事後交渉
「無事でよかったよ、如月さん」
英斗は凛を見つけて笑顔で駆け寄る。
「いやあ、思ったより苦戦したのでお恥ずかしい限りです」
「勝っただけでも凄いことだよ。これ着な。後、ポーション。怪我した部位に使うと良い」
そう言って英斗はコートとポーションを生み出し、凛に渡す。
「ありがとうございます。弦一君は加地の部下を全て倒した後、集合場所に向かったようです。我々も向かいますか?」
「ああ、行こうか」
そう言って、英斗達は空き家に向かう。既に空き家には皆が集合していた。
「あらら、そっちも終わったようやねー。こっちも皆助けたでー」
ユートが明るく言う。
「ああ、そちらも無事で何よりだ。だが、加地は小柳に殺された」
「ええ!? どういうことなん? 裏切り?」
「まだはっきりとは分からんが、黒幕がいる可能性が高い」
「えーまだ終わってへんの? 困るわ。加地のクランは壊滅したけど、中野区どうなるんやろな?」
「そこまで面倒は見切れん。No.2のクランが仕切るだろう」
「月城さん、それがだな。No.2クランの榊という人が我々を見逃してくれたんだ。こちらが悪いから、と言って。この後の責任も自分がとると部下に言っていたよ。俺はあの人なら中野区をまとめ、うちとも今後良い関係を築けるんじゃ、と思っている」
尾形が榊を今後の中野ギルドのマスターに推す。
「それはうちが決めることでもないんだが……いい人だと安心なのも確かだな。少し会ってみるか。青犬の人や、弦一達も今日はありがとう。連れ去られた人を連れてもう戻って休んでくれ」
英斗は皆に頭を下げる。英斗は榊と会うことを決めた。
「ああ、良い結果を期待しているよ」
そう言って、青犬達は去っていった。英斗とナナは榊の居る中野区の中心街に向かう。
「榊という人はいるか。俺は杉並ギルドマスターの月城という。今後について話し合いたい」
会った青年に尋ねると、一瞬武器を構えたがナナを見て武器を降ろす。訝しげな顔をした後、どこかへ消えていった。すぐに髪を一つ結びにした女性が現れる。
「榊だ。君が杉並ギルドのマスターか。君が来たということは加地は負けたか……。今回の事は誠に申し訳ない。謝って済む問題では無いが、これしかできない」
榊は深々と頭を下げる。
「貴方は悪くないとまで言うつもりはないが、仕方ない部分もあっただろう。大事なのはこれからだ。加地は小柳に殺された。奴のクランはほぼ壊滅だ。新たなギルドマスターが必要だろう。あんたがNo.2だったならば今度こそ手綱を握って良いギルドにしてほしい」
英斗からそう言われてどうすべきか悩んでいるようであった。
「資格が無い、は言い訳だな……。分かった、中野区が落ち着くまでは今度こそ私が責任を持ってまとめ上げる。これからそちらに迷惑をかけた者は厳しく処罰もする」
榊は覚悟を決めて、中野ギルドのマスターをすることを決めた。周りは誰一人反対しない。他に有力なクランも居ないのだろう。
「そうか、良くなることを祈る。そもそもの発端は食糧不足だろう、野菜の種や、種もみを渡す。栽培方法はこちらの詳しいものに聞くといい。育ちきるまでの食料も無ければ杉並区で迷惑にならない程度のオークの狩りも認めよう」
「そこまでしてもらうわけには――」
「君が耐えられても、他の市民が耐えられるとは限らない。衣食足りて礼節を知る。食べ物が無い人はどこまで堕ちるか分からない。こちらのためにもこちらの力を借りてでも生きるべきだ。だがそちらがごく潰しまで養うのなら、そこまで面倒は見切れないがな」
「……そうだな。ここは貴方の力を借りよう。すまない、世話になる。この恩は必ず返す」
榊は素直に折れた。ここに暫定的ながらも杉並中野トップ同士の交渉が成立した。
「では後日こちらに種等は持ってくる。詳しい話はまたそのときに」
そう言って英斗は中野区を去っていった。