策
「これでしばらく鼻は使えないだろう」
英斗は再度木に紛れると、地下空間作りを再開する。先ほど生成した6m四方の空間の周りを全て鉄で覆う。これにより地下シェルターのような簡易空間を作り出した。
すると、怒り狂ったレオの咆哮による衝撃波で殆どの木がなぎ倒される。鼻は全く利いてないようで、少しふらついているがそのまま英斗の下へ駆ける。
レオがその地下空間の上に来た瞬間、英斗は地面を崩壊させレオをその空間に落とす。英斗はレオが落ちている段階で既に次の一手を打っていた。大量の水である。
その空間がすべて埋まるほどの膨大な水を流し込む。瞬く間にその空間を水で埋めると、英斗は鉄でその空間に蓋をする。
レオは窒息させようとする英斗の意図を見抜き、爪で斬撃を放つ。だが、水中で思うように動けず、いつものような威力は出なかった。溺れる覚悟で衝撃波を口から放つも、水から鉄まで伝わる過程で威力は落ち、鉄を完全に破壊するほどの威力は出なかった。英斗はこの瞬間も上部の鉄を厚くするため鉄を生み出していた。上部の鉄は三重の分厚さまで厚くなり、レオは辛抱強く上を攻撃するも、1枚目を破壊したところで酸素を失い始める。
「いくら力が強くとも、同じ生き物だ」
英斗は静かにレオが窒息するのを待った。レオは徐々に空気を失い、最後には完全獣化も解けてしまった。
こ、こんな戦い方が……ある……とは……、とおぼろげに考えながらレオは静かに意識を手放した。
英斗は地下空間の上部の鉄を解くと、浮かんでいるレオを見つける。自動人形を使い、拾い上げると、顔以外すべてを鉄で固める。
青ポーションで魔力を回復させながら、レオが起きるのを待っていると、山田が現れる。
「こ……これはどういう状況ですか?」
と鉄で固められたレオを見て、動揺しつつ山田が尋ねる。英斗は先ほどあった事を報告する。
「それは……まずいですね。死んではないんですよね」
「殺したら、抗争になるのが目に見えてますからね。なんとか生け捕りにする方法を考えたらこうなったのです」
英斗と山田が話していると、レオが目を覚ます。
「こ……これは……ま、負けたか」
レオは全身が拘束されてることに驚き小さく呟く。
「ああ……これでゆっくり話せるだろ」
「何かまだ話すことが?」
「ある。俺は本当に彼を殺してはいない。真犯人は俺が必ず見つけ出す。だから少し待ってはくれないか?」
「確かに月城さんは俺を殺すことができたはずだ。なのに、殺さないってことは犯人の可能性が低いことくらいは分かる。だが……」
行動からは犯人ではないと思いつつも、先ほどの死が忘れられないようである。だが、最後はレオが折れる。
「分かった。2週間待つ。梓を救ってもらった礼もあるからな。その間に真犯人を見つけ出してくれれば俺はお前に今までの無礼も詫びて頭も下げる」
とレオは言う。もとより圧倒的に英斗の方が有利な交渉ではあるが、なんとかまとまったようである。
「ありがとう。じゃあその拘束は解くが次は同じような手加減はできない。必ず殺す」
と英斗は脅しも忘れずに加える。
「ハハハ、そりゃそうだ。そもそもあの状況で殺さずに俺を捕らえようとする方がおかしい。優しいな、月城さん」
レオは笑いながら言う。英斗は素直に拘束を解く。レオは手足を動かし、体の調子を確かめながら言う。
「2週間経つまではこの夜のことは誰にも言わない。だから月城さん、貴方も精一杯犯人を捜してくれ。俺も探す。そうじゃないと、どちらかが死ぬことになる……俺かもしれないがな」
と言って、レオは去っていった。
「いやー、月城さん本当に強いんですね。まさかあのレオさんを拘束するなんて。S級ですら葬る怪物ですよあの人は」
と山田は感心していた。
「まあ、次拘束は無理でしょうね。あれは通じても一度きりです。次は殺し合いです」
英斗は、静かに最悪の事態について考える。
「私も少しでも犯人について探ってみます。私が呼んだせいでこんなことになって申し訳ない……」
すっかり項垂れてしまう。
「これはなんというか不幸が重なっただけですよ」
そう言って、英斗はナナ達の待つ空き家に戻ることにした。