リベレイション
目の前を歩いている男の首が突然飛んだ。その首は静かに地面に落ちると、体も倒れ込んだ。
英斗は殺人犯の仕業か、と周りを見渡す。だが、後ろに居たのはレオ1人であった。レオは呆然と英斗を憎しみの目で見つめていた。
「どういう事だ? なぜ……なぜ殺した!」
レオは激昂しながら、その爪を振るう。英斗は間一髪躱すも、付近の電柱が切り裂かれる。
「何を言っている!? 俺も目の前で人が死んで驚いてるんだ! それに殺す理由もない」
英斗は、動揺しながら大声で叫ぶ。
「俺は見たぞ……。目の前で首が飛ぶところを!」
そう言うと、レオは一瞬で距離を詰めると、爪での一撃を放つ。英斗はこの威力を悟り盾を構えるが、盾ごと5m以上吹き飛ばされ、ブロック塀に衝突する。ブロック塀は粉々になり、その威力を物語っていた。
「駄目だ。やっぱり我を忘れる所は変わってないらしいな……」
英斗は、レオが完全に殺る気なのを感じて、心を入れ替える。手加減して勝てる相手ではないからだ。
だが、同時に英斗は自分は嵌められたのでは、とも考えていた。おそらくレオが犯人ではない場合、俺に連続殺人犯の罪をなすりつけたい者の犯行ではないだろうか。レオを殺してしまっては自分が犯人と認めるようなものである。
「これは中々ハードモードだな」
英斗はそう言って立ち上がると、市街地を出るため駆ける。英斗は翼を生やし、高速で移動しているにもかかわらず、難なく付いてくるところから、その身体能力の高さが窺える。
しばらく走り、周りに人が居ない所まで2人は移動する。
「俺は本当にやっちゃいない。まだ間に合う。こんな事はやめないか?」
英斗は無理と思いつつも、尋ねる。だが、レオからの返答は無い。頭に相当血が上っているようだ。魔力がレオの体に集中するのを感じた。
「ガオオオ!」
その咆哮と共に、衝撃波が英斗を襲う。英斗は、鉄の壁を3枚当時に生み出すが、一瞬で消し飛ばされる。だが、既にレオが英斗の目前まで迫っていた。
手加減はできそうにない、と英斗は感じると白鬼刀に魔力を込め稲妻を纏わせ一閃する。レオの爪と刀がぶつかり合い、2人は衝撃で吹き飛ぶ。
近くの空き家の室内まで飛ばされた英斗は起き上がり、溜息をつく。
「白豪鬼と変わらんな……。やはりスキルって極めると人を辞めると同義だね」
と呑気に言う。だが、次の瞬間レオから斬撃がいくつも放たれ、空き家は廃屋に変わった。英斗は瓦礫の山から顔を出す。既に服は汚れまみれである。
「レオさん、少しおとなしくしてもらうぞ」
英斗は30本程の炎槍を生み出すと、放つ。それと同時に鉄で出来た巨大な2つの腕を地面から生み出し、レオに向ける。
レオは鉄槍など気にも留めず、弾き飛ばしつつ進んでくる。だが、鉄の腕がレオを捉える。鉄の掌に包まれ動きが止まる。英斗は手加減する事なくそのまま圧縮する。
「グウ……ガアアア!」
レオは魔力を全身に込めると、回転しその爪で掌を切り裂いた。それにより弱まった手に咆哮による衝撃波を放ち粉砕する。
地面に降り立つとすぐさま英斗めがけて疾走してくる。だが、英斗はレオの動きが止まっていた間に、据え置き式の大型弩砲を生み出していた。巨大な弓兵器である。その弓には既に巨大な鉄の矢が仕込まれていた。
「大型魔物用に考えたんだけどね」
そう言うと、英斗は弩を使い弓を放つ。凄まじい速度で巨大な矢が放たれ、レオの頭部に直撃する。
「あっ、死んだかも」
と英斗が呟くも、レオはその牙を使い、鉄の矢を受け止めていた。一歩間違えれば死んでいたであろう驚異の技である。
鉄の矢を吐き捨てると、レオは家屋の屋根に上る。
「流石にこの状態では勝てそうにもないな……知っているか? 俺達獣人の奥の手を」
「奥の手……?」
「そうか、知らないか……。今からお見せしよう、我ら獣人のみができる、その御業を」
そう言うと、レオの体が徐々に強く大きくなっていく。
「完全獣化」
筋肉が膨れ上がり、その体に白き魔力を纏っている。神々しくも殺気を孕んだ巨大なライオン型の獣人の姿がそこにはあった。 その姿はまるで神獣である。
「はは、まじか。これは厄介だね」
英斗は乾いた笑いしか出せなかった。