ウェルカムトゥービースターズ
次の日、英斗はナナに乗らずに、のんびりと台東区への旅を楽しむことにした。
歩いていると様々な人と会う機会はあったが、やはりソロでドラゴンを殺せそうな人と聞くと中々いないのか、皆首を横に振った。
道中多くの魔物にあったが、ナナが居るため知能の高い魔物は襲ってこないため戦闘はあまりない。
倒壊している建物も多いが、どこの区もどこかにコミュニティができており、人が集まっている。
『どこもひといるんだねー』
「ね。けど昔はここはどこも人で溢れていたんだ。今じゃ想像できないだろうけどな」
『そうなの? このまえたてものにあつまったひとくらい?』
ナナはスタンピードで学校に集まった時を言っているのだろう。
「その何十倍も居たんだよ。どこもね」
『すごいねー』
ナナは旅が楽しいのか、尻尾を振っている。
途中文京区にあるとある神社に寄った。崩壊前は多くの赤い鳥居が並んでおり、迫力があり多くの観光客で賑わっていた場所である。
鳥居はところどころ倒れていたものの、未だに並んでいた。
『いっぱいあるー』
ナナと一緒に本殿に向かう。鳥居は倒れたものを立て直した跡が見える。おそらく文明崩壊後も誰かが管理していることが見て取れた。
「ね。あれが本殿だ」
本殿は未だに壊れること無くその姿を保っていた。青い瓦の屋根に、赤い建物部分が綺麗に残っており、まるであの災害などなかったかのようである。本殿のすぐ近くには箒で掃く神主の姿があった。
「おや、珍しいですね」
と神主は、箒で掃く手を止め、軽く会釈をする。
「こんにちは。旅の途中で鳥居が見えたもので」
「何もないですが、良ければ見ていってください」
そう言って、英斗も頭を下げる。
英斗はお参りすると、ナナに作法を軽く説明する。
『あたまさげるー』
そう言って、ナナも頭を下げる。
「賢い子ですね」
神主がナナを見て声をかける。
「はい。ずっとここを守っているのですか?」
「そうですね。こういう時こそ神に縋りたい方もいらっしゃると思うのです。そのような人のためにも私はここを守っていたいのです。……貴方もあまり無理はされないように」
神主はさりげなく、英斗の心配をする。
「ありがとうございます。そんなに無理しそうですかね?」
「そうですね……リラックスはされてますが、どこか覚悟を決めたような顔をしてお参りしていましたから。ですが、貴方にも大切な子がいるみたいですから、そのことを忘れないようにしてくださいね」
そう言って、ナナを見る。
「そうですね……。この子を1人にはできないですから」
「人は大切な者がいるだけで、頑張ることができますから。こういう時こそ、縁を大切にしてくださいね」
「はい」
そう言って、神主に頭を下げる。刺し違えても、とまで考えていたが、それでは誰も幸せにできない。生きて、この旅を終わらせようと決めた。
神主に別れの挨拶をして、神社を出てしばらく歩くと、午後3時頃に台東区にたどり着いた。山田の言っていた獣人達の楽園と言われている場所を探して歩き回る。しばらく歩いていると、ある看板が目についた。
『獣人の宴へようこそ』
と木製の看板が手作り感溢れるアーチに付いていた。どこか古めかしいその看板に英斗はなぜか懐かしさを感じ、無意識に笑みを浮かべていた。