小さな異変
ギルドに入ると、受付嬢の女の子が挨拶をしてくれる。
「あっ、月城さん。こんにちは!」
最近少しずつ増える事務に対応するため花田は受付嬢を雇ったのだ。
「お久しぶりです」
「花田さんですか、今呼んできますね」
そう言うと、笑顔で花田を呼びに裏へ向かう。事務長の花田が裏からやってきた。
「ギルマス、お疲れ様です。どうかされましたか?」
英斗はギルドマスターという職に就いてはいるものの、そこまで仕事は無いので普段はあまりギルドに出入りしている訳ではない。
「いや、中野区の人に最近、練馬区側、北からの魔物が増えていると聞いたのですが。何かそういう報告とか来てませんか?」
「そうですねー、ちょっと最近の依頼見てみますね」
そう言うと、花田は依頼の紙を捲る。
「うーん、確かに少し北側の依頼が増えていますね……。練馬区の人が魔物を南に追いやってるんですかね?」
「分かりません。少し練馬区を見てきます」
「お願いします」
英斗はナナに乗り練馬区へ向かう。15分ほどで練馬区に入る。確かに南側より少し魔物が多い気がする。
原因を探るために、廃墟となっている街中を走っていると、頭上から声がかかる。
「おい、どこの区の者だ! 何しに練馬区に来た?」
どうやらビルの上から見張りをしていたのだろう。ビルの屋上から少しずつ降りてくる。
「杉並区の者です」
「今更観光というわけでもあるまい。移住希望者か?」
「最近、そちらからの魔物が増えている気がして調査に参りました。何かご存じでしょうか?」
「いや何も知らんな。気のせいだろう、早く帰るがいい」
男は顔色も変えず、何も知らないと言い放つ。
「そうですか……。俺は杉並ギルドのマスターです。杉並区の市民を守るために、情報を集めています。本当に何も無いんですね?」
英斗は地位を使い、なんとか聞き出そうとする。地位というほどの権力はないが。
「言いがかりはやめてもらおう。何かあった場合、こちらのマスターから連絡がいくだろう。おとなしく帰るといい。ギルマスが無断侵入なんて抗争かと勘違いされるぞ」
見張りの言うことも尤もである。立場とは便利にもなるが、不便なものだなあ、と英斗は考える。
「分かりました。何かあった場合報告をお願いします」
そう言って、英斗は練馬区を去る。あの男の視界から消えた後、別の場所から練馬区に侵入するのは容易であろう。だが、現時点ではそこまでの危機かも不明であったので英斗達はおとなしく杉並区に引き返した。
次の日、英斗は崩壊した杉並区の図書館に来ていた。建物は半壊しており、雨ざらしになっている本すらある状態である。穴の開いている部分にコンクリートを生み出し補修し、倒れた本棚を元に戻す。
「あるかな……? あったあった!」
英斗が探していた書物は、化学に関する書物であった。レベルも上がり生み出せるものが増えた英斗は、バリエーションを増やすために知識を得ようと考えたのである。
「武器大全とかもいいんだけど、精密な武器はやはり実物みたり触ったりしないと難しいんだよなあ」
英斗は現在、拳銃や、ガトリング銃は既に生み出すことは可能である。凛から最近見せてもらったロケットランチャーも生成に成功した。それを凛に伝えると、ずるい、と頬を膨らませていた。
良さそうな本をいくつか頂いて、ギルドへ昨日の報告に向かう。
「月城さん、何か分かりましたか?」
花田が尋ねる。
「正直あまり分かりませんでした。現状は北側を警戒するくらいしかできないですね」
「そうですか。ギルドの方で北側への警戒を促しておきますね」
「頼みます。そう言えば、うちって今どれくらい人いるんですか?」
「小さいクランやソロを入れて1000人くらいです」
「ソロでオーク狩れるくらいの人はどれくらいいそうですか?」
「うーん……100人も居ないと思いますよ。ずいぶん警戒してますね」
「一応な」
ギルドは北側への警戒を強めるよう、杉並区民に通知する。