少し強くなった時くらいが一番危ない
次の日は午前中は打ち合った後、午後はひたすらゴブリンを狩る日であった。昼前、梓は再びレベルアップを果たす。
「これで4だよ! この調子じゃすぐになりそう!」
と、はしゃいでいる。
「良い調子だ。レベル6くらいまではずっとゴブリンだからな」
「はーい。けどもうゴブリンじゃ物足りないかな?」
とゴブリン狩りに慣れたのか調子に乗り始めた。
「じゃあ、次は複数にも挑戦しようか」
英斗はそう言って3体の群れの下へ案内する。
「3体ぐらいなら余裕よ」
梓はそう言うと、突進で1匹を狙う。だが、複数の敵の強いところはその視野の広さにもあった。1匹がこちらに気付き、大声を上げる。それにより他の2匹も梓に気付き、躱されてしまった。
「もー!」
そう言うと、梓は剣を振るう。その剣はゴブリンの腕を斬るも、大きな傷ではない。その隙に後ろに回ったゴブリンが棍棒で梓の背中を殴る。
「痛っ!」
バランスを崩した梓に、剣を持った1匹が袈裟斬りを放つ。鎧に当たり、鈍い音が響く。
囲まれた梓はどうしていいか分からず、ただタコ殴りに合う。
「まだ無理か、ナナ」
『はーい』
ナナが地面から氷の棘を生み出し、3体とも貫き絶命させる。梓は英斗を見ると、気まずそうに眼を逸らした。
「ゴブリンの恐ろしさ、分かったか? 奴等は集団でこそ真価を発揮するもんだ」
「うん……」
「最初の1匹に気付かれたのは、運が悪かったな。もっと静かに襲うといい。後囲まれたら流石に分が悪い。複数でも背中を見せずに、こちらも動きながらできる限り1対1に近い状況に持ち込むんだ」
「難しいよー」
「15まで上げるとなると、集団戦無しでは難しい。なんとか覚えるんだな」
「はーい……」
英斗はこのレベル上げで、なんとか彼女が1人でも戦える強さも身につけてほしかった。レベルが高いだけではこの世界は生き辛い。
英斗のコーチを受けた後、梓は複数のゴブリン戦を繰り返す。まず2体からにする。梓は音を出さないよう、ゆっくりと忍び寄り、頭に剣を振り下ろす。
「グギャッ!」
2体ともに気づかれたらすぐに、ダメージを与えた1匹を狙う。動きの鈍った1体に角を使った突進を決める。1匹はそのままピクリとも動かない。
残り1匹になればこっちのものと言わんばかりに、梓は剣を使いゴブリンを切り裂く。
「勝った!」
『やったー』
ナナも同じように喜ぶ。
「早めに1匹のみを集中して倒したのは良かったな」
「うん」
2匹を何回かこなした後、再び3体の群れとの戦闘を始める。梓は静かに近づくも直前で気付かれてしまう。
梓は冷静に1匹のゴブリンの首を狙い、水平に斬りつける。
「ギイ!」
傷は深いものの、仕留めるまでには行かなかった。梓は、すぐさま背中を建物に任せ、囲まれないようにする。
「おおー」
英斗は勝つために工夫する梓に素直に感心していた。前方に囲まれはしたものの、前よりは戦いやすい。梓は攻撃を受けつつも、先ほど首を斬ったゴブリンの喉元目掛けて突きを放つ。小さな悲鳴と共にゴブリンは息絶える。
ゴブリンが動揺した瞬間に、渾身の突進で貫いた。もう1体も致命傷を受け、倒れ込む。最後の1体は、逃げようと走るも、サイの突進の速度は並ではなく、その1匹も突進を受け仕留めることに成功した。
「勝ったー!」
梓は大きくガッツポーズをとる。その後も梓はゴブリン相手に戦い続け、日が暮れる頃にはレベル5まで成長した。
家でご飯を食べた後、梓はナナと幸せそうに遊んでいた。ナナに乗りながら、梓が言う。
「ねー先生ー、ナナちゃん私も欲しい!」
「先生ってなんだ。絶対にナナはやらん!」
と大人げなくいう英斗。
「だって、私に戦闘方法教えてくれるから先生でしょ! えーケチー」
と頬を膨らませる。
「まあ、そう言われたら先生かもしれんが」
「先生と、レオさんどっちが強いの?」
「うーん、正直分からんなぁ。レオさんは相当強そうだからなあ」
「S級? っていうの普通に倒せるって男の子達言ってたよ!」
「げっ、まじかよ。まあギルドマスター間が戦うなんてめったにないから関係ないだろ」
そう言いつつも、英斗は既に他ギルドマスターを1人倒してはいるが。
「そっかー。レオさんは、私達を助けてくれたから好きだよ」
「仲間思いのいい人だったな」
「一番好きなのは芽衣ちゃんなんだけどね!」
「仲良さそうだったもんなあ」
「うん! 世界がこうなってからずっと一緒に居たの。可愛くて、優しくて……私がサイになって、化物って言われていた時もずっと一緒に居てくれたの。だから早く人間の姿になって可愛い服着て、一緒に遊びたい……」
「そっか。目標があるのは良いことだ。きっと梓は人間化できるよ、俺が保証する。人間になれるまで俺が面倒みるから安心しな」
「先生も好きだよ!」
と言って、梓が飛びついてくる。子供とは言え、サイの突進である。英斗が鈍い声を上げるながらも受け止める。サイをあやすブリーダーの気持ちになりながら、頭を撫でる。
しばらくすると、梓は疲れたのか眠りに就き英斗も寝ることにした。





