来訪者
レベル上げを始めて2週間ほど経った時、梓のレベルは10まで上がった。
「そろそろE級じゃ上がらなくなってきたなあ」
と英斗が呟く。10以上になってくると、オークも狩らないと効率が悪い。だが、英斗としてはもう少し安全マージンを取って、強くなってから戦わせたいというのが本音であった。
「そろそろオークなんでしょ?」
と梓が座っている英斗の顔を覗く。
「うーん、まあ」
「心配だから戦わせたくない、って顔に書いてあるよ」
と言って笑う。
「生徒を信じられないわけ?」
と梓は優しい声で言う。
「いやー、そう言われると弱いんだけど、やっぱりオークは強いんだよ。子供と戦わせたくない」
「今更だねー。ゴブリンは大丈夫なんだ?」
「まあ、鎧着ておけば死ぬことは無いからな」
「もー、じゃあ決まったら言ってね? それまでナナと遊んでくるから」
と言って、ナナと梓は行ってしまった。
「ナナが居るなら大丈夫だろ」
と言いながら、考える。実は先ほどからずっとこちらを監視するような視線があったのだ。
「誰だい?」
と英斗が言うと、建物の背後から男が出る。40代くらいであろうか、身長は低いががっちりした体型をしている。角刈りの頭に人の良さような笑顔である。
「おっと、ばれちまってたのか。まあ怪しいもんじゃねえさ。最近小さなサイの獣人を育てているって噂が町に流れててな。代表として見に来たのさ」
「なるほど、俺はこの区の人間じゃないからまあ怪しいのは分からないでもないからな。月城という」
「俺は五郎ってんだ。あるクランの代表をしている。兄ちゃん悪いこたあ言わねえ。普通のスキルならここで獣人とは関わらねえことだ。あいつらのクランは嫌われてるし、何があるか分かんねえぜ」
「……ご忠告どうも。最近普通のスキルのクランと、『獣人の宴』が揉めてるのは知ってるからな」
「なんだ、あんたも知ってるのか。あいつらは後から来た奴らのくせにでかい顔をしやがるのさ。先人を敬うって事を知らねえ。そんな奴らがギルドマスターだって? そりゃあ筋が通らねえってもんよ」
「確かに、筋ってもんはあるわな」
「そうだろ? あそこの龍の小僧は本当にあぶねえ奴でな。気を付けた方がいい。きっと近いうち抗争になる。その時あんたも巻き込まれるかも知れねえぜ?」
と脅しともとれる言葉を五郎が吐く。
「俺が巻き込まれるのは構わんさ。俺は強いからな。だが、さっきの子は抗争なんて関係ない。手を出したらただじゃ済まさんぞ」
と英斗が睨みつける。梓と戦わせるためにオークの巣の近くに来ていたためオークがこちらを見つけ襲い掛かってくる。
「ハハ、覚えとくよ。魔物が来た、そろそろお暇するぜ」
そう言うと、五郎は去っていく。五郎相手にオークが槍を振るう。だが、その瞬間五郎の手に何かが生み出されると同時にオークの首が刎ね飛ばされ宙に舞う。
鈍い音と共に、頭が地面に落ち体も倒れ込む。
「……一瞬だけ武器が生み出されたな。鎖鎌か?」
おそらく龍の獣人太刀川と揉めたのは五郎だろう。どちらも中々強そうであった。しばらくするとナナ達が戻ってくる。
「そっちに変なの来なかったか?」
「誰も来てないよ?」
『きてなーい』
「なら良い」
「あっ! もうオーク倒してる。気が早ーい!」
とのんきに梓は笑ってる。
「梓、オーク戦行くか。だが、今回は危険があったらすぐ終わりだ。特に首だけは絶対に守るんだぞ」
「……うん」
そして修行から10日、遂にオーク戦を迎える。