中野の守護者
それから30分ほど、奇跡的にまだ2階まで魔物達は到達していなかった。裏口を守っていたクランがこれ以上の侵入を許さなかったのも大きかった。亀井を馬鹿にしていた2人組も再度戦闘に参加している。
だが、中野区に更なる苦難が降りかかる。正面入口が突破されたのだ。
「す、すまない……」
そう震えながら呟く榊。長らく止めていたNo.2が遂にハイオーガに敗北し、突破されたのだ。ハイオーガも長期戦でぼろぼろであったが、まだ動けるのか1階まで踏み込んできた。
「ハ、ハイオーガだーーー!」
中を守っていた者達も大声をあげる。諦め、膝をつく者すらいた。血だらけではあるものの、未だに武威衰えぬ姿に、皆尻込みをする。
だが、そんな中1人、前に進み出る者が居た。亀井である。
「榊さん、援護頼みます」
「援護って、お前もうボロボロだろう……。もうポーションすら効かないって聞いたぞ」
亀井は、怪我をしてはポーションと治療師により回復し、1階を防衛していた。遂にポーションすら効かなくなったのだ。
「もう、あいつと戦えそうなのは僕しか居ない。それに奴を通すわけにはいかないでしょう」
「……そうだな。分かった。もう魔力も無い。おそらくバリアは1回だけだ。奴の頭部を狙え。先ほどうちの者が斬りつけていて、怪我をしている」
ハイオーガの頭部には、剣で斬りつけられた痕があった。No.2の最後っ屁ともいえる一撃である。
「分かりました。行きます!」
そう言って、亀井はハイオーガの下へ駆ける。亀井は長期戦は無理と感じ、短期決戦で決める予定だった。
亀井はハイオーガの双剣を躱し、相手の近くに潜り込むと、負傷している右足を斬りつける。深くまで入ったことによりハイオーガが膝をつく。
ここが勝負所だと思った亀井は渾身の力で振りかぶる。だが、ハイオーガは右手の剣を離すと、亀井の胸倉を掴んだ。
「ぐっ! 離せ! 」
左手の剣を振りかぶり、亀井を襲う。だが、その瞬間榊のバリアが振り下ろす手元に展開させる。その手はバリアにぶつかり勢いが止まる。だが、捕まった状態がどうにかなったわけではない。
すると、右からハンマーが飛来し、亀井を掴んでいる腕に当たる。それは先ほど亀井が助けた男の精一杯の手助けだった。
「あ、当たった……」
その衝撃により手の力が緩む。この隙を逃すはずも無く、亀井は全身全霊の力を込めハイオーガの頭部に斧を降り下ろした。
その一撃は既に負傷していたハイオーガを仕留めるには十分であり、ハイオーガは静かに崩れ落ちた。
「ハイオーガを討ち取ったぞーー!」
周囲の者は皆歓喜の叫びをあげる。
「まだ、終わってはいない! だが敵の親玉は亀井が仕留めた! このまま戦うんだ!」
榊は大声を上げる。
これにより活力を得た中野ギルドは防衛を続けた。そして遂に魔物達の様子が変わる。英斗が白豪鬼を倒すまで防衛に成功したのだ。
魔物達の殺気は鳴りを潜め、少しずつどこかへ逃げていった。
「ま、魔物達が逃げていく! 俺達は勝ったんだー!」
皆は大喜びで抱き合う。中野区を守り切ったのである。
「貴方……! 無理して」
そう言いながら、亀井を抱き寄せるナターリア。
「何度でも無理をするさ」
亀井は疲れながらも笑みを浮かべる。その様子を見ていた亀井を馬鹿にしていた2人組はナターリアの美しさに目を奪われつつも、謝罪をしようと近づく。
「おい、今は放っておいてやれ。夫婦の水入らずを邪魔するものではない」
榊が2人を止める。
「確かにそうですね。すみません」
「なに、心配しなくてもこれからいつでも会えるさ。もうあの2人は立派な中野ギルドの一員だからな」
榊はそう言って笑った。
この日中野ギルドの戦闘員は100人以上が負傷し、何十人もの犠牲者が出た。非戦闘員も同程度の犠牲が出ていた。だが、彼らは折れること無くその後も復興に邁進し、発展を遂げる。
次回エピローグで4章は終了です。エピローグは短いので、10時頃に投稿します。