のラインとそれらすべてを引き立てる凛々しい輪郭。細身の体にこぶりな胸。そしてなによりあのきをてらうことのなく、爽快なまでにすがすがしい食いっぷり。たまらねえ・・・」
そういってじゅるりと舌なめずりをする風間を見て、なんだか気味が悪いな、妙な性癖もってそうだななんて思っていたころに、僕らの目の前にどんっとラーメンが置かれた。おいしそうな匂いにひかれてさっそく食べてみると、なるほど、風間が気に入るのも納得の味だった。なかなかおいしいという旨を伝えようと思い、風間の方を見やったら、うめぇを連呼しながらラーメンに食いついていたので、僕も食べるのに集中することにした。お互いしばらく無言のままラーメンを食べていると、ふいにその彼女の声が聞こえたので、僕はなんとなしに、視線を向けた。
「ごちそうさま。はい、これ。」
言って、差し出した彼女の手のひらにはラーメンのお代が握られていた。
しかし、店主はそれを制止し、いった。
「おっと、可愛い嬢ちゃんから金をもらうわけにはいかねぇや。そのお金で親孝行でもしてやんな。」
少女はその言葉に驚いた顔を見せたあと、直ぐに笑顔を見せた。
「それじゃあお言葉に甘えさせていただきます」
彼女はそう言って立ち上がると店主に一礼してから、ピンとした姿勢で歩き出し、店を後にした。
気づいていたかいないか、その間彼女は店中の視線を独り占めしていた。
数十分が経った頃、僕らも店を出た(もちろん、お金は払った。)。
「ぷっはー、くったくった。見ろよこの腹。パンパンだぜ。いいもんも見れたし今日はついてんのかな、俺。最高の気分だぜ、ヒャーハァー!!」
僕は腹を丸出しにして、パンパン叩きながら言った。・・・・・・・・わかってるとおもうけどウソです。
「たしかに、結構量あったからな。満腹だわ。」
これが本当の僕のセリフだ。一息ついてから風間は言った。
「ところで、これからよって行きたいとこあるか」
「いや、ないよ」
「んじゃ、帰るか」
僕らはラーメン屋で見たあの名前のわからない少女の話などをしながら家路についた。
”ここから帰ったら、またあのラーメン屋に行こう。
そこからさらに一拍あけて僕は言った
いいだろ、それくらい夢見たって”
風間に乞うご期待