第10話(3)母娘の会話
「やっほ~♪」
モニターに白衣姿で眼鏡の女性が映る。髪型はショートボブだが、顔は舞と瓜二つである。
「お、お母さん! ど、どうやって……」
「お義父さん……おじいちゃんの使用しているサーバーをちょっと拝借して……そちらにアクセスしているわ」
「ふむ……舞の母親か、なるほど、確かに母娘よく似ているな」
ジンライがモニターを覗き込んで呟く。
「あ、貴方がジンライ君ね? 初めまして、天ノ川翼です。舞がお世話になっております」
翼と名乗った女性が丁寧に頭を下げる。
「ああ、いつも世話してやっているぞ」
「ちょっと、嘘つかないでよ!」
「それにしても……」
「ん? 何かしら?」
「いや、舞に似て美人だなと思ってな」
「なっ、な……⁉」
「あら、お世辞でも嬉しいわね」
戸惑う娘とは対照的に、翼は落ち着いて答える。
「俺様はつまらん世辞は言わん。本心を述べたまでだ」
「ふふっ、どうもありがとう」
「そ、それよりお母さん!」
「何?」
「何?はこっちの台詞よ! 急に連絡してきて、何の用⁉」
「いや……元気にしているかしらと思って」
「わざわざハッキングまでして聞くこと?」
「気になったからね」
「普通に電話すれば良いでしょ」
「電話よりこういう方が雰囲気出るじゃない?」
「なによ、雰囲気って……」
舞が軽く頭を抑える。
「まあ、冗談はさておき……」
「やっぱり冗談だったんじゃない」
柔和な笑顔を浮かべていた翼が真面目な顔つきになる。
「舞……例の件は承知しているわよね?」
「……ムラクモとかいう奴が五稜郭学園を襲撃するって話?」
「そう、明々後日か弥の明後日に」
「その辺曖昧なのが気になるのよね……」
「貴女も学園には近づかないようにしなさい。ムラクモ君は非戦闘員などには危害を加えないと言っているけど、万が一のことがあるからね」
「なんでムラクモと手を組んでいるの?」
「聞いていない? NSPというエネルギーを解明する為には、彼の協力が必要なの」
「おじいちゃんにNSPを渡したのは何故?」
「正直言うと専門外だったから……でもあのエネルギーには研究者としての心が大いにくすぐられたわ。それで、おじいちゃんならより詳しいことが分かると思ってね」
「だからって、ネットオークションに出品するなんて回り道過ぎない?」
「出品に関しては間違ったのよ……」
「間違った⁉」
「別の鉱石を出すつもりだったんだけど……徹夜続きで頭こんがらがっちゃって」
翼はウィンクしながら舌をペロッと出す。舞は呆れる。
「そ、そんな……」
「でも、おじいちゃんが買ってくれて良かったわ、結果オーライってやつね。ただ……」
「ただ?」
「その発見を公表し、『NSP』と名付けて、大々的に発表するとは思わなかったわ。その手の功名心は持ち合わせていない人だと思ったから」
「自己防衛の一環では無いか?」
「……そうね、そう考えた方が良いのかも」
ジンライの言葉に翼が頷く。舞が尋ねる。
「なんで、ムラクモが学園を襲うのよ?」
「……おじいちゃん、疾風大二郎博士が突然、函館の街中に点在させていたNSPを学園に集めさせ始めたからよ」
「ええっ⁉」
「何故そのようなことを?」
驚く舞の代わりにジンライが尋ねる。翼は首を傾げる。
「分からない……NSPの解明になにかつながりがあるのではないかと見ているけど」
「作業が完了するあたりを見計らって、襲撃するというのがムラクモの計画か」
「そういうこと。あまり手荒なことはしたくないのだけど、これ以上、疾風大二郎博士を泳がしておくのは危険だと思い、ムラクモ君に同意したわ」
「つまり……おじいちゃんを利用したってこと?」
「言い方は悪いけど、そう捉えられても仕方ないわね」
舞の問いに翼は淡々と答える。
「おじいちゃんは確かにエキセントリックな所もあるけど……平和の為、人々の暮らしが良くなる為、研究を行ってきたのはお母さんも知っているでしょう?」
「……そうね、尊敬できる方だわ」
「そんな人を利用するなんて許せない! おじいちゃんの研究成果を横取りなんてさせないわ! 私、学園で迎え撃つから!」
「バカな真似はやめなさい!」
「バカじゃない! 大真面目よ!」
「……はあ」
舞の顔を見つめ、翼はため息をつく。舞は首を捻る。
「?」
「昔から一度言い出したら聞かない子だったわね……こうなったらムラクモ君には重々お願いするしかないわね」
「襲撃を取りやめるという選択肢は無いのね?」
「もう賽は投げられた状態よ。私たちも後戻りは出来ないの」
翼は冷徹とも思える声色で告げる。
「そう……」
「心配は無用だ。この俺様がいる限り、舞には傷一つ付けさせん」
「ジ、ジンライ⁉」
「頼もしいわね。こういうことを言うのもあれなんだけど、舞のこと……貴方に頼むわね」
「ああ、頼まれた」
「い、いや、何勝手に話を進めているのよ!」
「これ以上はお邪魔だから切るわね……あ、貴方、今舞と話しているのよ。何か話す?」
「お、お父さん⁉ ちょ、ちょっと待って! 今入浴中だから! こっち来ないで!」
「来ないでって……あ~あ、お父さん傷ついているわよ」
「しょ、しょうがないでしょ⁉」
「どうせならジンライ君のことも紹介したかったのに……え? ジンライ君、舞のことを守ってくれる男の子よ。今、舞と仲良く入浴中なのよ」
「ご、誤解を招くような発言やめてよ! 事実ではあるけど⁉」
「寝顔を見せあった仲でもあるぞ」
「アンタも余計なこと言わないで!」
「あら? お父さんどうしたの、そんな鬼のような形相しちゃって……」
「お、お父さん、違うの! ……あら? 通信が切れた?」
「……今更だが、こうなると大二郎の腹も探る必要があるな……」
「~~~」
「どうした舞?」
「なんでアンタこんな近くに来てんのよ! 堂々と覗いてんじゃないわよ!」
「ごふぁ⁉」
ジンライは舞の豪快なパンチを喰らってしまう。
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