私を連れてって!
「昔は尖ってた、って言ってましたけど、何かあったんですかねぇ」
「先月、野盗達が獣人の宴のエリアに来て強盗を働きました。その際、獣人なんて人間じゃねえ! と言って1人殺されてしまったんです。それを見たレオさんは激昂して40人から居る野盗達を1人で殲滅しました」
山田が代わりにその事件について語る。
「……それは凄いな」
こんな世の中を考えるとレオを責めることなど誰にもできないだろう。
「ですが、やはり胸にはきたみたいで……。それ以来一層揉め事に敏感になりました。仲間を傷つけられると我を忘れて戦うような人ですから。だからこそ皆レオさんに付いていくんですけどね」
「中々格好いい人ですね。こんな大きいクランのトップだけあります」
「うちは、既に数百人規模のクランですからね。レオさんは、私みたいに獣人化から変化できない人でも過ごしやすいように、いつも獣人状態で過ごしてるんですよ。元宮さんも、凄い優しい方で皆に好かれてますよ。あの2人はクラン結成前からの付き合いらしくてとても仲が良いんです」
と山田は憧れる子供のような声で言う。
「さっきの若者も昔のあんたは違ったって言ってたから、尖ってた頃も人気ありそうでしたけどね」
と思い出したかのように英斗は言う。
「太刀川君ですね。彼の仲間が外の普通のスキルのクランに襲われて大怪我を負ったんですよ。鹿の獣人の方だったんですが魔物と間違ったと言われたらしく、彼がキレてあちらのクランに襲い掛かったみたいで、抗争になりかけました」
「そりゃあ彼が怒るのも分かるな」
英斗は素直にそう言った。襲っておいて、魔物かと思ったとか言ったら殺されて文句は言えないだろう。
「私もたまに襲われますから気持ちは分かります」
山田がため息をつく。思ったより獣人の楽園も大変のようだ。
『ひとはもめてばかりだねー』
とナナが言う。その通りだと英斗は思った。
「まあまあ。最近は荒れてますが、普段は穏やかなところなんですよ。ご飯でも食べますか」
山田にそう言われて、少し早いが晩ごはんを食べに店に向かった。
「まさかラーメンがあるとは」
英斗は笑顔で言う。元ラーメン屋の人がここには居るらしく、久しぶりにラーメンを頂いた。
「満足していただけて良かったです。今のご時世じゃ中々ラーメンも食べれませんからねえ」
山田とマンションに戻っていると、小学生くらいの子供達が4人で遊んでいるのが目に入った。4人とも勿論獣人である。
「ここでは、親を亡くした獣人の子供も引き取ってるんですよ」
と山田が言った。
4人は男女2人ずつであるが、一人の少女だけ完全に獣人のようである。
「芽衣ちゃん、僕と遊ぼうよ!」
「いや、俺とあっちで魔物見に行こうよ!」
どうやら2人の男の子が1人の女の子にアプローチしているようだ。その女の子は頭に猫耳を付けており、猫系のスキルなのだろう。可愛らしい顔にマッチしており、モテモテのようだった。
だが、女の子はもう1人の女の子に気を使っているのか分からないが、困惑している。
「やめなよ、芽衣ちゃん困ってんじゃん!」
そう言って、もう1人の女の子であろう子供が止めに入る。スキル『サイ』なのか、見た目は完全に2足歩行する子サイである。声を聞くまで性別も分からなかった。
「お前は誘ってないだろう、サイ子!」
と1人の男の子が怒鳴る。その声を聞き、委縮してしまう少女。
「そんなひどいこと言わないで!」
と芽衣と呼ばれる女の子が男達に怒るも、全然男の子達は反省していない。その後もサイのスキルを持つ女の子をからかっている。
少し酷いな、と思った英斗が止めに入ろうと向かうと
「うわああ、魔物だああ!」
とナナを見て、男達は一目散に逃げてしまった。サイの少女と、芽衣は腰を抜かして逃げていないだけであるが。
『まものだけど……ひどい』
とナナが涙目で言う。
『こんなに可愛いのになあ』
と言って、英斗はナナを撫でる。
「お兄さん、外の人?」
サイの少女はまだナナが怖いのか恐る恐る尋ねる。
「そうだよ。月城っていうんだ。君の名前は?」
英斗はしゃがみ込み、目線を合わせながら尋ねる。
「そっか……。日橋梓」
少女はそう言うと、黙りこくる。
「家は近く? 送ろうか?」
そう英斗が尋ねると、梓は意を決したように、英斗を見て言う。
「私を連れてって!」
「え?」
いきなりの梓の頼みに英斗は驚きの声しか出なかった。