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不安

 翌日、再び梓はオークと対峙していた。既に10回以上戦っている相手である。梓は走り先手を打つ。

 オークは連続で突きを放つ。梓は盾で受け止めつつ、弾き飛ばされないように角度をつけ流すよう心掛ける。

 梓は剣で槍を弾くと、盾を使いタックルを決める。オークは少し吹き飛ばされたものの、体勢を立て直す。


「もっと勢いをつけないとダメね」


 梓は呟く。剣と盾を使い、激しい攻防が開始される。梓も盾に慣れたのか、巧みに受け止めつつも剣を振るう。少しずつオークの体に切り傷は増えるものの大きなダメージには至っていない。梓は槍の威力を抑えるためオークの手を狙うようにする。少しずつ手を斬る事でオークの突きが減ってきた。




 梓は距離を取ると、再び盾を構えながら突進する。オークは槍を構え、カウンターを狙っている。槍の射程圏内に入ると鋭い突きが放たれる。

 梓は盾を傾け、突きを受け流しそのまま盾での突進を決める。加速していたサイの突進は中々のものでオークは大きくバランスを崩す。

 すると梓は全体重に魔力を込めた左足で、オークの右足を踏みつける。サイの獣人である梓の体重を乗せた一撃はオークの足の骨を砕いた。


「グアア!」


 悲鳴を上げるオークの、左足には剣を突き立てる。両足を封じられたオークが膝を突くと梓は軽く後退して、角を使った渾身の突進を行う。

 その突進は膝を突いていたオークの頭部に突き刺さり、オークはそのまま回転して吹き飛ぶ。地面に叩き付けられたオークはそのまま動かない。

 梓の体が熱くなりレベルアップを告げる。


「勝った! 遂に……!」


 梓は両腕を大きく宙にあげ、叫ぶ。勝利の雄たけびである。ひとしきり喜びを嚙みしめた後、梓は英斗の方を見て笑う。


「どうよ!」


「お見事」


 英斗は拍手する。どうやらちゃんと弟子は成長しているようだった。


『おめでとー!』


 ナナは梓に飛び掛かる。梓は驚いた声を出したもののナナを受け止め頭を撫でている。


「これで壁を一つ越えたな。後はもっと慣れれば楽に倒せるようになる」


「はい、先生!」


 梓はこの戦でコツを掴んだと言える。だが、すぐさま勝率が跳ね上がるわけではない。だが、徐々にオークに勝ち越すようになった。




 修行開始から4週間ほど経過し、梓のレベルは14まで成長した。最近は戦闘のみでなく、部分獣化する練習も始めている。

 部分獣化できる人からコツを聞きながらやっているが、中々難しい。


「自転車に乗るみたいに1回できるといつでもできるようになるんですけどねえ。自分の姿を変化させるようイメージする、としか言いようがないです。部分獣化を覚えたら、人間化もすぐですよ」


 という事らしい。


 梓は中々できないと嘆いている、毎日、毎日訓練しながらも獣化の練習を行う。

 夜、梓は1人で獣化のイメージトレーニングを行なっていたがまだできる気配はない。


「私……できないのかな?」


 と静かに呟く。英斗も人間化や部分獣化については門外漢なのでアドバイスもできないため、孤独な作業でもあった。


「そんなことないよね? ここまで頑張ってきたんだもん……。ゴブリンも、オークも怖かったけど人の姿に戻りたかったから、ずっと頑張ってきた……。もしかして、ずっとこの姿なのかな?」


 梓は不安になり、目からは涙が零れ落ちる。今まではレベルアップという分かりやすい指標があった。だが、今の部分獣化のトレーニングはどれくらい自分が進んでいるのか、目に見えなかった、梓は不安で押しつぶされそうになった。

 すると後ろから音がして梓が振り向く。そこには英斗の姿があった。


「なんでもないよ。どうしたの?」


 梓は目元の涙を拭って言う。


「夜は危ないからな」


 英斗は心配で覗きにきたのである。


「先生は心配性だなあ」


「あんまり根を詰めるなよ。人によっては時間もかかるらしいし、梓のペースで――」


「けど、頑張らないと! 私レベルも上がったし、そろそろできてもいいはずなのに……。全然できないよ。私ずっとこのままなのかな? いままで頑張ってきたけど……分からなくなっちゃったよ」


 梓は堰を切ったように、不安な顔で叫ぶ。今にも再び泣き出しそうな顔をしていた。


「自分を信じろ。俺はずっと梓の努力を傍で見てきた。だからどれだけ頑張っていたかも知ってる。今までずっと努力し続けてきた梓は絶対できるようになる! 部分獣化も人間化もな。俺が保証してやる!」


 英斗は、梓の両肩を持ち、真剣な声色で伝える。


「……先生が保証って……。何の意味も無いじゃん」


 しばらく沈黙した後、そう言った。そう言いつつも、梓の顔は笑っている。不安は残りつつも、信頼している英斗の言葉に安心したのだ。


「根を詰めても仕方ないし、今日はもう帰ろ!」


 と英斗の手を取り、家に向かう。


「おい、ちょっと……まあいいか」


 と英斗は引っ張られるままである。しばらく歩いた後、梓は振り返って言う。


「けど、安心した。ありがと!」


 それはそれは良い笑顔であった。これからも梓は真面目に練習を続ける。その努力が開花する日は少しずつ近づいている。

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