全ては貴方のために
亜梨紗が練馬区の仲間と共に逃げていると、凛が現れる。凛はすぐさま亜梨紗に近づき尋ねる。
「あんた……邪魔してないでしょうね?」
「ご……ごめんなさい」
亜梨紗は泣きながら凛に謝る。凛は頭に血が上りながらも胸倉を掴み怒鳴る。
「何をした!?」
「私の攻撃全く効かなくて……あいつに襲われてあの人が庇って……。あの人の剣も折れて、斬られちゃった」
亜梨紗は目を拭いながらたどたどしく報告する。
「ふざけるな! 自己満足の自殺なら構わないが、他人を巻き込むな! 月城さんが死んだら私がお前を殺してやる!」
凛は亜梨紗の首が締まりそうになる程力を込めながら激昂して言う。
「すみません、お嬢さんも気が動転してて」
傷だらけの男が庇う。
「ふざけるな! お前たちも同罪だ。お前達ではあいつに勝てないことは百も承知だっただろう。自殺は勝手だが、こちらを巻き込むな」
凛はガトリング銃を向け、男に言う。練馬区の者達は何も言い返せず、ただばつの悪い顔をして立っていた。
「月城さん……どうかご無事で」
凛は祈るような気持ちで呟いた。
英斗の逃げ込んだビルは会社のオフィスであった。そこら中に壊れたデスクと書類が散乱しており、水浸しになっている。
白豪鬼は水に不快さを感じながら、室内に入り込む。書類を踏みつけながら英斗に近づく。
「お前の死に場所はこんなところでいいのか?」
白豪鬼は静かに英斗に尋ねる。
「追い詰めたと思ったか?」
英斗はそう言うとデスクの上に乗り、地面に渾身の電撃を放つ。床を濡らしている水溶液を通りその電撃が白豪鬼に刺さる。
「グゥッ!」
想像を超えた電撃に、白豪鬼の動きが止まった。
次の瞬間、英斗は予め生み出していたバリアで密閉されている水素を開放する。英斗は全力で部屋から逃げた後、バリアを消すことで室内があっという間に水素で充満する。英斗は逃げ続け距離を取りつつも、室内に火の玉を投げ込む。
すると見たことも無いような凄まじい爆発が起こった。その爆風により英斗まで吹き飛ばされてしまうほどである。
同時にその爆発により柱につけておいたダイナマイトが誘爆する。柱を全て破壊されたビルはそのまま倒壊した。
ビルは10階を超える高層ビルであり、映画のラストシーンのようなとてつもない迫力である。倒壊による白豪鬼へ降りかかる質量は凄まじいものであったはずだ。
だがレベルアップの現象が起こらない。そのため、まだ白豪鬼は生きていると英斗は考えた。
「これだけ準備したのに、なんてタフさだ」
英斗は予め、塩化水溶液を大量に生み出し床を濡らしつつ、水素を大量に生み出し爆発の準備を整えていた。更にビル倒壊をさせるためにダイナマイトまで準備していたのである。
全ては白豪鬼を仕留めるために英斗が時間をかけ、用意していた渾身の仕込みである。
英斗は再度自動人形を4体生み出すと、青ポーションを2本程飲み魔力を回復させる。
その後翼を生やすと、真上に飛翔する。英斗が上空50m程まで到達した時、瓦礫の山からボロボロになった白豪鬼が這い出して来る。
「……あの小僧やはり何か仕込んで……おったか」
小規模とはいえ水素爆発を食らっても死んでいないのは流石S級と言えるだろう。白豪鬼はあたりを見渡すも、そこに英斗の姿は無い。
「奴め……また何か仕込んでおるな」
白豪鬼は警戒心をむき出しにして、刀を握る。すると、4体の自動人形が瓦礫の中から現れる。
また爆発か、と一瞬頭をよぎるも白豪鬼は4体の自動人形を一閃する。だが、爆発はしない代わりに、壊れた体から植物の太い蔦が生み出され白豪鬼に絡みつく。既に弱っている白豪鬼はそれをほどくのに時間がかかっていた。
英斗はその頃、上空で巨大な直径7m程の鉄塊を生み出していた。
「その自動人形 は動きを止めることがメインでは無い。座標だ」
英斗は呟く。英斗は自ら生み出した物の場所や、状態を把握できる。それにより自動人形が絡みついている先にこそ白豪鬼が居る事が分かる。
「ここまで高いと、中々下が把握できなくてな。さよなら、白き武者よ」
そう言って、鉄塊を落下させる。50mの高さから落とされた鉄塊が速度を上げ白豪鬼に迫る。
上から落ちてくる鉄塊に、白豪鬼は気付くも今から回避出来るほど体力は残っていなかった。
「やはり誘いに乗った事が間違いだったか」
白豪鬼は最後にそう呟くと、鉄塊に押し潰された。