オーク狩り(生徒)
梓がオークと対峙する。梓は緊張しているのか、少し武器を持つ手が震えている。
「ブオオー!」
オークが叫ぶとともに、槍を持って走り出す。梓は構えるも、突きを剣で受け止めるのは無理と判断し、横っ飛びで突きを躱す。
オークはすぐさま、突きを連続で放つ。
「えっ、ちょっ」
梓は、動揺し剣で弾くも全てを弾ききれずに一発を腹部に受ける。
「痛っ!」
梓はそのまま尻もちをついてしまう。オークはそのまま槍を構える。
「舐めるな!」
梓は、その突きを躱すと、そのまま突進を決める。その角はオークの右肩を貫く。
「グオッ!」
オークは大きく仰け反るものの、踏みとどまり槍を水平に振る。その腕力に梓は吹き飛ばされる。
だが、すぐさま体勢を整え、剣を再び構える。
『えいと……だいじょうぶかな?』
心配そうに、ナナが英斗に尋ねる。
「信じろ……」
そう言いつつも、英斗はあのオークを今すぐ仕留めたくてうずうずしていた。
槍のリーチは剣よりはるかに長く、間合いでは梓が不利であった。梓はオークの連続突きの前に中々踏み込む事が出来なかった。重い鎧のせいで、俊敏さが失われているのである。
梓は意を決して、怪我覚悟で突っ込む。突進すると、オークの鋭い突きが飛んできた。梓は、頭部と首だけ守って突きを受けつつも突っ込む。だが、こちらの勢いの乗ったカウンターとなる突きの威力は凄まじく、梓は突きを胸に受け倒れ込む。その鎧には大きな凹みが残っている。
倒れ込んだ梓の呼吸が荒い。
「終わりだ」
そう言うと、英斗は一瞬で梓とオークの間に入ると、オークを睨む。オークは邪魔をするなと言わんばかりに大声をあげ、突きを放つ。
だが、次の瞬間、英斗は白鬼刀を振るい一刀両断する。
「生徒が世話になったな」
オークは言葉を発する暇も無く絶命した。
「梓、大丈夫か?」
「うん……ごめんなさい」
梓は相当落ち込んでいるようであった。
「あまり落ち込むな。オークは大人ですら倒せない人も多い。ゆっくり戦略を練って挑もう」
「うん……。けど絶対に諦めない。私、元の姿に絶対戻りたいもん!」
梓の立ち上がる。怪我はポーションで治ったようだが、体は疲れているようだ。
「今日はもう終わりだ。帰るぞ」
そう言って、英斗達は帰路に就く。
夕食も終わった後も梓は三角座りをしながら拗ねている。
「レベル10にはなったんだ。もう部分獣化はできないものなのか?」
と英斗が尋ねる。
「う~ん、早い人でも13くらいだから難しいかも」
「そうか。ならやっぱりオーク狩りは必要か。もう剣も片手で振れるし、盾も持ってみる?」
今までは剣を両手で持っていたので盾は渡していなかったが、筋力が上がり片手でも触れるようになった。
「盾か~。それがあれば、槍を受けながら近づけるかも! 持ってみる!」
英斗は、丸い鉄製の盾を生み出す。
「こうなるともう立派な剣士だよね!」
と盾を構えながら言う。
「立派な剣士だ。サイの突進を盾を持ちながらするのも強そうだ」
やってることは重戦士の戦い方だが梓には合っているかもしれない。その夜、梓は盾を持ち外で素振りをしていた。
次の日、梓はゴブリン相手に盾の使用感を確かめていた。
「なんか安心する」
中々気に入ったようだ。
「まあ人間、守れる何かはあった方がいいのかもな」
そう言いつつも、英斗も盾は持っている。梓はその後もオークと何度も戦う事となる。盾を持ち大きな怪我をするのは、減ったもののどうも決め手に欠けていた。
初オーク戦から5日が経過した頃、梓が遂に駄々をこね始めた。
「無理ー! もう無理! 勝てないよー」
子サイが駄々をこねる姿を中々のシュールさがあった。
「なんだろうなぁ。少しずつ慣れてはきてるんだけどねえ。やっぱり、あの魔力を込めた角での突進をあてるしかないだろうなあ」
「分かるけどー、槍持ってる相手に当てるのは難しいよ」
「なら当てられるような状況に持っていくよう考えるしかないな。俺達人間が魔物に勝っている部分は頭だろう?」
まだ子供には難しいとは思いつつも、梓には自ら勝つために考えてほしかった。これからも彼女の人生は続くのだ。
「分かった、考えてみる」
そう言って、考え始める梓。英斗はその様子を優しく見守っていた。