白き将
ナナに乗って5分で魔物達の行進による砂煙が見えてきた。あと30分もすれば校舎にたどり着くだろう。
英斗は、ビルの屋上に移動し群れを観察する。
「あいつが群れの長だな」
群れの後方に一匹禍々しい雰囲気を漂わせる鬼が居る。オーガ四体に担がせた神輿のような物の椅子に堂々と座っている。オーガジェネラルでもなく、英斗も見たこと無い魔物である。
『白豪鬼 S級
ハイオーガが進化時、突然変異により誕生した個体。人と変わらぬ知性に、異常な膂力と極められた武術を兼ね備えた武人』
体格はむしろハイオーガよりも小さいが、禍々しい一本角と、白い皮膚が特徴であった。腰には1本の日本刀のようなものを差している。白豪鬼は英斗の視線にも気づいているようで部下の槍を取ると、その剛腕で放つ。
その槍は音を超えるような速度で、英斗の元へやってきた。圧倒的死の匂いを感じた英斗はその場から跳び避ける。
その槍は勢いやむこと無く、後ろの建物をいくつも貫通し飛び続けた。 あの一撃は防げない、そう感じた英斗は久々の強敵に汗をかく。
白豪鬼は僅かに頬を上げると、そのまま英斗から目を逸らすと大声を上げる。
「ゴオオオオオオオオオオオオオ!」
その大声を聞き全ての魔物の目に殺意が宿り、前進し始める。
「オーガが言うことを聞くのは分かるが、なぜ他の魔物までここまで統率がとれる? そういうスキルか? 高レベルの魔物なら持っていてもおかしくはないが……」
英斗は思考し始めるもすぐ切り替える。今はそれを考えている場合ではない。
「少しでも数を減らそうかね。ゴーレム!」
英斗は鉄製の全身10m超のゴーレムを生み出すと、そのまま群れに突っ込ませる。
魔物達は突如現れた巨大な人工物に驚くもその牙や剣を向ける。だがゴーレムはものともせずに、魔物達を蹂躙する。
英斗は他の負担を減らすため、A級魔物を中心に攻撃させる。赤大鬼 やオークジェネラルはそう簡単に仕留めることもできなかったが、ゴーレムの一撃で1体の赤大鬼を沈める。
白豪鬼は多くの魔物を仕留められ、侵攻の足が止まっていることに気づく。白豪鬼は部下の頭の上に乗り、踏みつつも驚くべき速度でゴーレムに近づくと、その刀を振るう。
大気が揺れたかのような音と共に、ゴーレムが斜めに斬り裂かれる。轟音と共に、ゴーレムの上半身が地面に落ちた。
だが、ゴーレムの動きは止まらない。それに気づいた白豪鬼は拳を振るう。その一撃で残った下半身は全て粉々に散ってしまった。
破壊されてしまったもののゴーレムは1000体近い魔物を葬った。十分な戦果と言えよう。
「やっぱりあのレベルには効かないわな……」
英斗は今ここで奴と戦うか考える。だが、流石にこの数の差では厳しいと考え踵を返した。
英斗は校舎に戻ると青ポーションを飲み魔力を回復させる。
「少し戦ったんですね。どうでしたか」
凛が英斗の元へ駆け寄ってくる。
「1000体ほど減らした」
「1000体も!? スケールが大きいですね」
凛は感心している。
「だが1体、強い奴がいる。あいつは俺が戦わなきゃきつそうだ」
「そんな強い奴が?」
「ドラゴンレベルだ」
「なるほど……私も援護しますか?」
「遠距離で且つ攻撃力を持つスキルは貴重だ。皆おそらく校庭に降りて魔物と戦うことになる。凛には上から襲ってくる魔物の排除を頼みたい」
「分かりました。必ずや頭上の魔物を殲滅いたします」
凛と話していると、練馬区から避難してきた亜梨紗 が英斗の元へ現れる。
「私も戦わせて。あの白いオーガは父の仇なの。私の手で……!」
少女は目を腫らせながらも、怒りのこもった口調で言う。
「君のレベルは?」
「……10」
「気持ちは分かる。だが残念ながら、そのレベルではあいつに近づくことすらできないだろう。君のお父さんも無謀な挑戦は望んでないと思う」
英斗のその言葉を聞き、亜梨紗は怒鳴る。
「あんたに父の何が分かる!」
そう言って、去っていった。
「しまったな、言い方を間違ったか」
「ですが、おそらく挑んだところで無駄死にです。はっきり言った方が身のためです」
凛は冷ややかに言う。
「まだ若い。あまり無理はしないといいが。凛、これから少し仕込みをしてくるよ。この戦いは個人の武力も勿論大事だと思うけど、皆が勝てる! となるようにやる気を出さないといけないと思うんだ」
そう言って、英斗は近くのビルへ向かう。
『えいと、わたしどうしたらいい?』
英斗がビル内で仕込みとしていると、ナナが首をかしげながら尋ねてくる。
「ナナは、悪いが校舎全体を守って、負けてそうな人達を守ってやってくれないか? おそらく他人を気にする余裕ある人は少ないと思うんだ。速く、強いナナにしかできないんだ」
『わかった!』
「だけど、勝てそうにないのが来たら絶対逃げるんだよ? ナナの命が一番大事だ」
『はーい』
本当はナナと別行動などしたくない英斗であるが、東西南北どこも見渡し、素早く救援に向かえるものはナナしか居ない。断腸の思いでの頼みであった。
そして徐々に魔物の軍勢による地響きが聞こえ砂埃が見える。決戦の時は近い。