始まり
「……くだらん真似を」
白豪鬼は腕組みをしながら呟く。今のビル倒壊だけで1000を超える僕を失ったのだ。白豪鬼は先ほどゴーレムを生み出した男の仕業だと察していた。
魔物の大群は驚きつつもその足を止めることなく侵攻を続ける。大群は校舎を囲むように移動し始める。
弦一は軽い足取りで北側の塀に飛び乗ると、禍々しい黒炎をその両手に纏わせる。その掌を敵に向けながら重ねるとそこから四方八方に黒炎が放たれる。
「グギャアア!」
黒炎に触れた魔物達は、皆消えぬ黒炎にパニックに陥る。近くの魔物が受けた黒炎に触れることで伝染病の如く瞬く間に黒炎が広がっている。
弦一は右手を頭上に翳し、巨大な黒炎の球を生み出す。そのサイズは英斗に用いた物よりは小さいものの直径4mもあった。
弦一は北に集まる魔物の中心部に黒炎球を放つ。
「あれは消えぬ地獄の炎か……。あれをこんなところでみるとはな。厄介なものを」
白豪鬼は左側に刺した日本刀を握る。白豪鬼の魔力が刀に集中する。次の瞬間、人の目ではおよそ追えぬような神速の如き速さで刀が抜かれる。
「断炎斬」
その斬撃は巨大な黒炎球は真っ二つに切り裂くも、勢い止まることなく弦一に向かう。弦一はその斬撃の鋭さ、速さ、全てに死の予感を感じた。
英斗は白豪鬼が刀に手を当てた瞬間から危険を感じ、翼を生やし弦一の所に全力で飛び立った。
「危ねえ!」
英斗はその斬撃が弦一に届く直前に、ハイオーガの長剣でその斬撃を受け止める。
「お……おも」
その一撃は重くはじき返すことは到底叶わず、なんとか斬撃を逸らすことが精一杯であった。一撃受けただけで長剣の刃が少し欠けたことがその威力を物語っていた。
「アニキ……ありがとうございます。迷惑かけました」
「すまないな、弦一。俺があいつを相手すると言ったのに、お前にまで刃が向いてしまった。俺はあいつに掛かり切りになる。こっちは任せていいか?」
「勿論です! 必ずこっちは俺が守りきります」
「ありがとうな、弦一」
英斗は弦一に礼を言うと、飛び立つ。英斗は白豪鬼の頭上に移動すると、炎を纏った鉄の槍『炎鉄槍』を5本生み出すと、奴に向けて放つ。
白豪鬼は刀を抜くと、高速で剣を振るい、全ての槍を弾きとばす。その1槍は近くのビルまで弾き飛ばされ、ビルを大きく抉る。白豪鬼は手に痺れを感じながらも英斗に目を向ける。
「やはりお前が長か」
白豪鬼が英斗に尋ねる。
「そうだよ。やっぱり話せるのか。高位の魔物は皆言語を操るからな。おとなしく練馬区に帰ってくれない?」
「練馬区がどこかは知らんが、帰るわけなかろう。我らは貴様らの血を求めておる」
「後悔するぞ」
「人風情が調子に乗るなよ?」
白豪鬼が口を歪めると同時に英斗はガトリング銃を生み出し連射する。だが、白豪鬼の肉体相手では殆ど効いてないようだ。
「剣士相手だから、遠距離なら大丈夫と思っているのなら、愚かと言わざるを得んな」
そう言った白豪鬼が再び刀に手を当てると、黒き魔力が刀に充満する。白豪鬼がその刃を抜くと、黒き閃光のような一瞬の光と共に、稲妻の如き斬撃が放たれる。
英斗はかろうじて回避する。
なんとか白豪鬼を校舎から引き離したい英斗は、校舎と逆方向に飛びつつ自動人形を生み出し白豪鬼の邪魔をする。
「逃げながらもこちらを攻撃し始めたか……。誘いのようにも見えるが……先に雑魚共を仕留めるべきか?」
白豪鬼は英斗の誘いに乗って追うべきか、先に校舎を攻め入るべきか考える。前方の校舎を先に攻めるか、と前を向くと、何かが放たれた音がした。
次の瞬間、白豪鬼が爆発する。英斗からロケット弾が放たれたのである。なんとか手で受け止めた白豪鬼であるが、焼けた掌を見つめている白豪鬼の眉間には大きく皺が寄り、頭に血が上っている。
しかも複数の5m級のゴーレムが放たれ、軍勢の背後を襲っていた。
「おい、お前にここの指揮を任せる。俺はあの愚か者を殺しに行く」
白豪鬼は僕である赤牛頭鬼に話しかける。赤牛頭鬼はただ頭を垂れながら主の言葉に耳を貸す。
伝えきった後は、部下を押しのけながら逃げながらゴーレムを放つ英斗を追いかけていった。