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僕の、僕たちの英雄

英斗が杉並区に帰るともう夜であったが、駅前の広場では小さな祭りが催されていた。


「やっと主役の登場じゃないか! ほらあんたのためにとびっきりの料理を手配しておいたんだ! 少し待ちな」


 野菜売りのおばちゃんこと畑山が笑顔で肩を組んできた。その後すぐ、食事を持ってくる。綺麗な皿にはオーク肉を丁寧に調理したステーキに、野菜が添えられており、ご飯も並々盛られている。


「今日の英雄はあんたさね。狐亭の料理長に作って貰ったのさ。肉はハイオークの肉だから美味いよ! お酒も飲みな!」


 狐亭とは杉並区において未だに営業している珍しい定食屋である。『料理(クッキング)』のスキルを持つ料理長が自分で獲ってきた食べ物や入荷した物で営業している。

 感謝の意を述べた後、ステーキに齧り付く。熱い肉汁が口の中に溢れる。どうやら英斗の姿を見てから焼いたらしい。

 ナナの分もあるらしく、ステーキに齧り付いている。

 英斗が食べていると、助けられた者達が一人一人感謝の言葉を伝えるために現れる。


「本当に助かりました。このまま俺達どうなるんだろう、って思ってましたから。尾形さんに聞きました、あちらのマスターと戦ってくれたとも……本当にありがとうございます!」


 青年が頭を下げる。


「本当に迷惑をかけたのう、助かったわい、もうあのまま死んでしまうかと」


 お爺さんも泣きながら頭を下げていた。 親族を助けられた人達からも続々と感謝の言葉とお礼の品を渡される。


「ここまで言われると、なんか照れるな」


「それほどのことをあんたはしたってわけさ! 私の命の恩人でもある、なにかあったら力を貸すよ。皆あんたを新しいギルドマスターとして認めてる」


 畑山は英斗の背中を何度も叩く。中野区の襲撃で最近は駅前の市場も開けていなかったので、中野区襲撃を止めた英斗に皆が感謝していた。


『えいとすごい』


「ナナも凄いぞ~、よしよし」


 そう言って、ナナの顎を撫でていると、クラン『極真会』のマスター、結花が現れる。


「今回はお疲れ様。無事に皆を救ったようだな、流石だギルマス。こちらの襲撃もしっかり防いだぞ」


「ありがとう、西園寺さん」


「年上だろう、結花でいいさ」


「結花さん、助かりました」


「ハハ、まだ堅いな。事後処理についてはまた話そう。うちのメンバーも君と話したいらしい」


 そういって紹介されたのは肩くらいまで黒髪を伸ばした華奢な子である。


「急造メンバーをまとめ上げて、中野ギルド撃退とはやるにゃー!」


 年齢は18くらいだろうか、くりくりとしたかわいらしい大きな目をしておりお人形のような顔をしている。何よりの特徴は大きな猫耳と、尻尾である。


「月城さん、こんばんは! 私は極真会の美馬(みま)(あおい)ちゃんだにゃー! これからよろしくにゃ、マスター」


 そう言ってにっこり笑う葵。


「こちらこそ、よろしく美馬さん」


 英斗も内心驚きつつ、笑顔で返す。


「見とれてるとこ悪いけど、あの子男の子やで?」


 こっそりと見ていたユートが笑顔で英斗に告げる。


「えっ、そうなの?」


「やろ?俺も最初驚いたわ。今流行りの男の()ってやつや。勿論俺はどんな恋でも応援するけどね」


 ユートの言葉に驚く英斗。


「また暇ならうちの訓練場に来てほしいにゃ! お手合わせ願いたいにゃ!」


「暇ならね」


 絶対だよ、と言った葵は去っていった。


「もてもてやなー」


「馬鹿言え」


 ユートは酔っているのか、真っ赤な顔でニヤニヤしながらからかう。


「僕らは英雄みたいやねー、照れるで」


「楽しそうだな」


「こんな世界やからこそ楽しまな損やん? そして皆も英雄が欲しいんかもしれんで? 誰かがこの世界を救ってくれると……そんな人が出てほしいかもしれん」


「英雄か……俺は勇者にはなれんぞ」


「勇者って! けど人のために勇気を出して動く人はそれだけで勇者ちゃうんかな? ってあかん、何言うてるんやろ。久しぶりのお酒で酔ってるんかもしれんわ」


 ユートは笑いながら去っていった。


「酔いすぎだよ、ユート」


 英斗は静かに笑った。

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