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~私たちが対峙するFire but...(燃え上がり、でも)私たちはnot Liar...(嘘吐きじゃない)~


   ◆


 窓のない壁を背中に、そして目の前には炎の壁。すでに両横の際まで広がり、走ってかいくぐるのは容易なことではない。もちろん炎の中を走るなどそんな勇気は二人にはなかった。

 汗が滴り落ち、露子の顔が黒ずんでいた。

「どうしよう、露子」

「姫子ちゃん……」

 熱気と熱放射で、露出した手や足、顔が痛い。耐えられない暑さだ。だがそれもまだいまは生ぬるいほうなのだろう。このまま何かをしなければ、二人が焼死するのも時間の問題だ。

「うち、絶対に雨を降らす!」

「え? でも本当に雨乞いをするなんて」

 こんなときに限って、姫子は疑ってしまう。確かに露子の雨乞いが本当の雨乞いであって欲しいとか、そんな希望を抱いてはいたものの。雨乞いをしなければならない状況に遭遇したこの場面となると、本当に雨乞いできるのかという疑念のほうがつい表に出てしまった。

 もちろん、露子も姫子のそういう思考の流れは察知していたのか。

「やらないよりはマシでしょ、雨乞いも占いもお祓いも所詮そんなものよ。何もしないよりかは、何かをするほうが大事なのよ」

 この熱気の中、露子は深呼吸をして、目を閉じる。

 そして雨乞いの儀式を踊り始めた。空に雲はあったが、曇っているうちには入らない。

 それでも汗の飛沫を散らしながら、露子は踊る。わらにもすがる気持ちだ。苦しいときの神頼みというのは、こういうことを言うのだろう。姫子も雨乞いが成功して欲しいと願っている。普段特別に祀るとかそんなことを考えるほど敬虔ではないのに、両手を絡め天上の神様に祈る。お願いしますお願いします、と。

 だが、身体がしなって露子は倒れる。

「露子!」

 倒れた露子に駆け寄って、姫子はゆっくりと起き上がらせる。

 姫子と目が合いそうになったとき、露子は顔をそっと背けた。

「ごめんなさい」

「なんで謝るの!」

 露子は真剣に雨乞いをしている。いい加減な気持ちでやっていることは決してない。露子の瞳から涙がこぼれた。ふがいない自分を呪うように。

「どうして雨は降ってくれないの?」

「露子……」

「神様ってそんなに優しくないんだね」

 炎は二人の身体が焼ける瀬戸際まで迫っていた。

 神様は残酷だ。露子だって頑張ってるのに、どうして神様は認めてくれないのだろうか。せめて死に瀕するときぐらい、助けてくれたっていいのに。姫子は顔をゆがめる。

「駄目だよ、姫子ちゃん」

「え?」

「神様のこと、恨んじゃ駄目だから。ねっ?」

 どこまで露子は礼儀正しいのだろうか。少なくとも神様よりも優しくてしっかりした心の持ち主だと姫子は言いたい。もし神様がそばにいたのなら、そう訴えてやりたいくらいだった。そんなことを考えただけで、姫子の目からも涙がこぼれ落ちる。

 息苦しくなってきた。呼吸ができるぎりぎりまで炎に追い詰められる。

 もう駄目かと思った。

 そのとき、頭に何かが当たった。

 地面に落ちて、何気なくそれを拾う。

 てるてる坊主だった。あのときルテが持ち去ったものである。どうしてこれがここにあるのか。正直わからない。

 そのとき、ルテの言葉を思い出した。

 ――また会いたくなったら呼んで。

 ――思い出の品が燃えてなくなるのを、黙って見ているのが耐えられないときとか……。

 これはそれを試せというのだろうか。

「ルテ……」

 これはあんたを呼べということなのか? 姫子はルテを呼ぶ利点がよくよく理解できない。

 ただもしあの言葉が、どういう意味なのか。そこですべてがつながった。

 キャンプファイヤーで思い出の品が燃えてしまうさまを見たくないとき。

 夢と現実が、混乱と合理が、混濁するこの最中に何をすべきなのか。

 それは例えば悪あがきかもしれないし、意味のないことかもしれない。

 けどそれは神様も同じ。占いもお祓いも同じなら、やるしかないのだ。

「ごめんね」

 手の中で、墨筆で描かれた笑顔をしたてるてる坊主に語りかける。そして、切ない気持ちでてるてる坊主を炎に向かって投げた。

 てるてる坊主が燃えていく、燃えていく、燃えて……。

 大切なものが燃えていくの耐えきれない気持ちでいっぱいになる。

 思い出が燃えていくさまを見たくなくて、思わず目を背け、涙がこぼれないように空を見上げる。

 炎の煙が向かう上空が、物々しい雰囲気を醸し出しながら、空気が渦巻いてきた。

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