私の騎士
一方その頃、亀井はいつものように斧を使い、オークを仕留めていた。
「これで、2匹。1匹はギルドに持っていこうかね」
オークを2体とも両手で担ぐと、更にもう1匹が前方から現れる。
「またか。今日はかなり多いな」
そう言って、もう1匹仕留めたところで異常に気付く。大量の魔物が迫ってきていることに。異常事態に気づいた亀井はオークをその場に放置し、家に全速力で戻ると、扉を大慌てで開ける。息を切らせている亀井にナターリアは話しかける。
「どうしたの貴方? そんなに急いで」
「リア、今すぐ逃げるんだ! もう大量の魔物がそこまで来ている。スタンピードだ!」
亀井のその剣幕に、事の重大さを感じとったナターリアは動き始める。護身用に槍を持ち外に出る。
「分かったわ。貴方も早く逃げましょう!」
「ナターリア、今すぐ君は逃げろ。今からじゃもう普通に逃げては間に合わない。僕は時間を稼ぐ」
亀井はもう1本の斧を取り出し、外に出るともう100m以内に大量の魔物が押し寄せてきていた。その数は100ではきかなかった。
「嫌よ! 一緒に逃げましょうよ!」
「駄目だ! 早くいけ! お前まで死にたいのか! 俺に君を守らせてくれ」
そう言って、ナターリアの背中を押す。ナターリアは悩む素振りをみせつつも亀井の真剣な顔を見て、全力で走り出す。
「それでいい。ここは通さんぞ、絶対にな」
亀井はそう言うと群れに突撃し、その斧を水平に振るう。その一閃でいくつもの魔物の首が宙に舞い、亀井の顔に返り血が飛ぶ。そのまま、斧を鬼神の如き迫力で振り回す。何十体もの魔物を仕留めた。
魔物達は亀井により侵攻が一時的に止まり、亀井を倒すべき敵と認定する。その中からオーガが前に出ると、その拳を振るう。
亀井はその一撃を躱し、その腕を切り裂き、背中からもう1本の斧を出しその斧で頭に振り下ろす。オーガを仕留めるも、その隙にオークの槍が腹部に刺さる。
「ぐっ! ……舐めるなァ!」
そのオークを一閃で切り裂くと、両手の斧を構える。だが、宙から蜂型の魔物「イエロービー」が複数襲い掛かる。斧でねじ伏せるも、そのうちの一体の針が右腕に刺さる。激痛で斧を落とすと、その隙に、ホブゴブリン、ハイオークが襲い掛かる。
ハイオークの大剣を斧で受け止めるも吹き飛ばされ、倒れ込む。亀井はすぐさま起き上がろうと、首を上げるも目の前にはハイオークが大剣を振り上げている。
「時間は稼げたかな?」
亀井は笑う。
ハイオークが大剣を振り下ろす瞬間、ナターリアの槍がハイオークの腕を刺す。その痛みのせいか大剣は亀井に当たることなく空を切った。
「リア、なんで戻ってきたんだ!」
突然現れたナターリアに、亀井は命拾いした喜びよりもナターリアが死地に戻ってきた驚きが勝り、大声を上げる。
「私は貴方が居ない世界で生きようなんて思っていませんよ? ずっと一緒にいてくれるんでしょう?」
ナターリアは笑う。
「それは、そうだが……」
そう言って、苦い顔をしながら亀井は斧を振るい、ハイオークの首を切り裂く。
「なら最後まで一緒に生きましょう」
そう言って、ナターリアは槍を振るい、ホブゴブリンの喉元を貫く。ナターリアは戦闘用の人形ではない。普通の女性よりは強くともオークにも敵わないレベルである。
それでも僕は君にだけでも生きてほしかったよ、という言葉を亀井は飲み込んだ。ナターリアの覚悟を見たからである。
もはや自分にできることは1匹でも多くの魔物を屠りナターリアを守ることだと思った亀井は、腫れあがった右腕に斧を持つ。
亀井はその両手の斧でオーク達を切り裂く。多勢に無勢であり、切り裂いては他の魔物からの攻撃を受ける。ナターリアも槍を持ち亀井の後ろを守る。
だが、亀井は決して倒れない。傷だらけの体を動かし魔物達を一閃する。徐々に魔物達は血だらけになりつつも倒れず斧を振るう亀井に恐怖を抱いてきた。
足の止まった魔物達を亀井は刈り取る。気づけば、亀井の周りの魔物は全滅していた。とっくに限界を超えていた亀井は倒れ込む。
「貴方!」
すぐさま、倒れた亀井に駆け寄ると抱きしめる。
「大丈夫かい、リア」
「うん……」
「早く逃げないと……」
亀井が話しかけるも、ナターリアは魔物達がやってきた方角を見つめていた。嫌な予感がした亀井がそちらを向くと、魔物達の第二陣がすぐそこまでやってきていた。
「まだ居たのか……」
動こうとするも体が上手く動かない。
第二陣の先陣を切っているホブゴブリンが二人の目の前まで現れる。亀井に向けて棍棒を振り下ろされ、それを庇ったナターリアが倒れ込む。
「アア!」
ナターリアの顔にはひびが入っていた。
「リア!」
なんとか体を動かしホブゴブリンを切り裂くも、背後からの攻撃を受け亀井もバランスを崩す。
「ぐっ……すまない、ナターリア」
亀井は戦闘用スキルが欲しいとは決して思わない。ナターリアの居ない人生など彼に必要なく、彼女との日々が幸せで後悔などないからだ。
「けどやはり君を守れたら、って思うよ」
そう言って、亀井はナターリアの頬に触れる。
「何言ってるの? あなたのような格好いい騎士、世界中のどこ探しても居ないわよ」
そう言ってナターリアも笑いながら、亀井の頬に触れる。
「そう言われたら、最後まで良いとこ見せないとな」
そう言って、ナターリアを庇うような体勢を取る。既に魔物達は武器を構えている。その武器は静かに振り下ろされた。