東京情勢
食後凛と別れ、駅前を歩いていると今日の新聞が配られていた。お代に魔石を箱に入れ新聞を読む。
『中央ギルド新マスターに圧倒的カリスマの戦姫就任』
英斗が一面を読んだ限りどうやら最近中央ギルドは魔物に前マスターが殺され混乱していたところを、何処かから来た女の子が皆をまとめ上げ、その魔物を討伐したらしい。
そのカリスマ性でそのまま新マスターにまでなってしまうとは中々のシンデレラストーリーである。
『千葉の少女、ドラゴンをテイムか!?』
千葉県にいる少女が、スキル『調教師』でもないのに、ドラゴンを育てているらしい。そのドラゴンはとても強く現在そこの守り神のようになっているようである。
英斗は自分がナナを育てていることもあり、この少女も小さい頃からドラゴンを育てていたのかな、と考えていた。
「あれ、私達の新聞読んでくれてるみたいですねー」
新聞を読んでいる英斗に声をかけてきたのは、新聞記者宍戸洋である。
「はい。こんな何の情報も得られない状況じゃ助かります」
「こういう状況の時こそジャーナリストが輝くわけですよ」
宍戸は胸を張る。
「確かに。ジャーナリストは活動してるのに、今政府って何してるんでしょうね。結局自衛隊もまだ全然見てないんですが」
「政府は完全に壊滅状態ね。霞が関の主要施設は地割れと、巨樹で完全に潰されたみたい。自衛隊も同様。政府の施設や、自衛隊の施設に生えていた巨樹は、普通の建物に生えてきた木よりも遥かに大きかったわ……。まるでその建物を狙って生えてきたみたいに」
「まるで日本の機能を止めるために生えたみたいですね……」
「そうなの。だけど、同時にスキルという力も与えている。いったいどういうことなんでしょう。この謎、必ず私が暴いてみせるわ!」
「俺も分かる限りで調べてみます」
「期待してるわ。私には戦闘能力は無いから、できないことも多いのよ。そういえば自衛隊は全てが滅んだわけではないわ、勿論だけど。確か品川ギルドのナンバーワンクランは自衛隊のはず」
「まあー、彼らは素の戦闘能力は俺達よりはるかに上だし、おかしくないですね」
英斗はそう言いつつも、自衛隊は市民を守りながら戦っていたのならば、生き残る確率ははるかに低いだろうと考えていた。逃げるという行動ができないのは大きなハンデであるからだ。
「政府高官は軒並み死んでいるっぽいのよね。まあ、彼らは逃げ足が異常に速いので全滅は無いでしょうけどね」
「どんなことしても生きそうですもんね。話は変わるんですが宍戸さん、ある男を探してるんです。30代くらいのサングラスをかけた黒い短髪で顎髭の生えた男です」
英斗は米谷の情報を集めようと、尋ねる。
「いや、いくらなんでもその情報じゃ無理よ」
「異常に強いです。ドラゴンをソロで余裕で討伐できるくらい。おそらく肉体強化系のスキルを持ち素手で戦っていて、戦闘中は体が黒よりの紫色になります」
「うーん、申し訳ないけど、分からないわ。だけど、ドラゴンをソロで討伐できそうな人って限られていると思うわ。江戸川区に1人、渋谷ギルドに1人、肉弾戦で強い人が居たはず。あ、素手ではないけど強いと言えば江東ギルドマスターもめちゃくちゃ強かったような! どれも男性ね」
「そんなにいるんですか。1つ1つ回るしか無いのかねえ……ありがとうございます」
「その聞き方から何かあったんでしょうけど、それほど強いならかなり危険よ。あまり無理はしないでね」
「ありがとうございます、ですが、こればかりは引けないんですよ……」
英斗は覚悟を決めた顔で答える。それを見て宍戸はそれ以上言うことを止める。
「そうですか、まあこんな世の中ですから止めませんが、ご武運を。ではでは」
そう言って宍戸は新たなスクープを探しに行く。 英斗は気づいていなかったが、新聞の裏面に小さく英斗の名前が載っていたのである。
『杉並ギルドにようやくギルドマスターが!?』
という見出しに、英斗の名前が載っていた。その後色々な人に新聞デビューについて、冷やかされることになる。
『あのおとこ、なかなかみつかりそうにないね』
ナナが言う。
「何、いつか必ずどこかで会うさ。そう言えば今日中野区に新しい種を渡しに行く日だった。行こうか」
『はーい』
そして英斗はナナに乗って中野区へ向かった。