守護神ナナ様
葵がリッチを狩りに行っている間、残りのメンバーも確かに力を尽くして魔物を止めていた。だが、ハイオーガが現れたのである。
東側でハイオーガとまともに戦える者は葵しか居なかったのである。だが、葵はリッチを仕留めるため東門付近を離れていた。だが、それを責めるのは酷な話であった。リッチを仕留めなくとも東側は近いうちに陥落していたであろう。そして1人でリッチとハイオーガを止められる者はここには殆ど居なかった。
「この音、何かあったにゃ!?」
葵は猫化し、いっきに校舎へと戻る。
一方、屋上に居た者達もあの轟音に気づく。
「いったい何が!?」
「もしかして校舎まで魔物が侵入してきたのか?」
一同はパニックに陥る。実際には既に蟻達が侵入しているが、まだそのことをユートは黙っていた。
「まずい……蟻が既におるのに、更にオーガ達まで入ってきたら終わりや」
ユートはダイナマイトでハイオーガを攻撃するか、考えた。だが、それでハイオーガを倒せるほど甘くないし、空いた穴自体は塞がらない。ユートがダイナマイトを持った自らの手を見ると僅かに震えていた。
その時、1匹の銀狼が颯爽と北門側から現れる。ナナである。ナナは東西南北全ての場所を守護していた。その速さと強さを活かし、押されている箇所をその牙で救っていた。ナナは先ほどの轟音で東門が危ういことを察し、北門側から急いでやってきたのである。
「あれはナナちゃん……確かに強そうやけど、ハイオーガも倒せるんか?」
ユートはナナに命運を託すことを決める。
ハイオーガは強敵が現れたことを察し、校舎から目を離しナナに向き合う。ナナは氷壁を校舎の穴部分に生み出し、補強する。ここから侵入されたらまずいことを知っているからだ。ナナが氷壁を生み出した隙に、ハイオーガが迫る。
ハイオーガは自らの長剣を水平に振るう。それを軽い跳躍で躱すと、地面を凍らせて足場を封じる。だが、ハイオーガは魔力を込めた足で地面をたたき割る。その衝撃で氷が砕け散る。ナナは驚きつつも氷壁を生み出し、ハイオーガの視界から逃れる。
ハイオーガはその拳で氷壁を砕くと、目の前にいるナナを叩き斬る。だが、その体から血が出ることは無かった。その体は氷で生み出した精巧な偽物であったからだ。
ナナは英斗の戦いを見て育っていたため、通常では覚えないような技術を身に着けていた。だが、勿論本来の牙と爪が衰えたわけではない。全力の魔力で、吹雪を起こす。
ハイオーガの体が一瞬で凍り付くも、なんとか耐えつつナナを探す。だが、その視界は最悪である。吹雪いている状態で銀狼を探すことは中々に困難であった。
次の瞬間、ナナの牙がハイオーガの首に突き刺さる。そのままナナはハイオーガを地面に叩き付けた。ハイオーガはその一撃で絶命したようであった。
「おおー! 流石ギルマスの相棒!」
ハイオーガに怯えてつつも東門を守っていた者達が歓声を上げる。
「た、助かった……あそこが破られたら厳しかった。流石やでナナちゃん」
そう言って、ユートは緊張が途切れたのか、腰を下ろす。
「まあ、蟻達は解決してへんのやけど……ナナちゃん! 中に蟻が入っとるんやなんとかならへん?」
ユートは屋上からナナに声をかける。状況を察したナナは、穴の埋めた氷壁を更に厚くした後、正面玄関から校舎に入り蟻退治に向かう。
ナナはその速さを活かした遊撃でこそ輝くことは、ユートも気づいている。だが他に戦闘魔蟻を倒せる者は空いていなかった。
そして、屋上から数々の魔物を打ち落としていた凛も下の危機的状況には気付いていた。
「ナナちゃんが居るから大丈夫だと思ったけど、良かったわ」
凛は既に2体のワイバーン、10を超える蜂型の魔物「イエロービー」を仕留めていた。空いた時間は下の援護を行っており、密かな功労者と言えるだろう。
屋上の人達の混乱もナナのお陰で落ち着いており、胸を撫でおろしたところで気付く。練馬区から来た避難民が全員消えていることに。
「まさか……敵討ちに!?」
英斗の戦闘の邪魔になる可能性を考える。周囲を見渡すもどこにも彼らの姿は見当たらない。屋上に居る人たちに話を聞くと、
「さっき、北側から出ていくのが見えたよ」
その言葉を聞き、確信する。
「上の魔物は全て片付けました。私は今から月城さんの援護に行ってきます」
ユートにそう声をかけるやいなや、凛は屋上から飛び降り英斗の元へ向かった。