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~Raining(雨が降る)。そして二人はDating(デートする)~ *1*


   ◆


 結論から言うと、あすなろくんとデートしたい! 心の中で姫子は叫んだ。

 登校時間で教室に慌ただしく生徒が入ってくる。あすなろが五分前に入ってくる。

 姫子はあすなろのほうへ行き、挨拶をしようとした。

「おはよう、あすな……」

「あすなろくん、おはよう!」

 姫子の目の前を横切り、真っ先に彼に近づいていったのは、活発な女子生徒だった。その子に話しかけられてあすなろは、彼女との話に入れ込んで二人の口が回る。その会話に割って入る勇気はないし、この子を押しのけることも無謀だった。

 そこの女の子あっちいけ。そう姫子は叫びたい気分である。

 話が終わった頃には先生が入ってきてしまう。

 どうしてこうタイミングやチャンスが訪れないのだろうかと、姫子は自分で自分を呪う。とはいえ、チャンスができたとしても姫子はそのチャンスを活かすための勇気がないのだけれど。

 それにしてもどうしてこう無駄に嫉妬心が強いのか、あすなろが他の女子と話すところを見ると、姫子は苛立ってくる。それこそ理不尽なのに、その心を姫子は正せない。

 ともかく姫子はこの朝方から、思っていることはひとつ。

 あすなろくんと二人で会話がしたい、そのために二人でデートをしたい。このことばかりが頭に浮かぶことが繰り返された。

 席に着いて授業を受ける。ため息ばかりがつい出てきて、先生の言葉がまったく頭に入ってこない。


 それにしても晴れの日続きだ。特別に雨が降って欲しいとかは言わないけれど、今日はあまりに暑すぎる。真夏日がこう毎日続くのもまた問題である。

 そう思いながら、購買で先ほど焼きそばパンを買った。もくもくと食べながら、悶々とした憂鬱が心にのしかかる。

 敷地内にある並木のそばにあるベンチで、昼休みを過ごす。

「姫子!」

 並木のすぐそばで逆さ女が現れる。

 不気味な笑い声をあげた瞬間に目が合った。食べていたパンが喉に詰まる。

 胸を押さえて咳き込み、逆さ女をにらみ返してやった。

「あら怖い顔ね」

「あんたに言われたくないわ、ルテ!」

 怒り顔でにらみつけて姫子は、慣れた小声でルテに言う。

「あなたさっきからため息ばかり、何なの? あすなろくんとデートでもしたいの?」

「大きな声でそれを言うな!」と姫子が叫ぶ。周囲で数人の生徒がこちらを見た。

「私の声なんて聞こえないわよ、幽霊なんだから」

「あっそう」

 落ち着いてから何回か深呼吸をし、ベンチに座って姫子は姿勢を正す。何事もなかったかのように振る舞う。

「なんで知ってたの? あすなろくんとデートしたいって」

「あすなろくんのことを見てた、あすなろくんとデートしたいってノートになんべんも書いてた、そして寝言を呟きながらあなたは夜ごとあすなろくんとデートしてる夢を見ていたようで、それから……」

 もう何も言うなと言いたいばかりに、姫子は手のひらを出してルテの言動を制止する。耳がじんわりと熱くなる。

「はぁ……、簡単にそんな願いが叶うわけないよね」

「私なら叶えられるわ」

 ルテの言葉に耳を疑った。彼女の言ったことを反芻して、「ルテのことだから」と信用ならないと考えはするが、姫子はルテを見やる。

「嘘じゃないわよね?」

「う、うん。だって私にはあの力があるし」

 先日、あのバーベキューの火事から姫子たちを助けてくれたのはルテだ。だがその力がいまどうして関係してくるのか。

「あんた恋の魔法とか呪文とかも唱えられるの?」

「そんな都合のいい魔法なんて存在しないわ、あったとしても私は持ち合わせてないし」

 その通りだと姫子はわかっている。

「あんたができるのは、雨を降らすことだけ」

「そうよ」とルテが言って、雨の力でどうやってあすなろくんとデートする運びにできるのか全然わからない。姫子は疑いの眼に戻って、ルテの顔を見る。

 姫子は「あんたの作戦を聞かせて」と言う。すると……ルテは隠すつもりもなく、むしろ作戦をいまかいまかと明らかにしたかったような目をして、具体的内容を話し始める。

「姫子がデートに誘えばいいのよ」

「……はぁ? あんたここまでの話のくだりわかってるの? それができないってあたしは言ってるのよ」

 ルテは本当に話を理解できているのか姫子はいぶかしく思う。

「ううん、デートを誘うことぐらいはあなたがしなさいよ」

「だからできないって、第一それあんたの力をまったく借りてないじゃない」

 単刀直入に姫子があすなろにデートしたいって言うだけならルテの雨の力なんてまったく関係がない。姫子は当然そう思った。

「ところが雨が必要になってくるの」

 とりあえず話の概要だけでも聞くことにしよう、と姫子はいったん静かになる。

「姫子、あなたはあすなろくんをデートに誘いなさい。私はそれを断らせないようにするの」

「けっきょくあたしが誘うのは確定なの? そんな勇気ないわよ」

「振り絞るだけの勇気と最低限の努力だけは持っていなさい。私は絶対にあすなろくんが断れないようにするから」

 うんうん、と頷きながら姫子はとりあえず彼女の意向を受け取った。

 話をおおまかに整理するとこうだ。

 姫子はルテの雨の力を利用させてもらう。そして姫子はあすなろをデートに誘う。ルテの雨の力で彼はその申し出を断ることはできない。だからあすなろはデートを承諾する。そういうことで姫子はあすなろとデートをすることが確定する。おめでとう。

 こういうことだろうが、姫子はまだ理解できない部分がある。

「雨の力を使うと、どうしてあすなろくんは断れないの?」

 そこが最も要となるところである。はてさて、雨の力でどうしてあすなろは姫子からのデートの誘いを断れないのか。

 その仔細をルテがいまから説明する。

「それはね……」

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