初めてのゴブリン
「これからはこれを毎日しようか。じゃあこれからゴブリン狩りを始める。ナナが探してくれるから、最初は1匹だけ自分で倒してみな。危なそうだったら俺が助けるから安心しろ」
「……うん」
こうして、英斗達はゴブリンを狩りに市街地を出る。
1匹で行動しているゴブリンを見つける。
「後ろから、突進で決めろ」
「う、うん」
梓は後ろに回り込むと、勢いをつけそのまま突進する。直前でゴブリンに気付かれるもそのまま襲い掛かる。角は肩に当たったようで、ゴブリンは吹き飛ぶもまだ仕留めきれていなかった。
ゴブリンが起き上がり、棍棒で襲い掛かってくる。
「ひいっ!」
梓は初めてのまともな戦闘のせいか、腕で頭を守るも、棍棒で殴られる。
「痛いっ」
ガンガンと何度も殴られる梓。鎧で腕も覆っているため、そこまで酷い状況ではない。
「大丈夫だ、頑張れ!」
英斗の言葉を聞き、剣を構える。剣を振るうも、中々致命傷にはならず泥仕合となった。だが、先ほどの一撃でダメージを与えているためか、5分以上にわたる戦闘の結果、ゴブリンは動かなくなった。
梓は緊張のためか、ずっと息が荒く、そのまま倒れ込んだ。
「よくやったな」
英斗は梓に声をかける。
「やっぱり怖いね……魔物って」
「ああ。その通りだ。続けられそうか?」
「……勿論。このままの方が嫌」
「なら俺が手伝う、安心しろ。絶対死なせやしない」
「ありがとう」
少し落ち着いた後、再びゴブリン狩りを再開する。基本的には、後ろからの突進で仕留める戦法になった。
梓が突進で背後から、角で突き刺す。中々一撃で倒せるようにはならないが、ダメージは十分に与えられるようになった。
「やあっ!」
可愛い声で言っているが、小さいながらもサイの力を持つ梓である。大人並みの力により振り下ろされる剣がゴブリンの頭部に刺さる。
「やったー! 次はすぐ倒せたよ!」
とピョンピョンと飛び跳ねながら、喜ぶ。
「いいぞー。やっぱり突進で頭部を狙うのは難しいな。背中の中央に角が刺さるようにしたらどうだ? 心臓を一突きできるかもしれん」
「分かった!」
少しずつ闘い方を調整していく。
魔物狩りを始めてから数時間たった頃、梓のレベルが上がる。
「体熱くなった! この感覚半年振り! なんか力少しついた気がする」
「本当か? まあ動物系スキルの場合、普通のスキルより身体能力強化が高くてもおかしくないか」
『おめでとー!』
ナナも喜びながら、梓の周りを回る。
「ナナちゃんもありがとー!」
梓はナナの頭を撫でている。
その後も、ゴブリンをひたすら狩っていく。夕方には遂に突進時、角で貫くことで一撃でゴブリンを仕留めることに成功した。
「おおーー! やったな!」
英斗も拍手する。
「どうよ!」
梓は鼻高々という様子である。時間を確認する。
「今日はここまでだな。お疲れさん」
昨日と同じ空き家に戻り、晩御飯を食べる。オーク肉のステーキに、米、みそ汁という献立である。後半は全てスキルで生み出した物であるが。
「美味しいー! いつもこんな良いもの食べてるの?」
「そうだな。俺は1人だけだから獲った物は基本自分で食べるからな」
「そっかー」
そう言って、黙々と食べる梓。食べ終わった頃、梓が口を開く。
「あの……ありがとうございます」
「別にご飯くらい気にしなくていいぞ?」
「いや、ご飯もなんだけど……お兄さん、ここ出ていくって言ってたのに、私のために残ってくれてるんでしょ? こんな面倒臭いレベル上げに付き合わせてるし」
と梓は目を逸らしながら言う。
「別に気にしなくていい。俺が助けると決めてやってることだからな。明日からもしばらくはゴブリン狩りだから、気合入れてけよ!」
「うん!」
そう言って、梓は笑う。
梓が寝た後、ナナが笑いながら言う。
『えいとはあいかわらずやさしいねえ。わたしもたすけてくれたもんね』
「ナナも倒れてたもんな。せめてできることくらいな」
『わたしもあずさちゃんのれべるあげてつだうよ!』
「じゃあ、明日はナナも助けてやってくれ」
『うん!』
ナナの方が年下ではあるが、お姉さんのように振舞いたいのだろうか、と英斗が考えていると、山田の声が外からする。
「山田さんか、いらっしゃーい」
そう言って、ドアを開ける。
「お疲れ様です。調子はどうですか?」
「まあ、初日は順調ですよ」
「なら良かった。相変わらず月城さんは中々お優しいですね」
と山田が微笑む。
「あそこまでの覚悟を見せられては放ってはおけないでしょう」
「人嫌いに見せかけて甘い所、変わってませんなあ」
「別に人嫌いではないんですけどねえ。まあせっかく来たのに、山田さんと話すより子供の面倒みる方が多くなったのは申し訳ない」
「いえいえ、お気になさらず。ですが、10歳の子を15前後まで上げるのは大変ですよ?」
「確かに。ですが、サイのスキルは戦闘用スキルに近い。上手くスキルを使いこなせれば伸びると信じてます」
「そうですか。流石ですねえ」
その夜は山田と語り合った。友人との小さな楽しみである。