閑話 組手
英斗が駅で野菜を買った後ぶらぶらしてると、この間見た猫耳が目に入る。
「あれ、月城さんだにゃー。元気かにゃ? この間はお肉ありがとうにゃー。いつものわんちゃんはどうしたにゃ?」
猫耳男の娘である美馬葵が元気に手を振っていた。
「まあ、ぼちぼちね。喜んでいただけたようでなにより。ナナは家で寝てるよ」
「残念にゃ。今日はなにしてるのかにゃ?」
「野菜を買いに来たんだ」
「なるほど。もう終わったならこの間言ってた極真会に来ないかにゃ? たまには人相手に汗流すのもいいと思うにゃ~」
葵が尋ねてくる。英斗は悩んだが、暇なら行くと言った手前断り辛い。
「俺は武術なんてしたことないから何もできんぞ?」
「別に構わないにゃ~。他の者にもいい刺激になるにゃ」
そう言って、英斗は葵に連れていかれ、極真会の施設へ向かった。
極真会の施設は前から空手の道場だったのだろう、畳が引かれておりそこには多くの門下生がお互いに戦い汗を流してきた。
「結花さん、そこでギルマスを拾ったにゃ」
葵は結花の元へ向かうと、英斗を紹介する。
「ギルマス、極真会へようこそ。今は皆鍛錬中だから後で紹介しよう」
「ありがとうございます、結花さん」
「なに構わないさ、これからもお世話になるだろうからな」
そう言って、結花は歯を見せて笑う。
「せっかくだから、組手でもするにゃ?」
「……そうですね、お願いします」
葵はその言葉を聞き、英斗にグローブを渡す。
「では私が審判をしようか。時間は3分。相手を死に至らしめるような行為は禁止だ。勿論スキルもな」
普通の組手との一番の違いはスキルの禁止であろう。2人は距離を取り、お互いの定位置に着く。極真会No.2とも言える葵と英斗の試合は皆も興味があったのか徐々に人が集まり始める。
「では……始め!」
結花と言葉と同時に先手を切ったのは葵であった。猫のバネを活かした俊敏さはレベルの高い英斗をも驚かせた。
一瞬で間合いを詰めると、跳躍し踵落としを放つ。英斗はその手で受け止めるも、腕が痺れた。
すぐさま右ストレートを放つも、既に葵は範囲外まで移動していた。
「おいおい、もはやスキルだろうあの動きは」
英斗がぼやく。動物系スキルの特徴はやはり純粋な身体能力が強化されることであろう。猫と聞くと可愛いイメージが強いが、その瞬発力は高く体高の5倍程の高さまで跳ぶことができると言われている。
「徒手空拳にゃ」
そう言って、正拳突きを繰り出してくる。英斗も攻撃を受けながら、蹴りを放つ。葵はその蹴りに左手を乗せるとそのまま跳びあがり英斗の真上まで跳ねる。
真上から連続で蹴りを放ってくる。その鋭い蹴りを全て躱すことはできず、一発貰うも、英斗は自ら後ろで跳んだ。
「おお~! すげえ試合だ!」
周りの者から歓声が上がる。
「あれは自ら下がることでダメージを減らしたな」
結花はその試合を冷静に分析していた。
「全然きいてないにゃあ」
「いやいや、その瞬発力には敵いませんよ」
そう言って、英斗は走り距離を詰める。葵は英斗にあわせカウンターで左回し蹴りを放つ。英斗は一歩下がり蹴りを避けると、右正拳突きを繰り出す。だが、葵はそれを腕で受ける。
中々決定打にかけると感じた英斗は勝負をかける。一足飛びに葵に接近すると、葵の鋭い蹴りが何発も放たれる。完全に躱すのは不可能と感じた英斗は、急所を避けつつもそのまま受けつつ近づく。すると葵の拳による連打が高速で放たれる。
英斗は痛みに耐えつつも近づき、葵の道着の胸元を掴む。だが、それを予想していた葵の右中段蹴りが英斗に刺さる。
「入った!?」
周りが声を上げる。だが、その蹴りを英斗は手で防いでいた。
「レベルの上がった恩恵はこのタフさだな」
英斗はそう言うと、そのままボディーブローを葵の腹部に撃ち込んだ。葵はそのまま倒れ込む。
「やめっ! 技あり!」
結花は試合を止め、右手を上げる。その後は、葵の蹴りが英斗の腹部に刺さり、技ありと見なされ、引き分けで終わった。
終わりと共に極真会の皆は拍手で2人を称えた。
「流石に強いにゃ~。僕の蹴りをこれだけ止められるのは他には結花さんくらいにゃ」
「レベルによる身体能力だけで言うと俺の方が相当強いはずなんですけどねえ」
「レベル50はありそうな身体能力だったにゃ」
「秘密です」
そう言って、英斗は笑う。
「月城さんは確かに対人戦も強いな。だが、やはり身体能力のごり押しになりがちだった。たまにはうちで空手を習っても良いかもしれないぞ。うちはいつでも歓迎だ」
結花は笑顔で言う。
「ありがとうございます!」
「ギルマス、格闘も強いんですねー!」
そう言って、極真会のメンバー達も英斗に声をかけてくる。ギルドマスターという役職ではあるが、普段ギルドに所属している人と関わっていないのでこの機会にと英斗は皆と話すことにした。
しばらく極真会の人達と話した後、座り込む。
「人気者だな、月城さん」
結花がニンマリしながら言う。
「皆、良い人ですね」
「ああ。私はそんな彼等を守りたいのだ……。こんな世界だからこそな」
そう言った結花の横顔は慈愛に満ち溢れており、そんな彼女だからこそ皆がついていくんだろうと英斗は思った。
その後、何人かと軽く組手をした後、英斗は極真会を後にした。自宅に帰るとナナがどこへ行ってたんだと、少し拗ねていたのでドラゴンステーキをさっそく献上することになった。
閑話は今日で終了です。皆様の応援のお陰で無事3章も終わり、明日から4章に入ります。
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