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パワーレベリング

 英斗は獣人の宴(ビースターズ)のバリケードから出た後、人の住んでいない空き家を探し、中に入る。小さな一軒家である。窓もところどころ割られており、食べ物一つ残ってはいない。だが、寝床があった。

 英斗はソファに梓を寝かせる。寝ている姿は完全に子サイである。


「啖呵を切ったものの、俺も彼女を最初からは救えてないんだけどな……。だが、せめて彼女が完全な人間化ができるまでは俺が……」


 後悔ばかりでなく、彼女の未来のためにと心を切り替える。


『えいとわるくないよ?』


 ナナは英斗を心配そうに見る。


「ありがとな。とりあえず、起きるのを待とうか」


 英斗は梓に薄い毛布を掛ける。夜も更ける時間であったため、英斗とナナもいつの間にかそのまま床で眠りに就いた。




 朝の日差しが窓から微かに差し込む頃、梓が起き始め音を立てる。

 彼女は自分がどこにいるのか、なぜ生きているのか分からず、きょろきょろと周りを見渡す。


「おはよう。ここはあの世じゃない。君は生きている」


 英斗は彼女に声をかける。


「どうして……」


 その言葉はどうして生きているのか、どうして生かしたのか、どちらの意味だったのだろうか。


「生きてくれ。君があそこまで思い詰めているとは分からなかった。本当に、すまなかった。俺が君を必ず人間化できるまで面倒を見ると誓おう」


 英斗は彼女に頭を下げた。いきなりの謝罪に驚いたのか、面食らっているが、その言葉の意味を理解したのか、顔を上げる。


「……手伝ってくれるの?」


 梓はいきなりの英斗の言葉を怪しみつつも聞く。


「ああ。絶対に君の姿を人間化できるようにしてみせる。だが、君も知ってるように、あそこは12歳になるまでレベル上げは禁止だ。だからもし獣人の宴(ビースターズ)に戻るならこのことは皆に言ってはいけないよ」


「人間化できるようになったら、自由に生きる……」


 と呟く梓。


「この世界は過酷だ。たとえ人間化ができるようになったとしても、子供1人で生きていけるような優しい世界ではない。勿論レベル上げは手伝うし、ここを出たいなら俺の住む杉並区に連れていくことはできる。だけど、ここと変わらないか、ここより大変かも知れないことは覚えててほしい」


 英斗は、ゆっくりと諭すように伝える。


「うん、分かった。どこも大変なのは知ってる。人間化できるようになったら今後どうするかしっかり考える」


 梓は少し考えた顔で言う。


「なら良かった。じゃあ早速今日からレベル上げをしていこうか。朝ごはんを食べたら行こう」


 英斗は、パンをスキルで生み出すと、梓に手渡す。梓は無表情だが、どこか嬉しそうにパンを齧る。


「パン、久しぶり」


 食べ終わったことを確認して、英斗達はまずゴブリン退治に出かけるため、外に出る。




「まず梓は戦闘で何ができるんだ?」


 外に出て、英斗が尋ねる。


「えーっと、戦ったことないから分かんない。けど、多分角だと思う。サイだし!」


 元気に言う。確かに梓の頭部には正面に並ぶように2本の角がある。1本が長く、20cmを超えている。もう1本は短く10cmもない程度である。


「まず、戦闘スタイルを考えたいな。サイはその突進で敵を倒すと言われてるし。梓、1回俺に思いっきり角で突くように突進してみろ」


「えっ、大丈夫なの?」


「大丈夫だ。俺のレベルは50以上ある。既に下手な魔物より頑丈だ」


「わ、分かった」


 梓はそう言うと、全力で走って英斗に突進する。流石はサイのスキル持ちといえるだろう大人並の速さである。

 英斗はその突進を真っ向から受け止める。角を手で掴み、一歩も動くことは無かった。


「う~ん、なるほど。ゴブリンならいける……か?」


「本当!?」


「う~ん、分からん。そもそも俺は普段ナナとのコンビだからレベルアップについて詳しくないんだよなあ。俺がゴブリンを弱らせて、梓が止め刺すだけでもレベル上がるんだろうか?」


 それができれば戦わせる必要はない。ゲームで言うパワーレベリングができればすぐに上げることはできる。梓は強くなりたいと言うより、レベルを上げたいので尚更である。


「それちょっとずるくない?」


 と梓がまっとうなことを言う。


「まあ、できれば一番早い。確かめてみよう」


 そう言うと英斗は剣を生み出し、梓に渡す。英斗達はゴブリンを探す。ナナの鼻を頼りにゴブリンを探すと、5分ほどでゴブリンが見つかった。

 殺さないように、と英斗はナイフを生み出し投擲する。3匹共すぐに瀕死になる。


「梓、止めさせるか? 無理なら――」


「ううん、やってみる。だってレベル上げしないといけないもん」


 梓は少し震えながら、ゴブリンの元へ向かう。英斗は何かあった場合すぐさま鉄の壁を生み出すように構える。梓は震えつつも、目をゴブリンから背けず頭に突き刺す。

 ゴブリンは小さな断末魔の声を出しつつ絶命した。


「レベル上がったか? 体が熱くなる感じだ」


「ううん」


「後2匹できるか?」


「……うん」


 そのまま作業のようにゴブリンを仕留めたが、レベルは上がらなかった。


「だめか……数が足りないのか?」


その後5匹同様に仕留めたがやはり駄目である。


「どうやら止めを刺すだけでは、レベルは上がらんらしい」


 英斗は、ゴブリンにHPというものが存在するのであれば、HPを減らした者に優先的に経験値が入るのでは、という仮説を立てた。


「まるでマッドサイエンティストみたいだなあ」


 と苦笑いをする。

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― 新着の感想 ―
[一言] 考察しながら倒し検証するってマッドでもサイエンスでも無い気が。 解体して臓器の配列だとか、捕獲して無食で何日持つとか、異種交配がとかなら十分マッドなサイエンスですけど。
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