今のお前に足りないものがある 危機感だ
「ワフー!」
英斗が戻ると、ナナが飛びついてきた。
「よしよし、よくおとなしく待ってたね。ほら、お肉だぞー」
とジャーキーを食べさせる。
「ワウワウ」
美味しそうにジャーキーを食べるナナ。
「よしよし。明日以降はレベルアップに集中しようかね。武器も手に入ったことだし」
こうして今日も夜が更ける。
「ナナ、今日も待ってるんだぞ。ってお前もう少し大きくなってない? 気のせい?」
ナナはすでに少し大きくなっているようであった。
「ワフー!」
「よしよし」
ナナを撫でた後、英斗は斧とナイフを持ち、魔物狩りに向かう。
ゴブリンを10匹以上狩ってるが、レベルアップはない。
「やはりもっと強いの狩らないとダメか……」
そうやって魔物を探していると、魔物である狼が現れる。
「大物だな……」
英斗は斧を構える。
狼はこちらに高速で走ってくる。
「はやっ!」
思わず、飛びよける英斗。狼はすぐさまとびかかってくる。
「今だ!」
英斗は左腕で防御をし、その左腕を土で包む。狼の牙が英斗の左腕に食い込む。土では守りきれず肉まで牙が刺さったようであった。
「痛えな! こんにゃろ!」
英斗は右手に持っている斧で狼を水平に切りつける。その斧は狼の頭部に直撃し大きく狼が吹き飛んだ。
英斗はその隙を逃さず斧を再度狼の頭部に振り下ろし止めを刺した。
「やっぱ、土じゃ無理かあ……」
狼を倒し、再び体が熱くなる。レベルアップである。
「レベル6かな、これで。何が変わったのか確認するか」
もはや恒例の石チェック。石のサイズは直径50㎝を超えもはや岩とも言えた。
「土で壁作れないかな?」
英斗は手を地面につけ、土で壁を作るようイメージする。すると1mほどの土壁が生まれる。
「もう少しレベルアップすると、立派な壁も作れそうだな」
英斗がイメージすると、しっかりした鉄製のクナイが手に生成される。
「これでちゃんとした武器が作れるようになったな。ナイフもできないかねえ」
イメージすると、刃渡り5㎝程の小さなナイフが生成された。
「うーん……もう少しだな。それにしても狼にかまれたところ大丈夫かな」
できるだけ厚着にしたものの、大した意味はなく、腕には狼の歯形がはっきり残っていた。
「これ病気にならないかなあ……とりあえず消毒しとくか」
消毒液を掛け、きれいなタオルを巻く。
その後も1日かけてゴブリン20体、狼2匹を討伐し、再びレベルアップが起こった。
「よしっ!」
再び石を生成すると、80㎝近い石が形成される。土の壁を地面から生み出すと、今度は180cm程の壁が生み出される。
そして、ついに今持ってるものと同じような刃渡り15㎝程のナイフの生成に成功した。
「よし、これで武器不足から解消されるぞ! それにこれで人間が生み出した物も『万物創造』なら作れることがわかったぞ!」
レベルを上げれば、銃も作れるかもしれないと英斗は感じていた。英斗は『万物創造』の可能性を感じた。
「だが、回復役の仲間が欲しいなー。ヒール無しでの戦闘はやっぱきついな」
英斗は怪我をした左手を見ながら呟く。
「ナナ待ってるしとりあえず帰るか」
そう言うと、英斗は自宅に帰り早めに眠りについた。
朝起きると、英斗は手から水を出しペットボトルに入れる。
「地味に水出し放題なのは強いなあ。ちゃんと飲めるみたいだし」
そういいながらナナの皿にも水を生み出す。
ナナは昨日より成長している気がする。
「犬じゃないのかもしれないなあ……まあかわいいからいいんだけど」
ナナを撫でた後、ナナに伝える。
「今日はオークと戦ってくる。あいつを倒せるようになったら安定して食料が手に入ると思うんだ、待っててくれるかい?」
「ワフー!!」
ナナはお肉を思い浮かべているのか、尻尾を振っている。
「いってくるよ」
レベルアップと共に回復力もあがっているのか、昨日噛まれた怪我はだいぶん治っていた。徐々に人間をやめている気がしたが、相手はファンタジー世界の生き物であるので、こちらも人間を辞めないと勝てないということなのかもしれない。
今日のオーク戦は自分の総力で挑むつもりだ。いつもの市街地のはずれに向かう。
町を歩いていると、SOSの垂れ幕を立てた家がたくさんあった。おそらく自衛隊や警察の助けを期待しているのだろう。
警察官は何度も見たが、自衛隊は今何をしてるんだろうなあ、と英斗はぼんやりと考えていた。オークを倒した後は、一度警察署に向かい、情報収集をしてもよいのかもしれないな、と考えていると、大きな建物の前で、大学生と中年達がもめていた。
「お前たちここら中から食べ物集めてるだろう! 私たちにもよこしなさいよ!」
「ここに入れてくれ! 家は豚の化物に壊されたんだ!」
中年達が大学生の集団に詰めよっている。どうやら大学生たちは集団で頑丈そうな建物に立て籠っているようで、中年達はそれに便乗しようとしているらしい。
「これは俺たちが命がけで集めたもんだ! お前らは警察署に行けばいいだろう!」
大学生が吠える。
「警察署の配給じゃ足りないのよ!」
「それが目上の者への態度か!」
と爺さんが怒鳴っていた。
すると、大学生の集団から、1人の金髪の美女が現れた。大きな黒い瞳に、赤く整った唇、肌は陶器のように透き通っており凛とした雰囲気を纏ってきた。
「皆様には食料を分けるつもりも、ここに入れるつもりもありません。お帰りください」
その美女ははっきりと言い放つ。
「助け合いといいますが、それは助ける側が言うセリフで助けられる側が言うセリフではありません。皆様もスキルをお持ちでしょう。そのスキルを使いオークなり狩って食料を得るか、自ら探してください。私はここの代表としてあなたたちのために命を懸けろと、彼らに言うつもりはありません」
美女はそう続けた。
「ぐぅ……なんて失礼な奴らじゃ、行くぞ!」
爺さんは怒りを隠さずにその場を離れる。
「あんたら、覚えてなさいよ!」
中年達は捨て台詞を吐き立ち去っていった。
「ありがとうございます、結花さん」
大学生が照れながら言う。
「いいのよ、あれくらいはっきり言わなきゃだめよあいつらには。これは私達空手部の物だからね」
どうやらあの美女は結花というらしかった。
「さすが主将、惚れちゃいます!」
と背の低い女の子が結花に抱き着く。
「A班は今日も5人組でオークを狩りに行くぞ。B班は水を探しに行ってもらう」
結花はきびきびと皆に指令を出していた。彼らは空手部で全員面識があったのか中々の強い結束があるみたいである。
英斗にはそれが少し羨ましかった。英斗は彼らのやり取りを見た後静かにその場を立ち去った。