憑りつかれた男
こちらは百物語七十七話の作品になります。
山ン本怪談百物語↓
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私は寺の住職をやっているものです。
お祓いもよくやっており、色々な人を見てきました。
そんな中でも一番記憶に残っている話を、今夜はお話したいと思います。
時間はお昼過ぎ。私が寺の入口を掃除していると、若い男が私に声をかけてきました。
「あの、すみません。いきなりで悪いんですけど、私に憑いている霊を見てくれませんか?」
男の名前はY。週刊誌のカメラマンをやっていると私へ話しました。
「最近よく雑誌の取材で心霊スポットへ行くんですよ。もしかしたらどこかの悪霊に憑りつかれているかもと思って…Sトンネルとか知ってます?今度特集するので買ってくださいねぇ」
悪い人ではなさそうでしたが、あまり良い印象でもありませんでした。
「あぁ、それはいいですけど…あの…最初に言っておきますけど、何も憑りついていませんよ?」
私の前に霊が現れると、何かしらアピールのようなものをしてくるのです。しかし、男を「霊視」してみても、何も見えないどころか気配すら感じません。
「そんなこと言って…まさかヤバい悪霊が憑いていて払えないから嘘ついているんじゃないですか?本当の事言ってくださいよ、ねぇ!」
少し腹が立ってきましたが、本当のことなのだから仕方がありません。
「…ちっ、そうですか。もう帰ります」
男は私の言葉を理解した後、すぐに寺から立ち去ろうとしました。
しかし、私は1つだけ男から『聞かなければならないこと』があったのです。
「ちょっと待ってください。こちらからも1つだけよろしいですか?あなた、寺へ来る前に『何か』やってきましたね。あまりよくないことを…」
男に霊は憑いていませんでした。しかし、男の持つ『オーラ』が気になって仕方がなかったのです。
男は立ち止まると、少し困ったような顔でこう答えました。
「えぇ、ちょっと1人殺してきましてね。わかっちゃいましたか?」
男の持つオーラが異常だったのです。普通の人のオーラは情熱的な赤であったり、綺麗な青だったりします。
しかし、この男が放っているオーラはヘドロのような「黒」でした。
「冗談ですよ、冗談!それじゃあ、失礼します…」
男は私に向かってにこっと笑うと、そのままゆっくりと寺を立ち去っていきました。
あの背筋がゾッとなるような笑みは今でも忘れていません。
数週間後、テレビを見ていると…
「えぇ…速報です。Sトンネルで起きた殺人事件ですが、被害者の同僚である男が先程逮捕されたという情報が入ってきました。男は警察官に『心霊スポットへ取材に行ったら霊が出てこなかった。本物の霊を出すためにその場で同僚を刺殺した』と意味不明なことを話しているようで…」
あの男でした。
どうやら彼は、同僚を殺した後にうちの寺へ来たみたいです。
残念ながら、彼に憑りついている霊は1人もいませんでしたよ。
ただ、ある意味で彼は霊という存在に憑りつかれていたのかもしれませんね。
私が体験した中でも少し不思議な怪談でした。
お久しぶりです、作者の山ン本です。
ホラー2022のお話を最後に長いお休みへ入ってしまいましたが、またのんびり書いていこうと思います。
お時間があればまたよろしくお願いします…!