後悔と行動
「大丈夫なのか!?」
レオは動揺を隠せずに、大声で尋ねる。
「死んではいないです。施設の屋上から飛び降りたみたいで。ですが、あそこは4階建てですから重傷ではあるみたいで」
「すぐ向かおう!」
そう言って、レオと元宮は走っていく。
「俺達も行こう」
英斗もすぐ後ろをついていく。英斗は走りながら、後悔の二文字で頭の中がいっぱいになっていた。やっぱり助けるべきだったのだと、彼女はそれほど追い詰められていたのだと後悔していた。
現場には多くの人が集まっていた。彼女は重傷のようで、呼吸も浅く、痙攣していた。顔も真っ青でこのままでは厳しいことが分かる。背中を打ったのか、背が血だらけである。おそらくいくつも骨折している。サイの体のお陰で生き残れたのだろう。
「治癒師はまだか!?」
レオが大声を出す。
「既に手配してますが、なにせうちのクランには一人も居ませんので……」
レオのクラン『獣人の宴』は全て獣人であるため居ないのだ。
「すみません、どいてください」
英斗は周りを囲んでいる人をかき分けて進む。
「上級ポーションがあります」
そう言って英斗は上級ポーションをいくつも出す。英斗は上級ポーションを簡単に生み出せるまでになっていた。
服が破れて、肌が露出した背中に上級ポーションをかける。見る見るうちに背中の傷が治癒していく。
「おおーー!」
周りから歓声があがる。
「ありがとう、月城さん」
レオが頭を下げる。
「いえいえ。ポーションを口から飲ませてあげてください。内臓も痛めているかもしれません」
そう言って、口からもポーションを流し込む。梓の顔に段々顔に生気が戻ってきた。いくつもポーションを使い、なんとか梓は安定した状態になった。
「これでおそらく大丈夫です。医者じゃないので断言はできませんが。レオさんは彼女が飛び降りた原因を知っていますか?」
英斗はレオに切り込む。
「ああ……。元の姿に戻りたいという話でしょう?」
と困った顔で言う。
「彼女はそれが原因で飛び降りまでしました。方針を変えられたりは?」
「それは……正直難しい。そもそも10歳の子供をレベル15まで上げるってこと自体が難しい。それにあの子だけ特別扱いをするわけにもいかない。子供は50人以上いるんだ」
レオもなんとかしたいのだろう、辛い表情で言う。
「じゃあ獣人の宴ではどうにもできませんか?」
「……ケアには努めるつもりだ。今後こんなことをしないようにできる限りケアを」
「そうですか。では、俺が彼女のレベル上げをします。俺はクラン『獣人の宴』の一員ではないので、子供のレベル上げをしても問題ないはずです」
英斗は真剣な顔で言う。
「そんな危険なことは認められん……! 10歳の子供がレベル15など無理だ。もし死んだりしたらどうするんだ?」
レオは鋭い眼光で英斗を睨む。
レベル15と言えば、ソロでオークを狩れるレベルだ。戦闘用スキルの大人でも難しい人がいるレベルといえる。
「その場合の責任は全て俺がとります。彼女が死ぬ前には必ず俺が先に死んでいると誓いましょう」
「この子の命が第一だ。しっかりとこの子には説明し、ケアもするつもりだ。そんな危険なことは認められん」
「俺にも、あんたにも彼女の辛さが分からないからこうなったんじゃないのか! 俺は彼女を連れていく。必ず人間化ができるまで面倒をみる」
「力尽くでもか?」
レオから殺気が溢れ出す。他の人々は2人の剣幕に口を挟めなかった。
「勿論そうだ。あんたと戦ってでも必ず連れていく」
英斗も刀に手をあてる。凄まじい魔力が2人から溢れ出す。一触即発と言った沈黙が流れる。その沈黙をレオが破る。
「それほどの覚悟なら……梓を任せます。失礼な態度を取りました」
レオは素直に非礼を詫び、頭を下げ手を出す。レオは英斗がどれほどの覚悟か確かめたかったのだろう。
「いえ。大事な子達ですから心配なのは分かります。責任を持ってお預かりします」
英斗はその手を取る。そしてまだ気絶している梓を抱き上げると、そのまま獣人の宴の範囲から離れる。ここで英斗とレベル上げをすると、反発する者がいると考えてのことである。
英斗がその場から去った後に近くにいた男がレオに尋ねる。
「いいんですか? あんな知らない男に?」
「俺達では梓を救ってはやることは難しい。1人だけ特別扱いなどできんからな。それに今の真剣な態度を見ただろう。あれは俺と戦ってでも、という覚悟があった。近頃俺にあんな態度を取れる奴はそうはいない。流石は杉並ギルドマスターと言ったところだ」
とレオは感心していた。レオのレベルは57。間違いなく台東ギルドトップの男である。