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とある思いつきを検証しようと思う

 さえない人生を送り、はや四十代になってしまった俺は、半分ひきこもりのような低収入低やる気の生活を送っていた。どうしてそうなったのかって? わからん。たぶんやる気が足らなかった。

 ところが、ある日ふと外出…しなかった。そして大型トラックに轢かれ…なかった! ステータス画面を開い…開けず、チートスキルを手に入れ…なかった俺は、それはそれとして実家の裏山を荒らすイノシシの群れ、そして侵略の手を広げ続ける竹やぶに対処しようと思う。


 イノシシはやばい。たとえ宇宙人が侵略してきたとしてもこれほどの被害はもたらさないだろう。いやそうでもないか。それはともかく、俺の実家がある南房総には……

 出身地とか個人情報だし書かない方がいいかな? まあいいや、この話には地域性や気候も関係してくるので地名を出さざるを得ない。

 南房総(千葉県の南の先っぽ)にはもともとイノシシなんていなかったのである。いや、数百年前とかにはいただろうけれども、近現代になってからは消滅していた。しかし南房総が人口過疎地帯となるにつれて、他県から移動してきたのか、飼われていたものが脱走したのか、それはわからないけれども、十数年ほど前にイノシシが出没するようになった。そしてあっという間に大繁殖し、あらゆる田畑を荒らすようになったのである。

 俺の実家もその被害を免れなかった。


 実家には老父母が住んでいて、自家消費程度の小規模な農業を営んでいる。所有している農地はとくに広くはない。専業農家の人からみたらちっぽけな農地であろう。家の前と横、そして裏山にも畑がある。

 裏山というのは何かというと、まさに家の裏にいきなり山があるのである。山といっても小さい。頂上部でも海抜百メートル以下だろう。そもそも千葉県に高い山はない。山国の人からみれば「それ山? 丘でしょ?」と笑われてしまうくらいの隆起である。

 それはいいとして、ともかく南房総はでこぼことした小さな山に満ち溢れているので、家に裏山があることは普通なのである。ちなみに当然ながら、こういったちまちました地形のせいで、南房総の道路は狭く曲がりくねり、交通の便が悪い。


 イノシシは強い。そして食欲旺盛だ。エサのあるところには毎日出没して、地面をほじくり返す。それは途方もない被害をもたらす。

 毎日、毎日ですよ! イノシシの群れが同じ畑をほじくり返すのである。イノシシというのは体重100kgを超えることも珍しくない。意思をもって動く小型のブルドーザーと表現してなんら過言ではないパワーで、毎日毎日(イノシシは夜行性なので、正確にいえば毎晩毎晩)、畑を掘りまくるのである。野菜や果物だけでなく、どうやら植物の根や球根、地中の虫なども食べているようだ。

 また背伸びして届く限り、ミカンや柿などをむしりとって食べるばかりか、果樹そのものの周囲を掘り起こし、根っこを食いちぎり、ひき倒してしまう。実家の果樹がイノシシに何本駄目にされてしまったか、もはや数えきれないほどである。

 いまや何を育ててもイノシシに荒らされ、人間はそのおこぼれを食べているありさま。わが実家の農業は、もはや風前の灯火である。


 読者はこう思うだろうか――イノシシが問題なら、畑を金属のフェンスで囲えばいいだけなのでは? それにほら、ビリビリした電気の線を張ればイノシシを撃退できるんじゃなかったっけ?


 イエスでありノーだ。たしかに、金属フェンスや電気柵は大いに有効である。しかしその設置と維持が簡単なら、イノシシ被害が問題となりはしない。柵で囲うことがうまくいくのは開けた平地のみである。電気柵は毎週の点検と草刈りを怠れば効果がまったくなくなる。いずれも少しでも地形に傾斜があれば格段に設置が難しくなり、ましてや裏山のようなでこぼこの斜面では実現性が限りなく低い。イノシシ被害が全国の山間部で大問題となっているのはそのせいなのだ。


 あとは竹やぶだ。これはイノシシ以前からの問題だけれども、過疎化・高齢化で人の手があまり入らなくなった土地は、どんどん竹やぶに侵略されてしまう。生えてくるなら切ればいいだろうって? いや、そんなかわいいものではないからこそ、全国で「竹害」と呼ばれるほどの問題になっているのだ。竹は繁殖力がすごいだけでなく、それを切って片付ける労力の大きさも途方もないのである。


 そして竹やぶとイノシシは相性が良い。いや人間からみれば最悪のタッグだ。イノシシは竹の根っこやタケノコをエサにするだけでなく、竹やぶをねぐらとし、竹やぶの中を好んで移動する。人がこまめに手入れをしている特別な竹林を除けば、竹やぶというのは人が一歩も立ち入れないほど密生した竹のジャングルである。イノシシが神出鬼没に田畑を荒らすのは、竹やぶの役割も大きいのである。

 竹やぶとイノシシ、この組み合わせが俺の実家、そして日本全国の山間部を蝕んでいるのである。


 だが俺はこの十年間、ずっと考え続けてきた。

 なにかいい方法があるのではないか。

 イノシシを撃退するための、理想的な方法が。

 新たな方法を発明し、検証し、改良することで、実家の畑を守ることができるのではないか。

 それに成功すれば、わが実家のみならず、同じ境遇にある日本全国の山間地を救うことができるのではないか。

 大げさに言えば、日本を救うことができるのではないか。

 いやそれはさすがに大げさだな。


 まあいい。

 俺は半ニートだ。チート能力はない。というか運転免許すらない。

 でも、思いついたのだ。

 うまくいくかもしれない方法を。

 もしかしたら。

 もしかしたら、実家の小さな畑をイノシシ被害から救うことくらいはできるのではないか。しかもそれは、憎い敵である竹やぶへの対処も兼ねることができるのではないか。


 この思いつきか成功した時、そのときはじめて俺は、こう思えるのではないか。

 俺の人生は間違っていなかった、と。

 いやそんなわけない。主に間違いしかない人生だった。

 それはともかく次回からこの思いつきを検証していこうと思う。


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