灰狼
次の日も、朝から市街地から出てゴブリン狩りをしていると元宮がどこかへ向かっていた。
「あっ、月城さん、おはようございます!」
元宮は笑顔で頭を下げる。犬耳が揺れていた。
「元宮さん、おはようございます」
「朝から精が出ますねえ。梓ちゃんの事は本当にありがとうございました。うちの規則のせいでまさか月城さんにご迷惑をおかけすることになるとは」
「いえいえ。集団での特別扱いは難しいでしょう。今日はどうされたんですか?」
「うちは文京区と取引してましてねえ。事務長として定期的にあちらと話し合いをしてるんですよ。私は戦えないのでそれくらいは」
「へえ。他の区とも交流があるんですね」
「はい。月城さんにはお世話になりましたし、何かあったらいつでも言ってくださいね」
と言って、元宮は去っていった。
「元宮さんだー。忙しそうだねー」
と狩り終わったのだろう、鎧を血塗れにしながら梓が顔を出す。
「な。4匹相手でも勝てるようになってきたな」
「うん。恥ずかしいけどやっぱりサイの力なのか、昔より力あるからね」
「使える力は利用しないとな。今日中に6にはあげるぞ」
「はーい!」
梓はレベルが上がるにつれ、力が上がっていた。英斗よりも身体強化が大きいので、鎧を着つつも徐々に動きが速くなっていた。
梓は5匹相手でも慣れてきたのか、安定して戦えるようになり、午後3時頃遂にレベル6まで到達した。だが、もうゴブリンでは効率は悪いのか、何十体も倒していた。
「魔力の感覚、分かってきたかも」
と梓が呟く。
「何か、レベルが上がって変わったのか?」
「なんか角に、力が集中できる……ような」
と梓がうんうん唸っている。すると突然目を大きく見開いたかと思うと、建物のブロック塀に突進する。
「何をやっている!」
英斗が驚くも、梓はそのままブロック塀にぶち当たる。だが、壊れたのはブロック塀であった。梓の角を使った一撃はブロック塀に穴を開けた。
「どうよ?」
そう言って英斗を見て笑う。英斗は驚いた後大きく息を吐き、笑う。
「いい一撃だ。だけどいきなりするな、びっくりするだろ」
「なんかできそうな気がしたの。魔力を角に集める感じ?」
「スキルってのはそんなもんだ。その感覚を大事にして1つ1つ技を覚えていくしかない」
「了解です! 先生!」
梓は敬礼のポーズを取る。
「そろそろ、ゴブリンじゃ上がらなくなってきたなあ。あの灰色の狼でも狩るか」
「遂にゴブリンは卒業ですか?」
「ああ、少し強いかもだけど、冷静にな」
ナナに探してもらうとすぐに見つかった。だが、ナナが居ると警戒心が強く逃げられてしまう。
「ナナ、駄目だ。すまないが、少し遠くで見ててくれ。逃げられて戦いにならん」
『ええーそんなー……』
ナナは悲しみながら、とぼとぼと離れる。そして、ようやく梓と狼と1対1にまで持っていく。
英斗が鑑定すると、
『灰狼 E級
集団で強さを発揮する。集団でならオークすら狩る強さがある。素早い動きで相手を翻弄する』
と出た。
「あいつグレイウルフって言うのか。梓、落ち着いて戦えよ」
英斗は今回近すぎると逃げられるので、少し距離を置いての観戦である。何かあったら、すぐに一突きできるよう手を地面に当てている。
梓はゆっくりと近づくと、灰狼が先に動いた。鎧の隙間の首を狙ってとびかかる。
「わっ!」
梓は手で首を守ると、その腕を思い切り噛みつかれる。梓は、小さく悲鳴を上げるもその腕ごと灰狼を叩き付けようとする。
灰狼は直前で口を離し距離を取る。英斗は、まだ無理か……と考え始めすぐさま助けられるように近づき始まる。
「まだやれるから! 先生!」
だが、梓が手をこちらに向けて制止する。
「そうか……。速さじゃ敵わんぞ」
梓はそう言うと、突進を開始する。確かに速くはなるが、直線の動きじゃ素早い灰狼を捉える事はできない。あっさりと躱されると、再び首を狙って右から襲ってくる。
だが、梓も首を狙ってくるのを読んでおり、攻撃に合わせて剣を下から上に振るった。
「ガウウーッ!」
その一撃は、灰狼の口を切り裂いた。梓はわざと突進をして誘ったのである。怯んでいる灰狼の足を踏みつけると、頭部に剣を突き刺した。そのまま灰狼は絶命した。
「やるじゃないか! わざと突進で誘うとは!」
英斗は素直に感心した。若い故か柔軟な発想である。
「私は鎧を着てるから首をやたら狙ってきたし、その瞬間なら狙えると思ったの!」
そう言って、ピースをする梓。この日から梓は毎日骸骨剣士やアンデッド、灰狼などを狩りレベルを上げていった。