突破
「やっぱ遅かったか……!」
ユートは額にかいた汗を拭いながら、1階まで駆けおりる。1階に降りると、そこには穴が開いておりそこから戦闘魔蟻が何体も校舎内に侵入していた。その穴から続々と現れる。先ほど悲鳴を上げた女性は既に戦闘魔蟻に襲われた後であった。
周囲を観察すると、既に何人も襲われた後であった。殆どの非戦闘員は屋上にいる。屋上まで戦闘魔蟻がたどり着くのは何としても阻止しなければいけなかった。
ユートは正面の階段の爆破を考える。これにより侵入時間を大幅に稼げるはずである。だが、外で戦っているギルドメンバーが戻ってきた場合も同様に時間がかかってしまう。
「許してくれ……」
そう言うと、ユートはダイナマイトを穴に投げ込む。爆発音と共に、穴が一時的に塞がる。すぐさま連れてきた男と共に階段を上がると、2階への階段も爆破する。
「大丈夫か?」
男は心配そうに言う。
「全部の階段は落とさへん。けどここ止めないと一気に屋上まで流れ込んでまう。そうなったら俺達は皆終わる。おそらくあの蟻は10体じゃきかん」
正確な数は把握できなかったが、50ほどいるのでは、とユートは考えていた。時間稼ぎをしつつも前衛を張っている者を少し内部に入れるよう考える。
屋上に上がったユートは、周りを見渡す。
「東門もやばいな……。美馬さんが頑張ってはるけどやはり一人の力じゃ厳しい……」
どこも厳しいことが分かる。数の差が思ったより出てるのだ。トップ層が多くの魔物を仕留めているとはいえ限界がある。
同様のことを弦一も気づいていた。
「おい、東門がやべえ。お前ら10人程東門に向かって援護してきてくれ。無理はしないでいい」
弦一の指示に、アツシが言葉を挟む。
「大丈夫か、弦一。こちらも余裕があるわけじゃないぞ?」
「どこか一つでも完全に破られたら厳しい。それに……アニキに任されたんだ。ここは絶対に死守する」
そう言った弦一の下には、黒炎により燃え尽きた赤牛頭鬼が居た。
「そうか、まあここはまだ余裕があるからな」
アツシは弦一の覚悟を感じたのか、そう言って10人ほどを東門へ向かわせた。
「お前ら、怪我を負ったら下がれ。絶対死ぬんじゃねえぞ」
そう言って、弦一は黒炎を魔物達に乱射する。黒炎は触れることで広がり、魔物達は次々と倒れていった。我羅照羅の守る北門に余裕があるのは、黒炎の殲滅力故であった。
東側は確かに苦しい状況にあった。
葵は魔物を切り裂きながらも、リッチの元へ向かっていた。まだ、リッチも自らが狙われている事を理解し、護衛の魔物を周囲に固めていた。
「多すぎるにゃ……」
強いとはいえ、一騎当千とは言えない葵は徐々に傷だらけになっていく。
「けど、結花さんから任されちゃったから、あいつは仕留めないと」
リッチの火の玉が放たれるも、葵はその跳躍を使い、蹴り飛ばす。足が焼けるもなんとか弾き飛ばす。あの火の玉により塀を複数破壊されると東側は陥落してしまう。
目の前まで近づくも、オーガとオークの群れにより守られている。
「そこを……どけ!」
葵がその蹴りでオーガを吹き飛ばすも、オークの槍が腹部に刺さる。だが、そのまま踏みとどまった葵は跳躍すると、オークに踵落としを決める。
腹部には大怪我を追い、血まみれの葵が遂にリッチの目の前までたどり着く。
リッチは氷の槍を生み出し、葵に放つ。葵は素早い動きで躱すと、その爪でリッチの首を切り裂いた。リッチの眼窩から光が消える。
「きついにゃー……」
葵は倒れ込みたい気持ちを抑え、すぐさま撤退する。ここは敵陣の中だからである。葵が戻っている途中に校舎側から何かが破壊された轟音が響いた。
「ああああ! 校舎の壁が!」
東側を守っていた男から悲鳴が上がった。