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地獄が音を立ててやってくる

「練馬区は最近新ダンジョンができたらしいんです。それを隠して一部の者だけで利用していたんですが、そこから魔物が溢れてきて気づいた時にはもう止めきれず区全体が魔物の群れに吞まれたようです」


「ダンジョンって魔物が穴から出てくるの? 世田谷ダンジョンではそんなこと一度も聞いたことないぞ?」


 英斗は練馬ギルドの欲の深さに呆れつつも、初めてのケースに驚きを隠せない。おそらくこの間の見張りも知らなかったのだろう。


「正直ダンジョンの仕組みなんて何も解明されてないですからおかしくもないですよ」


「まあな。だが対処を誤ると大変な事になりそうだ。杉並ギルドに加入している全てのクランを呼んでくれ。もしかしたら総力戦になるかもしれない。すまないが我羅照羅のメンバーを使って、戦闘能力の無い人たちをギルド周辺に呼んでくれ。嫌がる人は呼ばなくていい」


「分かりました。今すぐ動きます」


 弦一はそう言うとメンバーを動かすため、我羅照羅本部に向かっていった。


『えいと、まものいっぱいくるの?』


「どれくらいの規模かはまだ分からないけどな。すぐギルドへ向かう」


『はーい』


 英斗がギルドに向かうと既に少しパニックになっていた。英斗の姿を見ると、安心したのか花田が手を振ってくる。


「英斗さんの心配が残念ながら的中してしまいました」


「みたいですね。魔物の群れの規模は?」


「不明です……。ですが話を聞く限り1000以上は確実に。詳しい状況はこの子から聞いただけなので」


 そう言って花田が目を向けた先には、高校生くらいの女の子が泣きはらした顔で座っていた。黒髪ショートボブで、少し年より幼いように感じた。丸顔で、大きく綺麗な瞳に、小さい鼻をしていた。


「彼女は練馬ギルドマスターの娘のようで犬飼(いぬかい)亜梨紗(ありさ)と言うようです。どうやら父はスタンピードで……」


 亜梨紗は今回の騒動で親を失ったらしい。こんな世界では親族が生きている方が珍しいとは言え、すぐさますべて話せというのは中々酷である。


「そうですか。俺が直接調べに向かいます。花田さんは、区民が来たらギルド内に入れてあげてください。そして戦える者を集めてください」


「了解です」


「月城さん、私も一緒に向かいます」


 そう声を上げたのは、凛である。


「凛には他に頼みたいことがある。おそらくこっちに魔物が流れ込んでくるように、中野区にも魔物が流れる可能性が高い。もうあちらも気づいているかもしれないが、念のために榊さんにこのことを伝えてほしい。あとこれも渡しておいて」


 そう言って、英斗は10本ずつ赤、青ポーション(中)と手紙を書き凛に手渡す。


「分かりました。すぐ戻ってまいります」


「頼んだよ、凛は立派な戦力だからね」


 英斗は笑顔でそう言った。


「もう、調子がいいですね」


 そう言いながらも凛は嬉しそうに榊の所へ向かっていった。


「ナナ、行こうか」


「ワウッ!」




 英斗はギルドを出ると、すぐさま練馬区へ向かう。だが、練馬区まで向かう必要はなかった。もう魔物達は区の境目にまで来ていたからだ。


 英斗はビルを上り屋上から魔物達を眺める。


「これは……1万体以上はいそうだな」


 膨大な魔物が杉並区に向けて行進していた。ただのゴブリンから、オーク、オーガ、アンデッドなど様々である。ゴブリンとコボルトで5000匹ほど。オークが1000体ほど。オーガは200体と言ったところである。残りはアンデッドや昆虫系の魔物、そしてホブゴブリンやハイオークなどの進化種も混じっていた。

 合計で13000ほどいそうだが、ところどころ別行動している集団もある。様々な場所を襲っているようだ。

 一方、杉並区には数万人ほどが生活している。だが、ギルドに出入りしており戦える者は1000人ちょいといったところだ。

 戦える者はギルドに所属せず、独自で生きている者も多い。


「これは練馬区が滅びるのも納得の状況だな」


 英斗はすぐさまギルドに踵を返した。これからのために。


 ギルドに戻ると、我羅照羅、青犬、極真会といった大きなクランから、小さなクランまで多くの者が集まっていた。


 既に魔物の大群がこちらに迫っていることは広まっているらしい。


「これはかなりやばい状況みたいだな」


 青犬クランマスターの尾形が英斗に声をかける。いつもより真剣な声色がより緊張感を増させていた。


「かなりな。数はおそらく1万以上。防衛戦になる。1人でオーガを仕留められるほどの者はどれくらいいる?」


 英斗の声を聞き、手を挙げた者は20人ほど。ちなみに青犬はユート以外全員が手を挙げている。ここの人材を中心に戦略を練らねばならない。


「おそらく後1時間ほどでここにたどり着く。それまでに皆準備を整えてくれ」


「おい! 俺は戦うなんて言ってねえぞ! 1万もいるって話じゃねえか。冗談じゃねえよ!」


 ある小さなクランの男が声を張り上げる。そうだそうだ、と同意の声も少し聞こえる。


「そう言う人が居るのも当然だ。別に逃げてくれて構わない。ここに残るのは、残りたい人だけでいい。こんな世の中だ、皆自分のしたいようにしてくれ」


 英斗ははっきりとそう告げる。花田は、あんた何言ってるんだ!? という顔で英斗を見ていた。


「だが、逃げてもここが陥落したらそこまで魔物が流れる可能性はある。ここの方が人が多いから、なんとかなる可能性もある。俺は皆に生きてほしいと思っている。だから危なかったら逃げてもいい」


 そうは言いつつも、やはり逃げる方が安全だろうなと英斗は思っていた。我ながらやはり余計な役職に就いたものだ、と自嘲する。


「だが、いつまでも魔物が来るたびに逃げるだけでいいのか? とも思っている。今度こそ魔物から、自らの居場所を勝ち取るべきではないか? とな。ともに戦ってくれる者は俺と一緒に覚悟を決めてくれ。自らの居場所を守るためにな」


 英斗の言葉を聞き、静寂が支配する。そんな中、弦一が拍手をする。その拍手を聞き我羅照羅のメンバーも皆手を叩く。


「おい、お前ら! いつまでも魔物にびびってばかりいるんじゃねえ! アニキがいるんだ。必ずこの戦は勝てる! 今度こそ、人間の強さを見せてやろうじゃねえか!」


 弦一の大きな叱咤に、皆武器を持ち、叫ぶ。


 「「「オー!」」」


 覚悟を決めた者は大声で自らを鼓舞した。防衛戦の始まりである。

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