下からの脅威
四方八方から魔物が押し寄せる中、レベル10以下の人達は屋上で戦いの行方を見守っていた。 一方、恐怖から見てられない者や、1人で逃げるのは怖いけど隠れたい者は校舎内に潜んでいた。
完全に魔物達の侵攻を門付近で止めることはできず、少しずつ魔物が校舎付近にも現れる。魔物達は窓は鉄で塞いであるので侵入できないが、壁に攻撃を加え穴を開けようと試みる。
すると野菜売りのおばちゃんこと畑山や、事務長の花田が教室からあらかじめ持ってきていた鉄製の掃除用具入れを屋上から落とす。その威力は中々のもので壁に攻撃をしていたオークを一撃で沈黙させた。
「あんたら、彼等に戦わせてここで震えているだけじゃ未来なんてないよ! できることやんな! どの道彼等が死んだら、私達も死ぬんだ! 机でも椅子でもいい。なんでも持ってきて少しでも援護すんだよ!」
畑山が叫ぶ。彼女はスキルも知られている。戦闘用スキルを持たない彼女の言葉だからこそ皆の心に刺さった。
「はい!」
そう返事すると皆は教室に行き、持ってきた椅子や机を校内に侵入しようとする魔物に投げつけ始める。
オークレベルだと仕留めることは難しくとも、ゴブリンやコボルトなら仕留めることは可能であった。
「あんたら、絶対に味方に当てるんじゃないよ! 周りに人が居ない時のみ投げな!」
畑山は肝っ玉母さんの様に皆に激を飛ばす。大人子供皆順番に教室から様々な物を取っては落下させる。
「これは……私も頑張らねば月城さんに叱られちゃいますね」
そう言って凛はロケットランチャーを生み出すと、上を飛び回り機会を窺っているワイバーンに撃ち込む。
爆発音と共にワイバーンが地上に落ちる。
「よっしゃ、地上に落ちたらこっちのもんよ!」
地上に落ちたワイバーンを、ギルドの者達が襲う。しばらくしてワイバーンは動かなくなった。
南門を守っているのは、クラン『青犬』を中心としたギルドメンバーである。人数は5人といえ精鋭と言われている青犬の面々達は、魔物達を粉砕し周囲のギルドメンバー達を驚かせた。
だがその中でも圧倒的武力を誇っていたのはクランマスターである尾形朋である。
「あはは、血が滾るなぁ」
尾形は人狼の如き容貌に変わっていた。2足歩行をしつつも顔も体も狼である。だが、その素早さと爪の破壊力が群を抜いていた。
塀を越え敵陣に突っ込むと、その手の一振りで何匹もの魔物を葬る。そのうえ狼の脚力で縦横無尽に駆け巡り、魔物達は尾形の捕捉すら容易ではなかった。
「ワオオオオオオオオオオオン!」
尾形の咆哮に魔物達の動きが一瞬止まる。尾形は左手を巨大化させ、その大きな爪で一斉に魔物達を刈り取る。
「狼の爪」
尾形のスキルは『狼』である。数百の死体を積み上げた尾形は、塀の上に飛び乗り休憩する。
「ここは立ち入り禁止だ」
尾形は笑う。
青犬の中でも1人戦えない男が居た。関西弁の男ユートである。彼は下に降りず屋上で、その耳と状況把握能力を生かし、全体を見渡していた。
「今のところは順調や。まだ校舎には侵入すらされてへん。あの怪物はお兄さんが連れてってくれたし」
そう言って周りを見渡していると、一階から音がする。現時点ではどこも校舎は破られていない。一瞬、隠れている杉並区民かと思ったが、何かを掘るような音が聞こえるのだ。
ユートのスキル『耳』は遠くの音が聞こえるのは勿論のこと、最大の強みはその聞き分けにあった。
「まさか……! そこの剣士さん、一緒に来て! もしかしたらやばいかもしれへん!」
「えっ、何かあったのか?」
少数だが、非戦闘民を守るため戦闘できるギルドメンバーを屋上にも配置していた。その男を連れ、階段を下る。
「キャー!」
2階まで降りた所で、1階から女性の悲鳴が上がった。